現在プレミアリーグで4位につけるアーセナルが、ミケル・アルテタ監督の下で進化を遂げている。
アーセナルは3月19日に行われたアストンビラ戦に1-0で勝利し、これでアウェイでのリーグ戦5連勝とし、6季ぶりのUEFAチャンピオンズリーグ出場権獲得に向けてまい進している。そんなアーセナルの好調の要因の1つがセットプレーにあるようだ。
「セットプレーは重要」
スポーツ情報サイト『The Athletic』によると、今季プレミアリーグでCKからの失点が一度もないのはアーセナルだけだという。PKを除いたセットプレーの得点数も11ゴールで、リバプール(15)、マンチェスター・シティ(13)に次いでリーグ3位。昨季の6得点(リーグ17位)から大幅に改善されたのだ。これまでパワープレーに弱いイメージのあったアーセナルに一体何が起きているのだろうか。
アーセナルは昨夏、セットプレーコーチのニコラ・ジョバーをマンチェスターCから連れてきており、同氏の指導によって攻守両面でセットプレーが改善されたという。フランス人コーチのジョバーは前述のアストンビラ戦でも存在感を発揮しており、試合終盤のセットプレーの守備の際には、アルテタ監督を差し置いてベンチから飛び出してきて選手たちに指示を送り、完封勝利に貢献したという。
ジョバーについてアルテタ監督は「ボトルを投げる、靴を磨く、指示を送る。何でもいいからチームの力になれる者は、誰だろうと自由に行動に移すまでだ」と語った。
「セットプレーは重要さ。すべての面で相手を上回ることが大事だしね。フットボールは今まで以上に複雑になっており、みんな様々な情報を持っている。だから我われは、どんなことでもいいから自分たちのアドバンテージにしたいんだ」
相手によって微調整
『The Athletic』によると、アーセナルのCKの守備は「マンマーク」と「ゾーンマーク」の融合で、対戦相手によっても守り方を変えるという。ニアポストに冨安健洋かアレクサンドル・ラカゼットを置き、その横にDFベン・ホワイトが構えるのは基本パターン。中央の守り方は対戦相手によって微調整しており、ウェストハムやバーンリーのような、狙いがはっきりとしていて空中戦に強いチームが相手の場合はマンマークをつける。
一方、それ以外のチームに対してはDFガブリエウがフリー気味に中央に君臨し、放り込まれたボールを跳ね返す。そのようにバリエーションを生かして守っており、今季ここまで132本のCKを与えながら無失点を誇っているのだ。「対戦相手がどう仕掛けてくるかによって、ゲームプランは毎試合のように変わってくる。そして、その日の出場する選手のクオリティを生かすためにも戦術をはめ込んでいくのさ」とアルテタは語る。
ジョバーはセットプレーの攻撃でもチームに貢献する。昨年10月のリーグカップ4回戦リーズ戦で、途中出場のDFカラム・チェンバーズがピッチに入って数秒後にCKからヘディングシュートで今季初ゴールを奪った。ゴール後にベンチに駆け寄って行ったチェンバーズは「ニコ(ジョバー)が最初のタッチでゴールを決めると予言してくれたのさ。だから彼の元に走って行ったんだ」と説明した。
日に日にチームの総合力が高まっている印象のアーセナルは、ジョバーという優秀な“セットプレー参謀”とともにトップ4確保を目指す。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。