新型コロナウイルス感染症の第二波が猛威を振るうアルゼンチンではサッカー界での集団感染のケースが相次いでいるが、マルセロ・ガジャルド監督率いるリーベルプレートも選手20名が一斉に感染する事態に見舞われた。
大一番でアマチュア契約GKが活躍
チーム内でクラスター発生という衝撃的なニュースが流れたのは5月15日、アルゼンチン1部リーグに代わって開催中のリーガ・プロフェシオナル杯準々決勝ボカ・ジュニオール戦の前日のこと。一部の選手が新型コロナ感染症と見られる症状を訴えたためにPCR検査を行ったところ、GK4名を含む15名から陽性反応が検出された。
このためガジャルド監督はボカ戦に向けてレセルバ(3軍)から6名を招集したが、中でも最も注目されたのは21歳のGKアラン・レオナルド・ディアス。ディアスはレセルバでも公式戦の出場経験がなく、プロ契約さえしていないアマチュア選手だが、プレー可能な唯一のGKとしてボカとのスーペルクラシコでゴールを守ることとなった。
試合では7歳の頃から競争の激しいリーベルでプレーしてきた実力を裏付けるようなナイスセーブを披露し、ボカのFWカルロス・テベスが放った強烈なシュートもカット。0-0のドローからPK戦で敗れたが、ディアスは宿敵とのPK戦でも冷静さを失わず、ボカの名手エドウィン・カルドナが蹴ったパネンカをストップ。チームは敗退したものの、予期せぬ形でトップチームでのデビューを果たした若手GKはガジャルド監督をはじめサポーターから絶賛され、ロドルフォ・ドノフリオ会長が近日中にプロ契約を交わすことを公約するまでに至った。
負傷者をGK起用の窮余策
だがその後、感染者は更に増加し、5月19日に行われたコパ・リベルタドーレスのグループステージ第5節インデペンディエンテ・サンタフェ戦を前に、新たに5名の選手から陽性結果を確認。大会に登録されている32名のうち、20名がコロナ感染、2名が負傷中だったため、試合に出場できるコンディションにあるのはフィールドプレーヤー10名のみという危機的状況に置かれてしまった。
リーベルはディアスを含むGK2名の新規登録を要請したが、南米サッカー連盟がこれを拒否。試合を放棄した場合は自動的に大会から追放処分となってしまうため、ガジャルド監督は窮余の策として、ハムストリングを痛めていたMFエンソ・ペレスをGKとして起用。残る10名全員をプレーさせ、ベンチには控え選手がまったくいない状態で挑み、開始早々から積極的な攻撃を仕掛けて前半6分で2点をリードしてからは冷静なゲーム運びと堅実な守備で2-1の勝利をあげた。
万全なコンディションにないままGKとしての任務を全うしたペレスは一躍英雄となり、この試合でペレスが着用したGKのユニフォームは翌日からリーベルのミュージアムに展示されることになった。
その後、陽性反応が出た20名のうち、隔離期間を終えてメディカルチェックもクリアした13名のメンバーが復帰したグループステージ最終節フルミネンセ戦では3-1で敗れてしまったものの、グループ2位で決勝トーナメントに進出。ガジャルド監督のチームは集団感染による打撃からディアスとペレスという2人のヒーローを生み出し、見事にピンチを乗り越えた形となった。
Photos: Getty Images
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。