昨今、テレビでサッカー中継を視聴する若者が減少しているという。
フランスでは今シーズン、リーグ1とリーグ2のテレビ放映権を獲得していた『Mediapro』が、目算どおりの収益をあげられなかったことを理由に放映権料を滞納し、権利を返上するという問題が起きた。
コロナ禍でスタジアムに行けなければ、おウチ観戦が増えても良さそうだ。ネットフリックスのような動画配信サイトは巣ごもり需要で増収しているというのに、不思議だな、と思っていたが、「家でテレビは見ても、サッカーは見ない」という現象が起きているようなのだ。
独自の音楽レーベルを立ち上げ
特に若い世代にとっては、YouTubeやゲームなど、他に時間を割きたい娯楽が増えて、サッカーに来ていたパイが分配されている、ということもありそうだ。
いずれにしても、クラブ側にとっては、若者のファンを取り込めないということは、将来的にファン数が先細りしていくことに繋がるから、一大事である。
ということで、どのクラブも若者層にアピールする策を講じる必要を迫られているのだが、その1つとして、マルセイユはこのたびクラブ独自の音楽レーベル『OMレコード』を立ち上げた。
そして先月、契約アーティスト第一弾として、地元出身のラッパーSysaとサインした。
マーケティング部のエルベ・フィリップ部長は「世界的にもサッカークラブが自身の音楽レーベルを立ち上げるのは珍しいと思う。フットボールとラップにはもともと深い結び付きがあるが、マルセイユは特別で、この街を象徴するカルチャーであるとも言える」と語っている。
マルセイユの庶民的な界隈や若者の映像をバックに、リアルな生活をラップに乗せて歌っているSysaのPVは、そのままOM のイメージビデオになりそうだ。
もともとマルセイユは、本拠地のベロドロームで流す音楽にもこだわりがあった。試合前のウォーミングアップ時には選手がセレクトしたプレイリストを流していて、これがけっこう面白い。
まだ一度も酒井宏樹選手の回に当たったことがないのだが、選手たちが日頃聴いている音楽の趣味がわかって親近感も湧いてくる。
Twitchやeスポーツにも力を入れる
マルセイユがもう1つ力を入れているのが、ゲーマーに人気のライブストリーミング配信プラットフォーム、Twitch の活用だ。
試しにシーズンオフのテストマッチを配信したところ、最大時で10万人、累計26万人の視聴者を獲得したことで、このプラットフォームの可能性を確信したという。
フィリップ部長によれば、Tik Tokなど他のプラットフォームでは短い動画が好まれるが、Twitchの視聴者は長尺のものを見る特徴があるそうで、統計でもサッカーコンテンツの人気が上昇しているという調査結果が出ているらしい。
最近はパリ・サンジェルマンも、マウリシオ・ポチェッティーノ監督の試合前会見を、オフィシャルな会見とは別に、Twitch用に撮影している。
もう1つ、若いファン層にアピールする策として、各クラブが積極的に取り組んでいるのが、ここでも何度か紹介しているeスポーツだ。
マルセイユのeスポーツチームは、アントワーヌ・グリーズマンが弟のテオと一緒に立ち上げたeスポーツプレーヤー集団『Grizi』と提携し、『Grizi』がリクルートした精鋭プレーヤーを、マルセイユのeスポーツチーム代表として『FIFA』や『e-Ligue1』 といった大会に送り出すことになった。
これからの時代、キーワードになるのは「インタラクティブ」。片方が発信したものを受け取るのではなく、双方がやりとりしていく形だ。フットボールを楽しむスタイルも、これから加速的に変化していきそうな気がする。
Photo: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。