租税回避地(タックスヘイブン)を使った脱税や資産隠しの実態を記録した文書『パンドラ文書』が暴かれ、スペインでも大騒ぎになっている。この手の文書は、過去に『フィンセン文書』や『パラダイス文書』、『パナマ文書』があるが、データ量が2.6テラバイトだったパナマを超え、パンドラは3テラバイトと史上最大の情報流失となった。
スペイン関係では、前国王の元愛人コリーナ・ラルセン、歌手フリオ・イグレシアスやピケの妻で歌手のシャキーラらとともに、ペップ・グアルディオラの名があったことが確認されている。
恩赦を使い合法化
『エル・パイス』紙やテレビ局『ラ・セスタ』の報道によると、グアルディオラの関与は次の通り。2007年から2012年までの間、グアルディオラは租税回避地パナマに会社を保持。その会社の名前でアンドラ公国の銀行口座を開き、アル・アハリでプレーした時代(2003-2005)の年俸の受け取り先としていた。
本来、このお金は居住地であるカタールで申告され課税されるべきだがそうされず、アンドラでもスペインでも申告されなかった。つまり隠し資産化、ブラックマネー化したわけだ。
2012年、財政危機に陥っていたスペイン政府は「税の恩赦」を行った。これは資産の10%の金額を払えば資産隠しへの刑事訴追を行わず合法化する、というもの。課税不能な膨大なブラックマネーを少しでも表面化することで税収を増やすことが狙いだった。グアルディオラはこの恩赦を使ってブラックマネーを合法化。合法となった金額は50万ユーロ(約6450万円)だったとされる。
ただし、この50万ユーロが口座にあった総額というわけではない。例えばアル・アハリ時代の年俸など、時効になっていたものもあるからだ。『エル・パイス』と『ラ・セスタ』は「総額は確認できなかった」としている。
巨額の寄付も実施
まとめると、グアルディオラは現在何か違法なことをしているわけではなく、今回で明らかになったのは「過去に隠し資産があり、恩赦を利用して合法化した」という事実である。彼のクリーンなイメージにそぐわない過去を、文書が暴露してしまったということだ。
恩赦で合法化できても、道義的な問題は残るだろう。タックスヘイブンを利用して資産を隠したこと、一部は時効で“隠し得”のような形になったことは事実なのだから。
ただ一方で、グアルディオラは海難救助を行う非営利団体『オープン・アームズ』など人道的な組織への巨額の寄付も行っている。
個人的には「過去の過ちを反省したゆえに現在の善行がある」と解釈したいと思う。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。