フランスサッカー重要人物30人発表。1位は注目の女性レフェリー
『レキップ』紙が毎年年始に発表する「フランスサッカーの重要人物30」。選手や監督、クラブオーナーやメディア界の重要人物など、顔触れを見ると、フランスサッカー界の「今」を知ることができるランキングだ。
国内外でビッグマッチを裁く
6回目となる2021年のナンバー1には、女性レフェリーのステファニー・フラッパール氏が選ばれた。
2020年12月、UEFAチャンピオンズリーグのユベントスvsディナモ・キエフ戦で、同コンペティションで初めて主審を務めた女性審判として話題になったので、ご記憶の方もいるかもしれない。
UEFAヨーロッパリーグではそれより前、10月のレスターvsゾリャ・ルハーンシクで笛を吹いていて、2019年のUEFAスーパーカップ、リバプールvsチェルシー戦でも主審を務めた。
フランス国内ではすでに最高レベルの資格を取得していて、副業なしで審判業を専門とする「プロ審判」だ。昨季からフランスにいる2万人超の審判の中から23人しか選ばれないというリーグ1の主審団に名を連ね、今季もリヨンvsマルセイユといったテンションの高い試合を裁いている。
フランスで開催された2019年の女子ワールドカップ決勝戦、アメリカvsオランダ戦やUEFAネーションズリーグなど、国際マッチでも着実にステップアップしていて、今年開催のUEFA EURO 2020や来年のFIFAワールドカップの審判に選ばれる可能性も期待される、まさに話題の人物だ。
13歳から審判を志す
パリ近郊の生まれで、姉と弟3人の5人兄弟全員が地元のクラブでフットボールをプレーしていたというサッカー一家。ステファニーさんも地域では名の知れた「10番」だった。
しかし早いうちから競技ルールに興味を抱き、13歳の頃には「自分は将来、審判になりたい」と宣言していたという。少年チームの試合で実際に審判を務めることもあった。
彼女の能力で高く評価されているのは、元選手ならではのアスレティック能力や、蹴られたボールがどこへ跳ね返るか、といった展開を読む巧さだ。選手たちが「どこにいたかわからなかった」と言うほどゲームの邪魔をせずに動けるのは、審判に適した才覚と言える。
90分間を走り切る体力に乏しい審判も少なくないらしいが、ステファニーさんは週3回程度、1マッチの走行量に匹敵する12〜14kmを走り込んで鍛えているそうだ。
熱くなったサポーターがピッチ目がけて発煙筒を投げ込んでくるような荒れた試合を裁いたり、野次を飛ばされたりしたことも何度かあるというが、「ピッチに上がるのを怖いと思ったことは一度もない」と凛々しい。
2019年にはフランス国家功労勲章も授与されるなど、彼女の功績はサッカー界以外でも評価されている。そうして自分の活動が認知され、メディアでも取り上げられることで「後に続く人たちに道を拓きたい」と話している。
2位以下も納得の顔触れに
2位から30位までの人選は以下の通りだ。
2 キリアン・ムバッペ(パリ・サンジェルマン/フランス代表)
3 ディディエ・デシャン(フランス代表監督)
4 マキシム・サーダ(有料テレビ会社『カナル・プリュス』社長)
5 バンサン・ラブリューヌ(プロフットボールリーグLFP会長)
6 ノエル・ル・グラエ(フランスフットボール連盟会長)
7 クリストフ・ゴルティエ(リール監督)
8 ネイマール(PSG)
9 アマンディーヌ・アンリ(リヨン/フランス女子代表)
10 ジネディーヌ・ジダン(レアル・マドリー監督)
11 コリーヌ・ディアクル(フランス女子代表監督)
12 アントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ/フランス代表)
13 レオナルド(PSGスポーツダイレクター)
14 エデュアルド・カマビンガ(レンヌ)
15 ルディ・ガルシア(リヨン監督)
16 アンドレ・ビラス・ボアス(マルセイユ監督)
17 オリビエ・ジルー(チェルシー/フランス代表)
18 ジャン・ミシェル・オラス(リヨン会長)
19 ナセル・アル・ケライフィ(PSG会長)
20 カリム・ベンゼマ(Rマドリー)
21 トーマス・トゥヘル(元PSG監督)
22 ウェンディー・ルナール(リヨン/フランス女子代表)
23 フロレンス・アルドゥイン(フランスフットボール連盟ジェネラルディレクター)
24 アドリアン・ラビオ(ユベントス/フランス代表)
25 キングスレイ・コマン(バイエルン/フランス代表)
26 ジャック・アンリ・エイロー(マルセイユ会長)
27 ウーゴ・ロリス(トッテナム/フランス代表)
28 ヴァンサン・デュルク(『レキップ』フットボール部門チーフ記者)
29 ロラン・ニコラン(モンペリエ会長)
30 ステファン・ギー(元『カナル・プリュス』コメンテーター)
ムバッペを筆頭に、PSG関係者が5枠を占めている。女子代表の監督vs主将アンリの衝突も話題になったし、レンヌ所属の18歳カマビンガなど、納得の顔触れだ。
23位のアルドゥイン女史はル・グラエ会長の右腕で、デシャン監督からの信頼も厚く、代表チームの環境を良くするサポート役としての手腕を買われているとのこと。
30位のギー氏は、出演したパロディー番組の内容で親会社を怒らせてクビになった同僚を擁護したことで、自身も23年間務めた『カナル・プリュス』からクビを切られた。
辛口のジョークを交えるなど、独特のスタイルを確立していた彼にはコアなファンも多かったが、23年という長い軌跡がこの一件でバッサリ断ち切られたのもなかなか衝撃的だった。そのため、本社前には処分撤回を求める人たちが詰めかけるなど、いまだ騒動は解決していない。
Photos: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。