6月11日に開幕する予定のEURO2020。今回は特別フォーマットで、準決勝までは12都市で開催され、準決勝と決勝はロンドン(ウェンブリー)で行われる予定だ。その12都市の1つ、ビルバオで開催反対の声が出ている。
歴史的バスクが敗北する?
この時期にスポーツビッグイベント開催を疑問視、と聞くと「新型コロナウイルス感染拡大への懸念」と想像してしまうが、そうではない。
2月2日、ビルバオ市で開かれた委員会で開催反対を表明したのは、少数派の2政党。その1つ「ビルドゥ」の反対理由は、ナショナリズム的な視点のものだ。
「ビルバオが、エウスカル・エリア(歴史的バスク)が敗れてスペインが勝利する場となってしまう」
バスク地方には、バスクの文化を共有する「歴史的な領域としてのバスク」の独立を支持する人が一定数いる。アスレティック・ビルバオの本拠地サン・マメスでは、1967年を最後にスペイン代表の試合は開催されていない。彼ら独立派にとっては、独立運動を弾圧してきたスペインの代表チームをビルバオに招くことは一種の侵略であり、屈服でもあるのだ。
これ自体は以前からある議論だが、コロナ禍で無観客が濃厚となり、市に落ちるはずだった3000万ユーロ(約38億円)の収入が見込めなさそうとあって、再燃した格好だ。
サッカーは女性を差別している?
もう一つの政党「ポデモス」の反対理由は、フェミニズム的な視点もの。
「男性優位主義化されたイベントであり、サッカーというスポーツは女性を差別しているから」「テストステロン(男性ホルモン)を野放しにすると問題しか起きない」
スペインは男女の平等に非常に繊細な国だ(逆に言えば、男性優位主義が根強く残っている国でもある)。
現在の左翼連立政権には22人の大臣がいるが、そのちょうど半数にあたる11人が女性。「男女平等省」なんて省庁があり、女性大臣はポデモスの所属者である。ポデモス、ビルドゥとも少数派だが連立政権に参加しており、国政への一定の発言力は持っている。
日本では東京オリンピック・パラリンピック組織委員会長が女性蔑視発言をしたと問題になっているが、スペインであれば間違いなく更迭、あるいは辞任を余儀なくされていただろう。
UEFAはEURO2020開催にいくつかのプランを用意している。12都市開催を取りやめ、1つの都市で開催する、というのもその1つだ。感染拡大が止まらず、ワクチンの接種も一向に進まないとあって、4月の最終決定時にはこのオプションが選ばれるのではないかと言われている。
よって、今回のビルバオ開催反対の件は、最終的には無意味な議論となるかもしれないのだが、日本人としては「世界は広い、いろんな意見があるものだ」ということを改めて知る機会になったと受け止めればよいと思う。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。