三笘薫が躍動。奇跡の優勝へ期待が高まるユニオン・サン・ジロワーズ
10月31日、日本人MF三笘薫が所属しているユニオン・サン・ジロワーズ(以下ユニオン)は、アウェイでヘントに勝利して4連勝を飾り、首位を堅持している。48年ぶりの1部リーグ昇格でありながら、アンデルレヒト、スタンダール・リエージュ、ヘントらの強豪を破って快進撃を続けるユニオンには、奇跡の優勝を期待する声も高まっている。
洗練された堅守速攻
昨季は他を寄せ付けず圧倒的な成績で2部を制し、48年ぶりの昇格を果たしたユニオン。イタリア系ベルギー人のフェリーチェ・マッズ監督が率いるチームは、昨季から継続しているシステム[3-5-2]を軸としながら、組織的なボール奪取と快足2トップをベースとした洗練された堅守速攻を武器としている。
原動力になっているのは、2トップのベルギー人FWダンテ・バンゼイルと、ドイツ人FWデニズ・ウンダブのコンビだ。ヘンクの下部組織出身で年代別代表にも選ばれていたバンゼイルは9得点5アシスト、ウンダブは8得点6アシストと早くも2桁得点が視野に入ってきている。抜群の俊足を誇るバンゼイルと、両足を器用に扱いポストプレーを得意とするウンダブの相性は抜群に良く、リーグ屈指の2トップと評されている。
そして、ユニオンのもう一つの武器は、リーグ最少失点を誇る守備陣だ。チームを率いるマッズ監督は、2013年からシャルルロワを6年率いて堅守速攻を浸透させ、残留争いが定位置だったチームを上位の常連に成長させた実績がある。2019年に就任したヘンクではわずか4カ月で解任の憂き目に遭ったが、2020年から率いるユニオンでは、自身の得意とするハードワークをベースとしたチームに磨きをかけ、完成度の高い堅守速攻を実現している。
チームキャプテンでマルタ代表のMFテディ・テウマ、デンマーク人MFキャスパー・ニールセンを中心とした中盤の守備陣は、リーグ屈指のボール奪取力を誇り、強力2トップへ最速でボールを供給する効率のいいフットボールを実現している。また、ルクセンブルク代表で正GKを務める守護神アントニー・モリスのビッグセーブも光っている。
左WBでレギュラーに定着した三笘
今年8月に川崎フロンターレからブライトンに完全移籍した三笘。今季は英国での労働許可を取得できないため、実質上の姉妹クラブであるユニオンへ1年間のローンで移籍し、欧州での実戦経験を積むことになった。
加入以来、カップ戦以外は途中出場に限定されていた三笘だったが、第11節のスラン戦では、1人少ない中、0-2でリードされている展開で後半開始から出場。反撃の狼煙を上げるチーム1点目、逆転弾となった3点目、ダメ押し点の4点目と、後半だけでハットトリックを達成した。中でも3点目は三笘の真骨頂であるドリブルで50m以上を突破してからの見事なゴール。ユニオンのホームスタジアム「スタッド・ジョセフ・マリン」を大きく沸かせ、すっかりユニオニスト(ユニオンサポーター)の心をつかんでいる。
第12節オイペン戦では左WBとして初スタメン。実際のところ、Jリーグを席巻した突破力と決定力を生かすには、左WBは最適なポジションとは言い難い。絶好調の2トップとリーグ屈指のボール奪取力を誇る3センターが生きる[3-5-2]ではシステム変更は現実的ではなく、三笘は守備機会が長くなる左WBでの起用を余儀なくされている。だが、ロングカウンターを大きな武器とするユニオンでは、三笘の推進力の高さは十二分に発揮されている。個人の能力を最大限に発揮するためにはベストとは言い難いが、チームを勝たせるための起用法としては理にかなっていると言えるだろう。
期待は大きいが謙虚な首脳陣
戦前には10度のリーグ優勝を誇り、60試合無敗記録を持つユニオン。半世紀の間、下部リーグで低迷し続けた古豪の躍進には大きな期待を寄せられている。過去の栄光を知っているファンは少ないものの、ユニオン復活のインパクトは大きく、20代の若いサポーターが増加している。蘇ったユニオンには、2009年にブンデスリーガを制したボルフスブルク、2012年にリーグ1を制したモンペリエ、そして2016年にプレミアリーグを制したレスターのような奇跡の優勝を期待する声が高まってきている。
しかし、ベルギー紙『Le Soir』でコラムニストを務める元ベルギー代表DFフィリップ・アルベールは、現実的ではないと発言する。
「私は様々な人から『ユニオンはレスターのようになれるのか?』と聞かれることがあるが、現実的にユニオンの優勝は難しいだろう。潤沢な資金力があるクルブ・ブルッヘ、アントワープ、ヘンクは今冬に補強を行うことができるが、中堅以下の資金力であるユニオンにはできない。むしろ、バンゼイルとウンダブのどちらかに600万ユーロ以上のオファーがあれば、クラブは断ることができないだろう」
ユニオンのスポークスマンのマールテン・フェルドート氏は謙虚な姿勢を示す。「私たちもこの結果には大変驚いている。しかし、私たちはあくまでもトップ8を目指している。このリーグで最も少ない予算で戦っていることを自覚しなければいけない。主力選手のケガの可能性もあるだろう。しかし、トップ8で終了することができれば、私たちはハッピーなシーズンだったと言えるだろう」と語る。
ユニオンの年間予算は、今シーズンのベルギーリーグでは3番目に少ないとフェルドート氏は答えている。今後、他チームからのマークが激しくなることは予想されるが、年末を首位で折り返すことがあれば、奇跡の優勝への期待はさらに高まるだろう。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。