「18歳の選手にとって大事なのは金ではない」
このクーマンの言葉で、“判決”が出たと言えるだろう。「18歳の選手」=イライクス・モリバは今季、バルセロナのトップチームでプレーすることは決してない、と。
大幅昇給は不可能
イライクスは昨季、クーマンの手によってトップデビューし、18試合に出場して1ゴール3アシストを挙げた。“野獣”なんてあだ名のある、10代とは思えない体格の大型セントラルMFで、ブスケッツとは違うタイプだから、今季のトップチーム入りは間違いないと思われていた。
しかし、契約更新で揉めた。来年6月で契約終了となるため、バルセロナは更新しようとしたが、イライクス側は大幅な年俸アップを要求したのだ。
報道によると、イライクスの現在の年俸は200万ユーロ。ペドリのそれとほぼ同額であり、Bチームに所属する選手としては超破格だ。ご存じの通り、バルセロナは深刻な財政危機にあり、ピケら4人のキャプテンすら大幅な年俸ダウンを強いられた。いくら将来の有望株だからといっても、クラブ側が大幅アップを受け入れるわけにはいかない。
そこでプレッシャーをかける意味で、プレシーズンのトップチームの練習から外すことにした。「トップチームでプレーしたいなら契約更新しろ」という意思表示だったが、イライクス側も譲らなかった。
そんな時に出たのがクーマンの冒頭の発言だった。大事なのは金すなわち年俸アップではない。トップチームで試合に出ることだと彼は言っている。
付いてしまった負のイメージ
正論のように聞こえる。だが、この言葉によって、イライクスには“育ててやった恩を忘れた、クラブ愛のない金の亡者”というイメージが完全に付いてしまった。
まだ8月で、10カ月近い交渉期間が残っているが、金の亡者のような扱いをされたことで、残留の道は完全に断たれたと言っていい。これは最後通牒どころか三くだり半、別れの通告だったのだ。
残留の目がないのなら高く売却する方がいい。早速「RBライプツィヒのオファーをバルセロナが断った」という報道が出た。それによると1500万ユーロのオファーだったらしいが、2000万ユーロ以下では絶対に売らない方針だという。
来年の6月末には自由契約になるのだが、相場以下の値段で売れば他の選手に値崩れが広がることを恐れているらしい。
一方、イライクスはBチームの親善試合にすら出場していない。ネガティブなイメージを背負いながら練習だけして1年を過ごすというのは、それこそ18歳の少年にとってどんなに過酷なことだろうか?
喧嘩別れは仕方がない。今は移籍市場が閉まる前にイライクスに移籍先が見つかることを祈っている。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。