クラブ史上初のUEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメント進出を果たしたRBザルツブルク。ピッチ上の成功に加え、財政面においても欧州で戦える基盤が整い、次のステップへと進む準備を進めているようだ。地元ニュースサイト『Salzburg24』にスポーツディレクターのクリストフ・フロイントが答えている。
財政基盤が整い、慌てて売る必要なし
RBザルツブルクにとって、例年に比べて落ち着いた冬の移籍市場となった。その理由の1つがCLでグループステージを突破し、決勝トーナメントでバイエルンと戦えることだという。野心的な選手たちは、最高の舞台でのセンセーションを狙っている。フロイントは「前期の素晴らしい結果を受けて多くの選手がそのままチームに留まり、戦う意志を持っている」と説明する。
ブレンデン・アーロンソンがイングランド・プレミアリーグのリーズから2400万ユーロ(約32億円)のオファーを受けていたが、RBザルツブルクはそれを断っている。マリ代表のモハメド・カマラはアトレティコ・マドリー移籍の話が出ていたが、こちらも実現しなかった。
「過去数年間の成功、とりわけ移籍による収益のおかげで経済的な基盤を非常に安定させることができた。そのため、(選手を売却しなければならない)プレッシャーはそれほど大きくはない」とフロイントSD。クラブ史上初の挑戦に、ベストな状態で臨む意向だ。
目指すは欧州最高のU-23チーム
とはいえ、シーズン後に選手がチームを去ることは既定路線だ。ドイツ代表にも選ばれたカリム・アデイェミはドルトムント行きが濃厚とされている。右SBのラスムス・クリステンセンは、ローマのジョゼ・モウリーニョが強い関心を寄せているようだ。先に挙げたカマラとアーロンソンも複数クラブからオファーが届いており、移籍金が上がることはあっても、下がることはない。
クラブとして健全な経営基盤が整い、適切なタイミングで選手を放出できるようになった現在、RBザルツブルクの次なる目標は、現在の若手育成路線をさらに先鋭化させることだ。フロイントSDは「私たちに資金があるからといって、これまで行ってきた方法を変えることはない。それどころか、より徹底して推し進めるつもりだ。RBザルツブルクの将来的な目標は、欧州で最高のU-22ないしU-23チームを保有することだ」と明確な指針を示した。
33歳で歴史的快挙を果たしたマティアス・ヤイスレ監督も、その方針に異論はない。指揮官は2月9日の『シュポルトビルト』のインタビューの中でこう語っている。
「チームにいる選手たちとできるだけ長く仕事を続けたい」と前置きしながらも「選手たちがしっかりと成長し、次のキャリアにステップアップできるようにするのがRBザルツブルクのやり方だ。それは必ずしもネガティブなものではなく、次世代のタレントたちにとってはチャンスにもなる」
8年前の再現なるか
2月16日に行われるCL決勝トーナメント1st レグは、満員のレッドブル・アレーナにバイエルンを迎える。このスタジアムでは、8年前にペップ・グアルディオラ率いるバイエルンを3-0で破っている。プレシーズンとはいえ、RBザルツブルクの存在を世界的に知らしめる契機となった試合だ。クラブ史に残る一戦を迎える上で、これ以上の組み合わせはない。
アデイェミが「もちろん試合に勝ちたい。CLではすべてが起こり得る。バイエルンとの試合を楽しみにしている」と意気込めば、ヤイスレ監督も「自分たちのサッカーをピッチ上で実践し、バイエルンを苦しめるのが目標だ。それだけの野心は持っている。そのためには、勇気と自信が決定的な意味を持つ」と気後れした様子はない。
「欧州最高のU-23チーム」という新たな野心を抱えたRBザルツブルク。さらなる一歩を踏み出すために、満員の観客の前で再びセンセーションを狙う。
Photos: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。