ジェノアのエンリコ・プレツィオージ会長がクラブを手放した。9月22日、アメリカの投資会社『777パートナーズ』に全株式を売却する旨のサインを行い、翌23日に譲渡が正式に発表された。2003年にクラブの会長に就任し、2007年から14年間に渡って途切れることなくセリエAに残留させてきた実業家は、18年間のクラブ経営に終止符を打った。
様々な話題を振りまいた
プレツィオージ会長はこれまで何度かクラブの売却を試みており、2017年には一旦、株式譲渡を発表したこともあった。玩具販売業を中心とする本業の持株会社の運営もグローバル経済の縮小によって困難な局面に直面しており、ジェノアの運営コストが経営を圧迫していたこともたびたび報じられていた。
地元紙の報道によれば、このたび経営権を取得した『777パートナーズ』からは現在ジェノアが抱える負債分も含めた1億5000万ユーロ(約193億円)以上の金額が支払われる一方、アレッサンドロ・ザルバーノCEO以下経営陣はすべて残留。プレツィオージ会長は経営から退く一方、向こう3年間は指南役としてクラブとの関わりを持ち続けるのだという。
2003年、当時セリエCに降格し経営危機に直面していたジェノアを救い、そこからセリエAへと導くと、最高位は5位。現在はアタランタを強豪の一角に育て上げたジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の登用、ディエゴ・ミリートやロドリゴ・パラシオの発掘、またチアゴ・モッタなど故障の影響で一旦スターダムから退いた選手の再生など、現代のイタリアサッカー界には少なくない影響をもたらした。
一方で2005年のセリエA昇格が八百長の発覚で取り消されたり、選手を獲得した海外クラブへの支払いの遅れが理由でUEFAライセンス発給を断られたりとネガディブなエピソードにも事欠かず、サポーターから批判も多かった。
地元での反響は大きい
地元ジェノバの反響は大きく、この街に拠点を置く日刊紙『イル・セーコロ・デーチモノノ』は9月23日付の冒頭4ページを割いて経営譲渡について詳しく報じた。
同紙はプレツィオージ会長と親交の深かった元ミランCEOのアドリアーノ・ガッリアーニ氏にもインタビューし、「売却はロマンの上では残念だが彼が長年願っていたことでもある。イタリアの多くの企業が外国人の手に渡ったが、サッカーの世界もそうなっている。ジェノアを14年間セリエAに残留させ続けた会長は、私の記憶にはない。ファンはもっと彼のことを愛しても良いはずだ」という談話を掲載した。
『777パートナーズ』の創立者であるジョシュ・ワンダー氏は「ジェノアのような歴史と伝統のあるクラブの一員となれることに深く光栄を覚える」と声明を発表した。
『イル・セーコロ』は同社について「セビージャの株式を6%保有していることでも知られており、スタジアムの新築や国際的なブランド戦略、スカウト網の充実など、セビージャではソシオの反対で頓挫した経営プランをジェノアで実現させることを願っている」と報じた。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。