コウチーニョのアストンビラへのレンタル移籍が決まり、注目はバルセロナと、6月に契約が切れるデンベレとの“綱引き”に絞られた。
へそを曲げたデンベレ
デンベレが契約更新で年俸を下げることは、新たに獲得したフェラン・トーレスの選手登録をするために不可欠なことと考えられていた。が、アストンビラがコウチーニョの年俸を半分負担することで、年俸キャップにフェラン分の空きが生まれた。これでクラブは急ぐ必要がなくなり、腰を落ち着けて交渉に入れる。
といっても、合意する可能性が極めて低いことは、バルセロナ系メディア『SPORT』がここ数日デンベレを「恩知らず」呼ばわりしていることでわかる。
交渉は暗礁に乗り上げている。
昨年末までは更新は「時間の問題」と言われていた。シャビ監督は「世界的クラックになれる」、ラポルタ会長も「私にとってはムバッペよりも上」と盛り上げた。が、フェランの獲得が発表されてからおかしくなかった。
移籍金5500万ユーロ(約72億円)の5年契約、年俸1100万ユーロ(約14億円)と聞いて「なんだ、お金はあるじゃないか」となり、フェランのポジションが右サイドで重なることも、デンベレがへそを曲げる原因になったと言われている。
バルセロナの反撃はあるか
各紙の報道によれば、現在のデンベレの要求は、年俸1500万ユーロ(現状1200万ユーロ)、契約更新ボーナス3000万ユーロ、代理人へのボーナス1500万ユーロという、到底応じられないもの。
この超強気な要求の裏には、契約終了まで半年を切って他クラブとの交渉が解禁になり、バイエルンへの移籍話が進んでいることがある。デンベレ側からすれば「年俸を下げてまで残る必要はない。新天地では年俸アップで契約ボーナスがもらえるし」というところであろう。
バルセロナ側には、冬の移籍市場で売るという選択肢もほぼ残っていない。
移籍情報サイト『Transfermarkt』によれば、デンベレの市場価値は3000万ユーロだが、半年後にタダになる選手にそれだけの金を払うクラブがあるとは思えない。4年半前に1億4000万ユーロを払って獲得した選手だが、かなりの値下げが必要だろう。
追い込まれたバルセロナにとって唯一の反撃材料は、プレーさせない、ということである。
今冬にはカタールW杯がある。契約更新に応じなければプレーさせず、W杯への道を閉ざすと脅して態度の変化を待つ。昨夏、契約更新を拒否したイライクス・モリバを干してRBライプツィヒ移籍を呑ませ、移籍金を回収した経験もある。
いずれにせよ、ラポルタ会長率いるフロントはあまりにイノセントだった。デンベレが契約更新にサインしてからフェランの獲得を発表すれば良かっただけの話ではないか、と思うのだ。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。