「今シーズンのリーグ1で最も多くドリブルを成功させている選手は?」と聞かれたら、ネイマールやキリアン・ムバッペの名前が挙がることだろう。ところが、第28節終了時のデータで今季、最も多くのドリブルを成功させている「ドリブル王」は、今年がリーグ1初参戦となる18歳のルーキーだ。
彼の名はジェレミー・ドク。夏の移籍期限最終日(10月5日)にアンデルレヒトからレンヌに入団したベルギー代表WGだ。
ダントツトップの数値を残す
プロフットボールリーグ(LFP)が発表したデータによれば、ドクは第28節までに43回のドリブルを成功させている。次点はムバッペの33回。10もの差をつけてダントツのトップだ。レンヌのチーム全体で記録したドリブルの3分の1以上、36%が彼によるものだという。
身長171cmと小柄な彼のドリブルは、足元でボールをぴったりキープして小股で走るスタイルだ。ボールが体の近くにあるため、相手としては相当深いところまでえぐらないと奪取は難しい。もちろんスピードもある。
1試合あたりのドリブル成功数なら、ネイマール(4.3)とマルコ・ベラッティ(3.7)のパリ・サンジェルマン勢が上回るが、ドクも3.6回、最高は7回と優秀な数字を残している。また、1つの試合で10回以上ドリブルを試みた選手は、ネイマール(2回)とドク(3回)の2人しかいない。
利き足は右で、レンヌでは右WGで使われることが多いが、3月に辞任したジュリアン・ステファン前監督は、若いドクの可能性を広げるべく左サイドでの活用も視野に入れて指導していた。後任のブルーノ・ジェネジオ(元リヨン監督)もその路線を継続している模様だ。
そして待望の初ゴールは第30節のメス戦。ゴール右サイドのエンドライン付近からの折り返しのパスに、一瞬で詰め寄ってゴール正面から叩き込んだ。
喜んだのも束の間、後半開始間もなく相手の足を踏んで一発退場処分になり、リーグ1初ゴールと初レッドカードを同時に味わうという稀有な体験となってしまった。
リバプールなども注目
アンデルレヒトのユースチームにいたドクにはリバプールのユルゲン・クロップ監督も注目していて、15歳の時すでにトレーニングに招かれオファーを受けていた。
その時ドクの世話を焼き、「ここに来いよ、君なら成功できるから!」と太鼓判を押してくれたのは、「プレースタイルが似ている」とドクがよく言われるサディオ・マネだったという。
冷静に考えた末、ドクは10歳から育ったアンデルレヒトに残ることを選び、2018-19シーズンに16歳でプロデビューした。
その後も「リバプールのオファーを蹴ったことを後悔していないか?」とよく聞かれるそうだが、「僕はいつも『ノー』と答えている。15歳の時に僕を評価してくれたなら、この先もまた興味を示してくれるに違いないから」と彼は地元紙とのインタビューで話している。
ちなみにこの時、リバプールだけでなくチェルシーやアーセナル等、数々のビッグクラブから誘いを受けていたそうだ。
ベルギー代表でもすでにA代表デビューしていて、つい先日、3月30日のワールドカップ予選、vsベラルーシ戦でもゴールを挙げた(ベルギーが8-0で大勝)。主力の世代交代を迎えているベルギー代表にとっても、ドクは頼もしい新戦力だ。
「期待外れ」の声に反論
今シーズン、UEFAチャンピオンズリーグに出場したレンヌは、リヨンから攻撃的MFマルタン・テリエールを引き抜くなど、大型補強を敢行した。中でも2600万ユーロと最高額を投じたのがドクだった。
ところが、リーグとフランス杯で3アシストを記録した以外は初ゴールがなかなか訪れず、「期待外れ」という批判の声もあがっていた。
しかし彼は「単純に数字だけで判断するなら期待外れと言われても仕方がないが、実際に自分がチームにもたらしてるのは数字に現れる部分だけではない。その証拠に、監督は僕を使い続けてくれている。第一、自分は完璧な選手としてこのクラブに来たわけではない。若手選手が多い、活気のあるこのクラブで、僕は成長するために来た」と堂々と反論するガッツも持ち合わせている。
彼が言うように、チームメイトには同い年の注目株、MFエデュアルド・カマビンガもいる。
レンヌは一時10位まで後退したが、現在は6位まで盛り返し、欧州カップ戦出場権が得られる5位以内を目指して新監督の下ラストスパート中だ。
ネイマールが負傷で欠場続きだったせいもあるとはいえ、18歳で挑戦した未知のリーグで、いきなりリーグトップの数字を叩き出しているのはすごい。自分のストロングポイントを知り、それを武器に躊躇なくチャレンジするメンタルの強さの表れでもある。
彼もまた、リーグ1を経てビッグスターへと成長した先人たちの軌跡をたどっていくのだろう。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。