トッテナムの若手事情が少し面白いことになっている。
ジョゼ・モウリーニョ政権2年目に入ったスパーズは、シーズン序盤こそ首位に立つ好調ぶりを見せたが、2020年12月下旬から調子を落とし、今年1月には3連敗を喫してトップ4から陥落した。
そんな中で迎えた今月7日のウェストブロミッチ戦(2-0で勝利)ではうれしいニュースがあった。ケガで離脱していたFWハリー・ケインの3試合ぶりの復帰も朗報だったが、それ以上にサポーターが“ワクワクした”瞬間があったのだ。
ゴール量産でチャンスをつかむ
試合終了間際、生え抜きのストライカーが投入されたのである。93分にソン・フンミンに代わってピッチに立ったのは、ギャレス・ベイルではなく聞き慣れない名前だった。デイン・スカーレット。16歳と320日での出場は、スティーブン・カーの17歳27日を抜いてスパーズにおけるプレミアリーグ最年少出場記録だという。
ロンドン生まれのスカーレットは、スパーズの下部組織に加入すると、昨季は15歳にしてU-18チームでプレーしたものの、膝のケガで長期離脱を強いられた。それでも今季開幕前にはジョゼ・モウリーニョ監督に呼ばれてトップチームのプレシーズンマッチに出場した。
そして11月、UEFAヨーロッパリーグのルドゴレツ戦で試合終盤に投入され、16歳247日で公式戦デビュー。これは当時のクラブ最年少記録だった。その後はトップチームでさらなるチャンスをうかがいながら、主戦場であるU-18チームではリーグ戦11試合13ゴールと得点を量産した。
そんな彼の名前がサポーターの間で知れ渡るようになったのは、今年1月12日のFAユースカップの試合がきっかけだ。スパーズのU-18チームはニューポートを相手に2点のリードを許したが、そこからスカーレットが大爆発。1人で5ゴールを奪う活躍で、チームを6-2の逆転勝利に導いたのだ。
これにはサポーターもSNS上で大興奮し、『football.london』によると「生涯契約を結べ」や「メッシは自分の部屋にスカーレットのポスターを飾っているそうだ」といったコメントが寄せられたという。
そして今回のプレミアリーグデビューに至った。無論、即戦力という話ではない。試合後、モウリーニョ監督は「1回もボールを触れなかったと思う。だが、16歳の彼がピッチに立ったという事実は、彼本人だけでなく、クラブのアカデミーにとっても非常に大きいことだ」と『BBC』のインタビューに答えた。
「数年後には“何者か”になっている」
思えばモウリーニョは「若手を軽視する」と非難される監督だった。選手を育てず、補強した大物選手に頼るという評価だった。そのため、モウリーニョは2016年にマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任した際、記者会見で「これまでにアカデミーから49名の選手を引き上げた」と言って、そのリストを記者たちに見せつけたのだ。
だからスカーレットについても「私にとっても大きなことだ。私は、彼をプレミアリーグでデビューさせる監督になりたかったんだ。なぜなら、彼は数年後には“何者か”になっているはずだからね」と、スカーレットが大成した時にはしっかり自分の名前も残るようにしたのだ。
いつかモウリーニョが再びあのリストを作成する時、真っ先にスカーレットの名前が書き記されると思うが、新たに加わる名前は彼だけではない。今年1月のFAカップ3回戦、マリンFC戦(5-0で勝利)では、生え抜きのMFアルフィー・ディバインがトップチームデビューを飾り、ゴールまで決めた。16歳163日でスカーレットを抜き、クラブ最年少出場記録を更新した。
こうして若い才能が台頭する一方で、残念ながら大成せずにチームを後にする者もいる。先月末、マウリシオ・ポチェッティーノ前監督の息子で、トッテナムU-23チームに所属していたマウリツィオ・ポチェッティーノ(19歳)がワトフォードへと移籍した。
彼はサウサンプトンからスパーズへと、監督である父とともにステップアップしてきたが、父がパリ・サンジェルマンという世界的クラブを率いる一方、息子はイングランド2部のU-23チームへと身を移すことになった。
そう考えると、スパーズの若手事情にとっては非常に印象的な数週間だった。
Photos: Getty Images
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。