5月14日、6月上旬のFIFA国際Aマッチデーに向けたU-24ブラジル代表の招集メンバーが発表された。
発表後はアンドレ・ジャルジーニ五輪代表監督とコーディネーターのブランコ氏、技術委員会スタッフによるオンラインでの記者会見も行われた。ブラジルメディアの興味は招集メンバーに関する話題に集中したものの、やはり東京五輪そのものに関する質問もあった。
「五輪開催を願っている」
ブラジルでも自国の選手たちの五輪出場枠獲得のニュースなど競技の話題とは別に、日本や一部の国で起こっている感染拡大、国際オリンピック委員会(IOC)や日本国内での動き、そして開催に対する国民の賛否を問うアンケート結果などが細かく報道されている。
最もストレートな質問は「日本国民がオリンピックの延期や中止を求めて政府や各機関に大きなプレッシャーをかけており、35万人が開催反対の署名までしたという。現時点で五輪の延期や中止の恐れを感じているか」というものだった。
ジャルジーニとブランコは顔を見合わせてどちらが答えるかを確認した後、ブランコが代表して答えた。
「我われは『信頼している』としか言えない。あらゆる方面での安全とともに、オリンピックが開催されることを願っているし、各機関のオーソリティーたちはできる限り良い形で、すべてが実行されるように現在、奔走しているはずだ。それが我われの願いであり、我われの気持ちだ」
さらに、ブラジルオリンピック委員会とも感染防止のガイドラインについてなど、何度も会議を重ねていると説明し、「オリンピックが開催されることを期待している。私の願いであるだけじゃなく、監督も、我われにすべてのサポートをしてくれているブラジルサッカー連盟もそうだ。特に選手たちは、この世代のサイクルを、金メダルという大きな成果で締めくくるに値するだけの努力を積み重ねて来たのだから」と、競技者側の立場での、慎重ながらも率直な気持ちを語った。
また、ジャルジーニは日本滞在中の行動や人との接触など、様々な制限が出てくることについて「正直に言って、詳細がどうなるのか我われはまだ知らないんだ。ただ、選手たちのメンタル面のケアは必ず必要になる。より良いプレーや、より集中した戦いに繋がるよう、クリエイティビティを生かして何らかを考えていかないとね」と、不安よりも今後の検討事項として前向きな姿勢で語っていた。
メディアの間では開催に賛否両論
準備の面では、当初のドバイ遠征の予定から、ロジスティック面を中心とした事情によってスペインでのアルゼンチン戦とメキシコ戦に変更するための調整が続くなど、簡単ではない。
一方、ブラジル代表団全体を見ると、IOCからの提供により、東京オリンピック・パラリンピック出場選手へのワクチン接種が5月14日からスタートした。
選手、監督以下競技スタッフ、ブラジルオリンピック/パラリンピック委員会スタッフ、正式に承認されたメディア関係者全員に接種され、残りは一般国民用に回されることになっている。
五輪に向けてはもちろん、まだ本番までに国際大会に出場する選手も多いため、接種会場からは「安心して臨める」という喜びの声が伝えられている。
ブラジルのスポーツ報道関係者たちと話をすると、もちろん両方の意見がある。
「補償や損失のことなどをあえて度外視して言っていいならば、再度、延期した方がいいと思う」
「投資や損失と危険性、その大きさを比較しても、現在の日程での開催はすべきではないと思う」
一方はこうだ。
「日本には安全な五輪開催に必要なことを維持するための基盤があると信じている」
「感染予防やすべてにおいて、日本人は必要なガイドラインを尊重する文化や習慣があるはずだ。あとは外国からの参加者にそれを徹底させることだ」
「前例のない形でのオリンピックだが、今回こそが今後への前例になる。日本にそれができるかどうか、疑う余地はない。日本には、何においても効果的な形でオーガナイズする能力とコンディションがあると思う」
開催可能という意見は、何より日本という国と日本人への信頼が基本になっているようだ。
Photo: Lucas Figueiredo/CBF, CBF, Mariam Jeske/COB
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。