5月18日にUEFAヨーロッパリーグ決勝が行われたセビージャで、開催の是非をめぐって世論が割れている。地元紙によるアンケートでは、開催をポジティブに評価する人が6割、その逆が4割となっている。
ホテルは埋まり、ビールは爆売れ
ポジティブな意見の理由は、もちろん経済効果。
市役所の試算によると、フランクフルトとレンジャーズのファンが市に落とした金額の総額は6000万ユーロ(約81億円)にも及ぶ。これは、例えば先月に同市で開催されたコパ・デルレイ決勝ベティスvsバレンシアの倍の金額であり、EURO2020でビルバオに替わって開催地となった際のそれとほぼ同額である。
海外からは観光を兼ねたファンが多く訪れる。今回はこのファイナルを理由に15万人の観光客が殺到したとされる。セビージャは世界的な観光名所だが、さすがに宿泊施設のキャパを超え、近隣の村のホテルも満杯で、車で1時間の距離にあるコルトバのホテルまで埋まった。
当然、彼らの大半はチケットを持っていない。
セビージャのホーム、サンチェス・ピスファンの収容人数4万3000人のところ、UEFAは警備上の理由で4万人に減らし、ここからUEFAが1万3000万枚を一般販売+スポンサー用に確保した。また、UEFAが両チームを通じてファンに用意したのは合わせて2万枚。一般販売分と合わせて3万枚が幸運なファンの手に渡った。その中には、ダフ屋に2300ユーロ(約31万円)を支払った者もいるらしい。
フランクフルトの会長が「ミッキーマウス用のスタジアム」と収容人数の少なさを皮肉った背景には、「現地に行けば何とかなるさ」とやって来た10万人以上があぶれたことがある。
わざわざやって来たのにチケットがない、となると、酒量は増えざるを得ない。
カテドラルやスペイン広場、旧市街など観光名所の周りはバルがところ狭しと並んでいるが、そのテラス席はアルコールで憂さを晴らそうとするファンで昼間から満員御礼。彼らが消費したビールの総量は、非公式だがこれまでの記録である2003年のEL決勝セルティックvsポルト階催時を上回ったとされる。試合当日は気温30度を超える暑さだったことも記録更新を後押しした。
「恥はかき捨て」というが…
一方、開催のネガティブな面は、大量の酔っ払いがもたらした騒音、喧嘩、立ち小便……。
「旅の恥はかき捨て」という言葉がある。自分たちの街ではないのだから何をやっても気にせず、お祭りだから許されるとも思っている。海外からの酔客の大騒ぎは欧州カップ戦では付き物なのだが、今回は両方海外のチームだったので、被害も倍になった。5人が逮捕され、保健当局は200回近い出動要請の電話を受けた。
セビージャの主な産業は観光である。
お金のためにはよそ者の無礼を我慢しなければならないことを市民は承知している。6割が開催賛成で4割が反対とは、結局そのくらいの比率で恩恵を受けた人と受けない人がいた、ということなのだろう。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。