混戦模様が続く今季のプレミアリーグでは、中堅クラブの健闘が目立っている。そんな中でも印象的な躍進を遂げているのが、新年最初のゲームで王者リバプールから1-0の勝利を挙げたサウサンプトンだ。
大金星に感極まった指揮官
ラルフ・ハーゼンヒュットル体制3年目に入った今季のセインツは、一時はトップ4に名を連ねるほどの健闘ぶり。現在は団子状態の中位にいるが、どん底からの躍進が光るチームなのは間違いない。というのも彼らは昨季、フットボール史に残る大敗を喫しているのだ。
2019年10月、ホームにレスターを迎えたサウサンプトンは開始早々に退場者を出したこともあり、失点を重ねて気づけば0-9の大敗。130年以上のフットボールリーグ史において、ホームチームによる最大の敗戦となってしまった。
だからこそ、今年のリバプール戦の金星は格別だった。試合後にベンチ前で膝をついて涙を流したハーゼンヒュットル監督は「風が目に入っただけさ」と誤魔化したが、間違いなく感極まっていた。コロナ禍の影響もあっただろうし、ドイツのアーレンを率いていた頃から全敗していたユルゲン・クロップ監督に初めて白星を挙げた喜びもあったはずだ。そういった様々な感情がこみ上げてきて目頭が熱くなったのだ。
それにしても「0-9」の大敗を喫した監督が、ここまで見事に返り咲くなんて前例がないだろう。そう決めつけていたが、実はそうでもないようだ。英紙『The Guardian』によると、過去にも似たような事例があるという。
大敗のち降格も解任されずに復活
1992年に発足されたプレミアリーグにおいて、9点差の敗戦を喫したチームは2クラブだけ。昨季のサウサンプトンと、1995年3月に敵地でマンチェスター・ユナイテッドに9点を叩き込まれたイプスウィッチである。
昇格3年目だったイプスウィッチは、シーズン序盤からずっと降格圏に沈んだまま。そして迎えたユナイテッド戦では、FWアンディー・コールに5ゴールを奪われるなど0-9の大敗を喫した。そして、そのまま勝てない日々が続いて2部へと降格した。そこから5シーズンも2部生活が続くのだが、イプスウィッチは当時チームを率いていたジョージ・バーリー監督を代えなかった。
そして2000年にようやくプレミアリーグ復帰を果たすと快進撃が始まった。バーリー率いるイプスウィッチは、エースのFWマーカス・ステュアートの活躍もあって勝ち点を積み重ねると、最終的にチェルシーを抑えて5位に入ったのだ。プレミアリーグでのクラブ最高位を記録するとともに、彼らは19年ぶりにUEFAカップ(現UEFAヨーロッパリーグ)出場圏も獲得し、バーリー監督も年間最優秀監督に選出された。
とはいえ、翌2001-02シーズンには再びプレミアリーグから降格し、2部リーグでも成績が出ずにバーリー監督は退任。それ以降、イプスウィッチは一度もプレミアリーグに返り咲けておらず、現在は3部リーグに身を置いている。
名将誕生はフロント次第
『The Guardian』紙によると“大復活劇”は他にもあるようで、例えば1989-90シーズンのスティーブ・コッペル監督率いるクリスタルパレスがそうだという。リーグ戦でリバプールに「0-9」の大敗を喫するも、FAカップ準決勝では同じ相手に4-3の勝利を収めて決勝に勝ち上がったそうだ。
さらに、現在ベルギー代表を率いるロベルト・マルティネス監督もウィガン時代に復活劇を経験している。
2009-10シーズンにはトッテナムに「1-9」、チェルシーに「0-8」の大敗を喫するも、チームを率い続けて2012-13シーズンにはFAカップで決勝に進出。そしてファイナルでマンチェスター・シティを下してクラブ史上初の主要タイトルを獲得するのだった。とはいえ、同クラブもその後は財政難に喘ぎ、現在は3部リーグに低迷している。
このように、大敗から復活を遂げる監督は決して少なくない。ただし、彼らに共通して言えるのは、何よりもクラブのフロントが忍耐強かったということ。名将が生まれるかどうかはフロント次第なのだ……。
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。