今シーズンのプレミアリーグでは、意外な選手がDFとしての「最高値」を叩き出している。それが現在4位につけるウェストハムのDFアーロン・クレスウェル(31歳)である。
セットプレーでアシスト量産
好きな選手を選んで理想のチームを作る『ファンタジー・プレミアリーグ』というリーグ公式ゲームにおいて、クレスウェルはカルト的な人気を博している。実際のプレミアリーグでの結果に応じて選手にポイントが分配されるゲームにおいて、クレスウェルは今季DF部門で最高ポイントを記録しており、多くのユーザーから愛用されているのだ。
クレスウェルは、そのことについて全く意識していないと英紙『The Times』に語っている。「友人に『DFで1位だ』と言われたが、何のことかまったくわからなかった。評価されているのは分かるが、例えばクリーンシートでもらえるポイントは自分だけの手柄ではないよ」
『ファンタジー・プレミアリーグ』ではクリーンシートや出場時間に応じてポイントをもらえるが、最もポイントを稼ぎやすいのはゴールに絡むプレーだ。今季のクレスウェルはリーグ戦全30試合にフル出場し、リーグ6位タイの7アシストを記録している。
セットプレーのキッカーを任されているためアシストが多いクレスウェルだが、彼は自身のキック精度以上にコーチ陣の働きが大きいと謙遜する。ウェストハムでは、デイビッド・モイーズ監督のアシスタントを務めるケビン・ノーランやポール・ネビンがセットプレーを分析しているのだ。その甲斐あって、今季ウェストハムはセットプレーからリーグ最多の15ゴールを決めている。
「コーチが対戦相手のセットプレーの特徴を分析し、弱点を見つけてくれるんだ。僕は彼らの意見を取り入れて蹴っているんだ。それに、練習でも多くの時間をセットプレーに費やしており、間違いなくチームの武器になっている」
トマーシュ・ソウチェクやクレイグ・ドーソン、イッサ・ディオプなど空中戦に強い選手がそろっていることも忘れてはいけない。「彼らがいるので、ちょうどいい場所にボールを蹴ればゴールに繋がる可能性が高いのさ」とクレスウェルは説明する。
EURO2020出場は「諦めない」
今季の活躍により、クレスウェルにはイングランド代表復帰の噂が出ていたが、3月の代表戦では招集されなかった。これで今夏のEURO2020でメンバーに選ばれる可能性は限りなく低いが、それでもクレスウェルは諦めないと『Sky Sports』のインタビューに語る。
「自分はもう若くない。今のイングランドにはベン・チルウェルやルーク・ショーといった活躍している選手がいる。でも自分も諦めていない。ウェストハムでベストを尽くせば、まだチャンスがあるかもしれない」
彼が諦めないのは当然のことだ。リバプール生まれのクレスウェルは、愛するリバプールの下部組織に入るも、15歳の時に放出された。「絶望だった」というが、それでも腐ることなく3部のトランメアに入り、そこからイプスウィッチを経て2014年にウェストハムに加入してプレミアリーグの舞台まで上り詰めた。
今シーズン、ウェストハムはモイーズ監督の下で大躍進を遂げ、現在チェルシーやリバプールを抑えてUEFAチャンピオンズリーグ出場枠圏内の4位につけている。「朝起きると、練習に行くのがワクワクするんだ。本当に素晴らしいことさ」と、クレスウェルはチームの好ムードを喜んでいる。
果たして、このままトップ4の座を守り切れるのか。そしてイングランド代表に復帰できるのか。今シーズンの終盤戦は、アーロン・クレスウェルとウェストハムに注目したい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。