選手やスタッフの敗戦後の私生活の過ごし方が議論を呼んでいる。イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドはUEFAチャンピオンズリーグ準々決勝のアトレティコ・マドリー戦で2戦合計1-2の敗戦を喫したが、その数日後にラルフ・ラングニック暫定監督が西インド諸島でクリケットの試合を観戦したのだ。
さらにFWマーカス・ラッシュフォードはドバイでボクシングを、オーナーの1人であるアブラム・グレイザーはF1のバーレーンGPを現地で観戦して話題になった。
派手な私生活に異論も
ユナイテッドは代表ウィークの影響もあり、3月15日のアトレティコ・マドリー戦から2週間半も試合が空いたため、選手や監督には束の間のオフが与えられた。それをどう過ごすかは自由なのだが、彼らの派手な私生活に異を唱える者もいた。
それがユナイテッドのOBで、現在は解説者として活躍するギャリー・ネビルである。ネビルはツイッターで古巣クラブを糾弾した。「ユナイテッドの選手や監督、役員は、ホームで引き分けただけでも地元のイタリアレストランに行けなかったはずだ。ヨーロッパから敗退した後なんて論外だ。それなのに今週はF1、コンサート、クリケット、UFCのイベントなど“世界ツアー”のようだった。こいつらは何も分かっていないようだ」
元アーセナルのナイジェル・ウィンターバーンも現役時代を振り返り、敗戦後は外出をためらったと話す。「なかなか結果を受け入れられなかった」とウィンターバーン。「妻に聞けばわかると思うが、何もやる気が起きず、誰かとの約束をキャンセルする週末が何度もあったよ」
では、敗戦後の外出は罪なのか? スポーツ専門サイト『The Athletic』が分析しているので紹介しよう。ネビルのツイートに対し、同じく元イングランド代表のギャリー・リネカーは「確かにイタリア料理屋には行かなかった。みんなパブで大酒を食らっていたからね」と皮肉のリツイートをしていた。
リネカーの「大酒」は言い過ぎだが、「アウェイゲームで勝てなかった時には地元のホテルに集まって少し酒を飲んだ」と『The Athletic』に証言するのは、1994年まで10年ほどマンチェスター・ユナイテッドでプレーしたクレイトン・ブラックモアだ。
同氏によると、ホームゲームの後もホテルに集まって飲んだというのだ。「必死で戦った後は家に帰っても寝られないのさ」とブラックモアは説明する。しかし、当時はスマホのカメラもSNSもなかった時代である。「誰にも何も言われなかった」と、ブラックモアは取り巻く環境の変化を指摘した。
正解は誰にもわからない
では、敗戦後の正しい行動とは何なのか。「収入は大きな要素だ。今の選手たちは夢のような大金を稼いでいる。だから、敗戦後にどう見られるかが大事になる」とウィンターバーンは説明する。しかし、本当に何が正しいかは彼にもわからないという。
「現役時代の自分が正しかったさえもわからない。私は約束をキャンセルして家族に迷惑をかけていたはずだ。だから『負けたら外出するな』と言い切ることはできない」
どうやら、何が正しいかは誰にもわからないようだが、敗戦後の私生活まで物議を醸しだすのが今のフットボール界なのだろう。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。