ブラジルに戻って絶好調のフッキ、5年ぶりのブラジル代表復帰
中国の上海上港との契約が満了し、今年1月、ブラジルのアトレチコ・ミネイロに移籍したフッキが絶好調だ。
彼をエースとして擁するアトレチコ・ミネイロは、シーズン幕開けとなるミナスジェライス州選手権で優勝。コパ・リベルタドーレスでは現在、準決勝に駒を進めている。コパ・ド・ブラジルでは準々決勝に進んでおり、ホーム&アウェイの第1戦に勝利したところだ。
ブラジル全国選手権でも、全38節中、第18節が終わった時点で首位。得点ランキングでは1位に8ゴールの3人がひしめき、7ゴールのフッキら4人が続いている。
そして今回、9月の南米予選で、実に5年ぶりのブラジル代表復帰となった。
活躍で懐疑の目を一掃
日本(川崎フロンターレ、東京ヴェルディ、北海道コンサドーレ札幌)、ポルトガル(ポルト)、ロシア(ゼニト)、中国(上海上港)と、16年間のキャリアを外国で築いたフッキには、今年1月の上海上港退団時にも、古巣ポルトをはじめトルコ、サウジアラビア、アメリカなど外国のクラブからオファーや打診があったと伝えられている。
その中で彼が選んだのがアトレチコ・ミネイロだった。移籍当時、彼は言っていた。
「僕はブラジルでは、プロとしてわずか2試合プレーした後に外国に行ったから、ブラジルサッカーでプレーしてみたいという気持ちがずっとあった」
ただし、当初はブラジルメディアもサポーターも懐疑的だった。アトレチコ・ミネイロのオファーは、それまでの上海上港より一桁低い金額だったとは言え、中国で4年半もの間プレーしていた34歳の選手に対し、国内でもダニエウ・アウベス(サンパウロ)、ガブリエウ・バルボーザ(フラメンゴ)に次ぐ3番目の高給が準備されたからだ。
フッキはその厳しいジャーナリストたちも驚くほどの活躍を続け、評価を一変させたのだ。
1年を通した過密日程で有名なブラジルサッカーにおいて、アトレチコ・ミネイロのクッカ監督は7月末の時点で、そこまでの全公式戦39試合中、35試合にフッキを起用し、フッキがそれに応えて通算16ゴールを決めていることについてこう語っていた。
「ある試合で温存すれば、次の試合でより良いプレーができる選手はいるが、フッキは違う。日曜日にプレーしたら、水曜日にはさらに試合勘のあるプレーをするんだ。彼には2、3日の間隔があれば、それ以上の休息は必要ないんだよ」
なぜそれが可能なのか。そして、35歳になった今でもトップレベルを維持できる秘訣は何かをフッキに聞くと、答えはこうだった。
「プロ意識。でも、難しいことじゃないんだ。それは、自分がやりたいことを、望む通りにできるように集中することだから。もっと勝ちたい。もっと良くなりたい。だから自分自身に要求する。フィジカルコンディションの維持に努め、ケガを予防するためのケアもしているのは、努力というより、意欲だね。この先もっと長く、高いレベルで戦いたいからだよ」
「どんな起用にもベストを尽くして応える」
その活躍から、9月の南米予選に向けて、国内ではブラジル代表招集待望論が広がっていた。チッチ代表監督自身、招集以前から「好不調の波がなく、継続的に高いレベルでプレーしている、我われにとって重要な選手だ」と言っていた。
そして今回、当初、招集された25人のうち9人のメンバーについて、クラブが選手を派遣しないという問題が起きた。プレミアリーグでプレーする選手たちに、帰国の際の10日間の自主隔離というイギリス政府の規定が障害となったからだ。フッキはそれによる追加招集での参加となった。
代表でのトレーニング2日目、記者会見に登場したフッキはこう語った。
「アトレチコ・ミネイロ移籍を決める前、妻とも話し合ったんだ。妻は、僕の心の声を聞けば良いと言ってくれた。それで、ブラジルに戻る時が来たとわかったんだ。その選択は正しかった。ブラジルに戻ってから、いろいろなことが順調に進み、『すべてに可能性がある』と想像し始めたんだ。そして、ブラジル代表に戻ることを強く願い始めた。それが実現して本当に幸せだ」
「35歳になった今は、もっと成熟し、自分がすることに対してもっと自信を持てるようになっている。チッチのどんな起用にも、ベストを尽くして応えるんだという強い意欲も持っている」
初招集の選手のように意欲を語る一方で、彼の古巣ゼニトでプレーしている24歳のマウコンがやや照れくさそうに近づいてきた時には、強烈なハグで応えるなど、ベテランのおおらかさも見せている。
今回初招集となったアトレチコ・ミネイロのGKエベルソンは、クラブではフッキの適応を手助けし、代表についてはフッキがいろいろ話してくれたと言っていた。良好な人間関係も垣間見える。
南米予選はパンデミックによる日程変更のため、3都市間の移動を含め、8日間で3試合というハードスケジュールだ。チームの総力戦が予想される中、フッキの再挑戦を、ブラジル中が見守っている。
Photos: Pedro Souza/Atletico Mineiro, Lucas Figueiredo/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。