実は経験者が多数。北京五輪で奮闘する「チームGB」のサッカー事情
連日熱戦が繰り広げられている北京五輪だが、イギリスは苦戦が続いている。
今大会に11競技50名のアスリートが参加しているチームGBは、大会12日目を終えてもいまだにメダルを獲れていない。惜しいチャンスもあったが、カーリング混合ダブルスでは3位決定戦でスウェーデンに敗れて4位。2021年の世界選手権で優勝していた女子スノーボードクロスのシャーロット・バンクスも、今大会は準々決勝で敗退しメダルを逃した。
4年前の平昌五輪で金メダルを獲得したスケルトンでも結果を残せておらず、このままでは1992年アルベールビル五輪以来となるメダル0個という結果になりかねない。最後の希望は、やはりカーリングだろうか。男子カーリングの英国チームは既に準決勝進出を決めており、前回大会の3位決定戦で日本に敗れて4位となった女子チームにもチャンスがある。
サッカーからウィンタースポーツに転向
そんなチームGBだが、フットボールの母国とあって出場選手たちの中にはサッカーと縁の深い選手がいる。ボブスレーに出場しているグレッグ・カケット(32歳)は、アメリカ・ジョージア州のラインハルト大学からサッカーの特待生として招かれたこともあるほどサッカーに打ち込んでいた。だが2010年にアイスランドの火山が噴火し、火山灰の影響で空路が麻痺してアメリカに渡れなかったため、大学進学を諦めたという。
そこで、英国に残ってサッカーの腕を磨くためにと始めていた陸上の短距離走に専念することに。そして陸上のイギリス代表に選ばれるまでになったが、相次ぐケガで結果が出せず、その脚力を生かしてボブスレーに転向。今回、平昌五輪に続いて2大会連続の出場を果たしたのだ。
同じくボブスレーのテイラー・ローレンス(25歳)は、子供の頃にクラブチームのアカデミーに所属するほど優秀なサッカー選手だったという。20歳で英国軍に入隊してからは海兵隊のチームでサッカーとラグビーをしていたところ、ボブスレー関係者の目に留まって2019年にボブスレーを始め、わずか3年でオリンピックの舞台まで駆け上がった。
フィギュアスケート・アイスダンスのルイス・ギブソン(27歳)も、子供の頃は熱心なサッカー少年だったという。スコットランドのキルマーノックの下部組織に所属していた兄の影響もあり、サッカー漬けの毎日だったが、アイススケートに出会い、その楽しさに夢中になったという。そして2006年に英国で放送された著名人がフィギュアスケートに挑戦する『ダンシング・オン・アイス』という番組で、元アーセナルのGKデイビッド・シーマンなどの演技を見て、本格的にフィギュアスケートを始めたという。オリンピック初出場となった今大会は、ライラ・フィアーとペア組んで10位に入った。
フィギュアスケートの女子シングルに出場したナターシャ・マッケイ(27歳)もフットボールに縁がある。スコットランドのダンディーで生まれたマッケイの叔父は、ダンディーFCでプレーした元プロ選手だという。ナターシャ自身は今回、初めて五輪に出場するも、ショートプログラムで28位となりフリープログラムには進めなかった。
チーム内でダービー勃発?
スノーボードクロスに出場しているヒュー・ナイティンゲール(20歳)も子供の頃はサッカーをしていたが、5歳でオーストリアに引っ越してからウィンタースポーツを始めた。15歳で本格的にスノーボードクロス競技に打ち込むようになったが、スノーボードの傍ら、地元のクラブ「SVヴェステンドルフ」のユースチームでサッカーも続けていたという。
女子スノーボードの2競技(スロープスタイル、ビッグエア)に出場したケイティー・オーメロッド(24歳)には自慢の弟がいる。それがブラッドフォード・シティの下部組織に所属していたハービー・オーメロッドだ。その弟が私立高校選抜のU-16イングランド代表チームに選出された際には、SNSに「自慢の弟」と写真をアップしていた。
そして期待が寄せられるカーリングだが、2月17日に行われる準決勝に進出が決まっているカーリング男子チームにはちょっとした問題がある。それがグラスゴーを拠点とするスコットランドの両雄、セルティックとレンジャーズのライバル関係だ。
カーリングの英国代表は1人を除いて全員がスコットランド出身。そのため、サッカーの話題になると大きな問題が生じる。男子代表のハミー・マクミラン(リード)とグラント・ハーディー(サードで副将)がレンジャーズのファンなのに対し、ボビー・ラミー(セカンド)は日本の4選手が活躍するセルティックのファンなのだ。
今季もグラスゴーの2強は熾烈な優勝争いを演じており、今月2日の直接対決では旗手怜央の2得点でセルティックが3-0と快勝した。幸いにも五輪期間中には両チームの対戦がないため、カーリング英国代表チームの和が乱れることはないと思うが、果たして――。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。