メッシを使いこなせていない? 最強のPSGが見られるのはいつになるのか
10月24日、リオネル・メッシは、パリ・サンジェルマンに加入して初となるフランス版クラシコ、マルセイユ戦を体験した。
この試合は、メッシ、キリアン・ムバッペ、ネイマール、アンヘル・ディ・マリアの4人、通称「ファンタスティック・フォー」がそろい踏みしたが、結果は0-0のドロー。
PSGはマルコ・ベラッティが負傷でハーフタイムに離脱、右SBのアクラフ・ハキミが一発退場となって終盤の30分間を10人で戦うというハンデを負ったが、世界最強クラスの攻撃陣の共闘がまたも0得点に終わったことで、がっかりムードが漂っている。
この4人が並んで出場したのはこれで3戦目だが、最初のリヨン戦は2-1で勝利したものの、次のレンヌ戦(0-2)、そしてこのマルセイユ戦(0-0)では白星を飾れず。何より、この4人の絡みからは1点も生まれていない。リヨン戦の得点は、1点はネイマールのPK、2点目は終盤にディ・マリアに代わって投入されたマウロ・イカルディが決めたものだ。
そこで浮上しているのが「メッシを使いこなせていない」説だ。
4人の絡みは機能していない
メッシはこれまでUEFAチャンピオンズリーグで3ゴール(マンチェスター・シティ戦で1得点、RBライプツィヒ戦で2得点)を決めているが、リーグ戦では4試合に出場して、いまだノーゴール。メッシがリーグ戦において、開幕後に出場した4戦目までに1点も決めていないのは、なんと2005-06シーズン以来16年ぶりだという。
がしかし、ここでメッシには非難の矛先は向けられていない。問題視されているのは、マウリシオ・ポチェッティーノ監督の采配だ。
バルサ時代のチームメイトであるティエリ・アンリが「メッシは孤立している」とコメントしたことも話題になっているが、確かにPSGに入団してからのこれまでの試合では、メッシが攻撃アクションに絡む場面、それ以前にボールに触る機会はものすごく少ない。
[4-3-3]の布陣ではムバッペがトップでメッシが右サイドに入ることが多く、左SBに攻撃力のあるヌーノ・メンデスが入ると、攻撃アクション自体が左側に偏りがちになる。[4-2-3-1]を採用したマルセイユ戦では、ネイマールがトップ下、ディ・マリアが左、メッシが右という布陣だったが、右サイドに慣れているディ・マリアも本領を発揮できていない印象だった。
そして、この4人だけでボールロストが計60回と、前線の絡みがうまく機能していなかったことを表している。
ただ、リヨン戦とレンヌ戦では、ディ・マリアが右、ネイマールが左、メッシがトップ下、という並びを試している。これで彼らの間で1ゴールも生まれていないことで、今回ポチェッティーノは違う並びを試してみたのだろう。
ポチェッティーノはマルセイユ戦の後で「今は最良のバランスを探しているところで、徐々に良くなっている。これまでの経験から言っても、10月、11月はその点で苦心する。しかしチームの進歩には満足している」とコメントしたが、ここ最近は毎回同じことを言っているので、模索が続いているということだろう。
2人ずつのほうがいい?
机上では最高にエキサイティングだともてはやされたネイマール、メッシ、ムバッペのトリオも、実際に機能させるのは予想以上に難しく、現地で今、一番言われているのは「2人ずつの方がいいのでは?」ということだ。
「メッシ+ムバッペ」か「ムバッペ+ネイマール」。ムバッペとネイマールはすでに昨シーズンも証明済みだし、メッシとムバッペのコンビネーションは試合を重ねるごとに、かなりいい感じに高まってきている。シティ戦では3人そろってフル出場しているが、この試合とRBライプツィヒ戦でのメッシのゴールは、どちらもムバッペがアシストしたものだ。
2人ずつ使うとして、ユリアン・ドラクスラー、ディ・マリア、イカルディ等々、誰を組み合わせるか、というのがまた指揮官にとっては悩みどころであり、さらには負傷でもない限り、ムバッペとメッシを先発させてネイマールをベンチに座らせるのはポチェッティーノには難しい決断であるから、結局はこの3人を機能させるシステムを探ることになるのだろう。
ベンチ組といえば、すでにジャンルイジ・ドンナルンマやジョルジニオ・ワイナルドゥムといった、他クラブならスタメン確実の選手を、PSGはベンチに座らせている。
『レキップ』紙によれば、ポチェッティーノはこれまで試合前日の最後の調整は先発組とサブ組を分けて行っていたのを、全員一緒に行うやり方に変更したそうだ。明らかな区別をしないことで、サブ組のモチベーションを保たせることが目的だ。
「メッシには時間が必要」
バルサ時代のチームメイトでPSGのOBでもあるリュドビク・ジュリはメッシについて「どんなスーパースターでも、順応するのには時間が必要だ」と『パリジャン』紙に語っている。
「彼にはプレシーズンがなかった。バカンスから帰って48~72時間の間にすべてがガラッと変わってしまった。いくらロッカールームに馴染みの顔がいたとしても、新しいチームメイトたちとの新しいシステムに馴染むのはそれなりに時間がかかる」
試合結果だけ見ると勝ち星が多いPSGだが、実際は「よくこれで勝てたな」という内容のゲームも多く、ムバッペ自身も「勝ったから良かったが、もっといい試合をしなくてはダメだ」と自覚していた。
このメンバーでこの有様、となれば当然、監督更迭という話題が噴出する。最近もジネディーヌ・ジダンのPSG監督就任説がスペインメディアから飛び出した。
スーパースターさえそろっていればファンタスティックなゲームができるわけではない、ということを、身を持って証明しているPSG。ポチェッティーノの目論見どおり、苦難の10月、11月を乗り越えた後、最強のPSGが見られることになるのか。
Photos: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。