ダビド・ルイスの新天地が決定。フラメンゴ移籍に賭ける大きな夢
ダビド・ルイスがフラメンゴに加入した。
2007年に19歳で移籍したベンフィカを皮切りに、チェルシー、パリ・サンジェルマン、アーセナルと、14年半をヨーロッパのビッグクラブで過ごしてきた。その彼が9月14日の加入会見で、笑顔とともに慎重に語っていた。
「人生における1つの大きくて難しい挑戦だ。もっと穏やかで平和な人生を選ぶこともできたんだろうけど、僕は心からやりたいと感じられることに挑戦するのが好きなんだ」
オファー殺到の中で下した決断
2年前にダビドを取材した際、プロ人生における夢と目標を聞くと、彼はこう語ってくれた。
「世界サッカーにおけるビッグタイトルを目指し、高いレベルでプレーし続けること。クラブでも、ブラジル代表でも。それが僕の夢だ」
彼がフラメンゴを選んだ理由を報道や会見での言葉から考え合わせると、その夢と目標が今も変わっていないことを感じる。34歳とは言え、花道を飾るために母国に戻るのではない。それどころか、さらなる夢の実現に向けて、熟考した上での決意だったのだ。
アーセナルとの契約を更新しないと決めた後、彼の前には多くの選択肢が現れた
その1つがレアル・マドリーだ。現監督のカルロ・アンチェロッティはチェルシーで一緒に仕事をした仲であり、ダビド・に直接電話をして「我われ2人の歴史はまだ終わっていない」と説得した。しかし、現実的な選手枠を考えた中で、ダビドが前向きに検討するには至らなかったらしい。
最も高額のオファーはカタールのアル・ライヤーンから届いた。ローラン・ブラン監督は、ダビドのPSG時代に指揮を執っていたため、やはり監督自らが電話での説得に乗り出した。2022年W杯の親善大使も担い、ピッチの内外でカタールサッカーの発展に貢献するという話だったが、その役割は彼の夢とは違っていた。
マルセイユのホルヘ・サンパオリ監督はダビドが自主トレを行っていたリオデジャネイロまで訪問したが、報道によると、ダビドのPSGへの愛情が妨げになったという。しかも、ダビドには今後もビッグタイトルを目指して戦いたいという強い思いがあった。
資金不足で断念したと報道されている古巣ベンフィカをはじめ、ラツィオ、リール、慣れ親しんだプレミアリーグのエバートンやウエストハム、ブラジルからもアトレチコ・ミネイロやコリンチャンスがオファーや打診を持ちかけた。そのすべての期間を通して粘り強く交渉を続けていたのがフラメンゴだった。
活躍を機に代表復帰も目指す
フラメンゴは、ブラジルではビジネスモデルとされるほど持続可能な成長を続けている。
経営改善によって得た潤沢な資金を補強や育成、環境整備に投資し、強いチームを作り上げて、近年はあらゆる国内・国際大会でタイトルを争い続けている。それによって経営はさらに上向き、投資が続いてさらに強くなる、というサイクルにある。ダビドは言う。
「僕の決断は、フラメンゴのプロジェクトの大きさを知ったからこそだ。フラメンゴはいつでも偉大だったし、これからも偉大であり続けるだろう。それはまさに、その揺るぎないプロジェクトの賜物なんだ」
フラメンゴならコパ・リベルタドーレスで優勝し、再びクラブワールドカップを戦うチャンスもある。それに貢献することが、彼の目標でもある。
2016年3月を最後に遠ざかっているブラジル代表復帰もそうだ。加入会見でも「僕がここへ来る決断をしたのは、挑戦と大志のため。サッカー選手が国を代表するという大志を抱かないとしたら、職業を間違えている」と語っていた。
現在のブラジル代表のCBは、マルキーニョス(PGS)とチアゴ・シウバ(チェルシー)の存在感は別格だが、その2人以外では、チッチ監督は今も若手、中堅、ベテランと様々な選手を招集し、確認作業を続けている。扉は閉じられてはいない。
簡単でないことは、本人も良く知っているだろう。フラメンゴ移籍を応援する意味を込めてなのか、最近のブラジルメディアは2013年コンフェデレーションズカップでの素晴らしいクリアの映像を多用している。ただ、何かあれば2014年ワールドカップ準決勝ドイツ戦での1-7の歴史的敗戦の話題が持ち出されるのは、当然予想される。
「心が揺さぶられる」
ダビドは加入会見で「チームを見れば、喜びと思いやり、調和がにじみ出ているのがわかる。ポジティブな雰囲気の中に適応するのはすごく簡単だ」と語っていた。
フラメンゴにはブラジル代表で一緒だったフィリペ・ルイスやジエゴ・アウベス、ジエゴがいる。決断する前にも電話で話したそうだ。
さらに、彼のSNSには毎日60万通を超えるフラメンゴサポーターからのラブコールのメッセージが届き続けていた。
あとはピッチの中での結果だ。ダビドは自他ともに認める“攻撃的CB”。パスの技術を生かして攻撃の組み立ての起点にもなれる。攻め上がりやヘディングも得意。FKも蹴れる。そのプレースタイルについて聞くと、彼はこう答えた。
「現代サッカーはそういうことなんだ。GKの足によるプレーが評価されるように、攻撃の組み立ては後ろから始まる。だから、僕はいつでもそういうプレーを生かし、自分のクオリティを監督の哲学に上乗せしようとしている」
彼は「自分がフラメンゴの選手だと言えることに大きな喜びを感じるし、心が揺さぶられる」とも言っていた。そんな彼のプレーに熱狂したいサポーターの期待感とともに、ダビドの挑戦が始まる。
Photos: Marcelo Cortes/Flamengo, Rafael Ribeiro/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。