リトアニアで開催中のFIFAフットサル・ワールドカップは9月22日から決勝トーナメントに突入し、日本も無事にベスト16へと駒を進めている。初の準々決勝進出をかけ、23日には王国ブラジルと激突する。そんな注目の今大会には、ゴールマウスに頑丈な鍵をかける2人の「イギータ」がいるという。
コロンビアの個性派GKに由来
今大会のグループステージを最少の2失点で突破したのはブラジル、ベネズエラ、カザフスタンの3チームだが、そのうち2チームのゴレイロ(GK)が「イギータ」なのだ。
ブラジルの守護神は34歳のギッタだ。2012年大会で頂点まで上り詰めたベテランは、ブラジルの覇権奪還を心に誓って3度目のW杯に出場しており、ベスト16では強大な壁として日本の前に立ちはだかるだろう。彼の本名は「チアゴ・メンデス・ホーシャ」というそうだが、それを知る者はほとんどいない。ずっと昔から「ギッタ」として知られ、今大会の登録名も「ギッタ」なのだ。
そしてこの「ギッタ」という愛称の由来こそ、元コロンビア代表(11人制サッカー)のGKレネ・イギータにあるのだ。わざわざ説明するまでもないが、イギータは1990年のFIFAワールドカップで自陣ボックスから出て行ってドリブルを試みるなど大胆なプレーで全世界を沸かせた個性的なGKだ。カメルーン戦で相手FWロジェ・ミラにボールを奪われて失点したものの、その派手な長髪と勇敢なプレーは間違いなくサッカーファンの心に刻まれた。そして、全世界のサッカー小僧に多大な影響を与えたのだ。
「僕の愛称はイギータからきているんだ」とギッタはブラジルの放送局『Globo』に語った。ブラジル生まれのギッタは子供の頃からゴールマウスを守ることが多かったが、守っているだけでは飽き足らずに攻撃にも参加した。「プレースタイルが似ていたので兄弟から“ギッタ”と呼ばれるようになり、それが定着したんだ。今では、僕に幸運をもたらしてくれる名前なんだ。」
世界レベルのゴレイロ
彼の場合は「イギータ」から派生して「ギッタ」となったわけだが、どうやら当時のブラジルでは至るところで“イギータ少年”が誕生したようだ。カザフスタン代表の守護神レオ・イギータも、ギッタと同世代の35歳。彼はカザフスタンの代表チームで活躍しているが、もともとはブラジル出身なのだ。
そしてギッタと同じように、独特なプレースタイルを理由に「イギータ」のあだ名を付けられたという。「子供の頃からGKをやっていたが、足でボールを運ぶのが好きだった。それに髪も長かったので、みんなから『イギータ』と呼ばれるようになった」と本名レオナルド・ジ・メロ・ビエラ・レイチは『FIFA.com』に語ったことがある。
彼は16歳の時に「身長180cmは小さすぎる」と言われて11人制サッカーを諦めてフットサルに専念するようになり、国内クラブでプレーした後は海外に挑戦。2011年からカザフスタンの強豪カイラトに所属しており、カザフスタンに帰化したのだ。
そんな「2人のイギータ」だが、何より彼らが凄いのは決して名前負けしていないところである。ブラジル代表のギッタは、フットサル界のNo.1プレーヤーを選ぶ『フットサル・プラネット』主催のアウォードにて、2020年の最優秀ゴレイロ部門の2位に選ばれた。そして彼の戴冠を阻止したのが、6年間で5度目の受賞となったカザフスタン代表のレオ・イギータなのだ。
独創的なGKがイタリアの地でピッチを駆け回ってから30年、彼の名前を継ぐ2人のゴレイロが世界の頂を目指してリトアニアのアリーナで躍動している。
そういえば、日本にも「ギータ」と呼ばれる選手がいるが、彼の場合は全く競技が違う(編注:プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐のこと)ので、恐らくコロンビアの英雄とは無関係のはずだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。