インテルのファンを中心に、イタリアサッカー界で大きな騒ぎが起こっている。ベルギー代表FWロメル・ルカクが、インテルを離れることが決まったからだ。8月10日の時点で正式発表はされていないが、チェルシーへの移籍に事実上合意した。
移籍は決定的。ファンは批判
地元紙各紙の報道によれば、クラブは8月7日、チェルシーとの間で1億1500万ユーロ(約148億円)の移籍金で合意。ルカクは9日にミラノ市内の私立病院でメディカルチェックを行い、「ファンに一言? 数日後にメッセージを出すよ」と地元メディアに良い残した後、代理人が滞在するモンテカルロへと向かった。
ファンの失望は大きい。スタディオ・ジュセッペ・メアッツァの北ゴール裏の入り口近くにはルカクの大きなウォールアートが描かれていたが、10日の朝までにすっかり汚され「インテルは我われだ」というファンのメッセージがスプレーで殴り書きされていた。
ネットの反応も辛辣で「別れのメッセージなんて出さずにおいてもらって構わない。偽善者め」「おまえの去り方は最悪だ、結局みんな同じなんだろ」と非難のメッセージが多数見られた。
また、インテルを沈没船になぞらえ、パリ・サンジェルマンに移籍したアシュラフ・ハキミとともにルカクが脱出する様子を描いたGIF画像を拡散させるなど、サッカーファンはさまざまな形で嘲笑している。
しかし、その最たる怒りは経営陣に向けられている。スタジアムにはウルトラスから「おまえらは皆オレたちをコケにした」と強いメッセージが掲げられ、ネットでは#SuningOUTと、経営権を掌握するチャン・ジンドン氏以下蘇寧グループの撤退を求めるハッシュタグの下で非難が展開された。
多額の移籍金収入を使えない
インテルにはハキミの移籍金と合わせ、約1億8300万ユーロの移籍金収入が入ることになったが、地元紙によれば、それを元手に補強を行うことができない状態だという。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によれば、ルカクの移籍金として入ってくる1億1500万ユーロのうち、前所属クラブへの移籍の連帯報奨金や分割支払いの完遂などで結局5000万ユーロ近くが出てて行くことになり、ハキミなどについてもこれは同様。
一方で、経営側は夏の移籍市場で7000万ユーロの利益を出すことを命じられており、結局は3500万ユーロほどしか補強に回せない状態になっているというのだ。
クラブは2020年の決算で1億200万ユーロほどの赤字を出した。また、親企業の蘇寧グループも経営が危ぶまれており、Eコマース部門の蘇寧易購は2020年の通期決算で約42億元(約714億円)の大幅な赤字に転じたとも伝えられている。
一方で、ルカクの放出にはシモーネ・インザーギ監督やジュゼッペ・マロッタCEOが強く反対していたと伝えられており、一部の地元メディアはマロッタに近しい関係者の談話として「経営側がルカクの放出を決めたことで、バルセロナあたりが『放出の可能性がある』と判断してラウタロ・マルティネスを取りに来るのではないかと懸念している」と報じた。
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。