南米サッカー連盟(CONMEBOL)のアレハンドロ・ドミンゲス会長が、中国のシノバック・バイオテック社から5万回分の新型コロナウイルスワクチンを確保したとツイッターで発表したのが4月13日。それから2週間後には中国からウルグアイの首都モンテビデオにワクチンが届き、5月6日、ウルグアイとパラグアイで早速、接種が開始された。
5万回分が南米各国へ
ワクチン獲得の当初の目的は、同連盟が主催するコパ・アメリカ、コパ・リベルタド―レス、コパ・スダメリカーナに出場するチーム及び大会関係者への接種だったが、対象にはその後、南米10カ国の男女1部リーグの全チーム、審判、サッカー協会関係者も含まれることに。シノバック・バイオテック社との交渉は、ウルグアイのルイス・ラカージェ・ポウ大統領の仲介がカギになった。
5万回分のワクチンがモンテビデオの空港に届いた際、ドミンゲス会長はウルグアイサッカー協会のイグナシオ・アロンソ会長と一緒に自ら受け取りに出向き、ツイッターでも「歴史的な出来事だ!」と興奮気味に歓喜のメッセージを投稿。
満面の笑顔でコパ・アメリカのトロフィーを掲げる自身の写真と一緒に「CONMEBOLは世界で初めて(新型コロナの)予防接種を行う民間組織となる。これは10カ国の大勢のファミリーに恩恵をもたらすもので、各国政府が推進する予防接種キャンペーンと重要な協力関係を築くもの。安全なコパ・アメリカ開催を信じて頑張ろう」と書き込んだ。
コロンビアとアルゼンチンの共催となる今回のコパ・アメリカだが、両国では新型コロナ感染拡大の勢いが収まっていない。出場選手や関係者にワクチンを接種することで、安全な開催をアピールしようという試みだ。
関係者への接種ができない国も
この後ワクチンは南米の他の国にも送られ、各国の代表選手を含むプロサッカー関係者の間で接種が進められる予定だが、ワクチン供給が間に合っていない地域もある現状では、反対意見も出ている。
元アルゼンチン代表選手で現在はESPNで解説者として活躍するセバスティアン・ドミンゲスは、レギュラー出演している番組の中で「もし私が接種対象者だったら、自分の親よりも先にワクチンを打つことを恥と思う」と話し、サッカー界だけが優先されることに対する疑問を率直に述べた。
また、国によってはサッカー関係者への接種実現が不可能となりうる問題も生じている。
まず、ブラジルではCONMEBOLからワクチンが届いた場合、ANVISA(国家衛生監督庁)から「すべて押収されて国内の統一医療システムに送られる」との声明が出され、プロサッカー関係者ではなく、医療従事者や基礎疾患を持つ人たちに優先的に使われることが明らかにされた。
アルゼンチンの場合、シノバック社製のワクチンはANMAT(国家医薬品・食品・医療技術監督庁)で承認されていない。南米サッカー連盟の開発部ディレクター、ゴンサロ・べジョーソによると、この件については「アルゼンチンの観光・スポーツ省のマティアス・ラメンス大臣が保健省と話し合いを進めているが、もし承認されない場合は隣国ウルグアイで接種するプランも考えられている」という。
ちなみに南米各国の主要メディアは「今年のコパ・リベルタド―レス決勝の会場はウルグアイのエスタディオ・センテナリオになる」と報じており、その理由については「ウルグアイの大統領がワクチン獲得に一役買ったことが大きな要因になった」との見方が優勢となっている。
Photos: AUF, Getty Images
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。