まだまだ通過点…ムバッペ、PSGでの公式戦通算100ゴールを達成
12月5日に行われたリーグ1第13節のモンペリエ戦で、キリアン・ムバッペがパリ・サンジェルマンでの公式戦通算100ゴールを達成した。
この日はベンチスタートだったが、78分に投入されると、アディショナルタイムに節目のゴールを記録。チームは3-1で勝利した。
22歳を目前に大台に乗せる
「100ゴールのことは2、3戦前から意識していて、それでかえって決められなかった感じもあった。だから、大事なのはチームとして結果を出すことだ、という考えに立ち返った」
これまでのキャリアで、『最年少で〇〇』といった経験を山ほどしてきた彼でも、PSGでの通算100ゴール達成は特別だったようだ。
22歳を迎える誕生日から15日前の偉業達成に、PSGのOBであるデイビッド・ベッカムも「この若さでこの偉業を達成したことは、彼自身、家族やチーム、そして何よりファンにとって素晴らしいことだ」とお祝いコメントを寄せていた。
「彼には何年か前に初めて会ったが、印象的だったのは謙虚さだ。自分がまだ現役で、彼と一緒にプレーできたら、と思うよ。どこにボールを出しても決めてくれる。彼みたいな選手とプレーできるなんて、まるで夢のようだ」
放り込んだボールをことごとくゴールにつなげてくれそうなムバッペのプレーを見ていると、名パサーとしての血がうずくのだろう。
モナコでリーグ1優勝を成し遂げた直後の2017-18シーズンから、PSG在籍は4季目を数える。一昨シーズン(33ゴール)、そして途中で打ち切りになった昨シーズン(18ゴール)ともにリーグ得点王。今季も第13節終了時点で10得点と、さらに早いスピードで得点を重ねている。
PSG初ゴールは川島から
第4主審の差別発言による一時中断を経て12月9日に行われたUEFAチャンピオンズリーグのイスタンブール・バシャクシェヒル戦で2ゴールを上乗せし、プロ入りしてからの通算得点数は129。記念すべき初ゴールはモナコ時代の2015-16シーズン、vsトロワ戦で、この時17歳だった。
そしてPSGでの初ゴールは、加入後間もない2017-18シーズンの第5節メス戦だった。100本中3本しかない、彼には珍しいペナルティエリア外からのシュートで、金字塔の第一歩となるゴールに対峙した相手GKは川島永嗣だった。
『レキップ』紙に掲載されていたデータによると、100本のうち90本と、大半は試合の流れの中で決めたものだ。カウンターアタックの申し子なだけある。
興味深いのは、前半戦よりも後半、さらに時間帯で言うと75分から90分の間に最も多くのゴールを決めていること。最後まで途切れない彼のハングリー精神が象徴されている。
元フランス代表SBビセンテ・リザラズは、「何と言っても彼の最大の武器はあのスピードだ」とコメントしていたが、超高速で突っ走りながら、まったくスピードを落とさずそのまま射抜けるテクニックは超人的なレベルだ。
そして、ゴールまで詰め寄るスピードと合わせてもう1つすごいのは、シュートモーションの速さ。ボールが彼に渡り、「打ってくる」と相手DFが身構える頃にはもう打っている。
彼と何度か対戦しているマルセイユのDF酒井宏樹が感嘆していたのも、想像をはるかに超える、ムバッペのシュートにいく動作の驚異的なスピードだった。反応する余地がまったく与えられない、だから止めようがないのだ、と。
PSGの歴代最多得点者は今夏に移籍したエディンソン・カバーニで200ゴール。
以下ズラタン・イブラヒモビッチ156得点、そしてカタール時代以前のベストスコアラーであるポルトガル人のペドロ・パウレタの109得点と続くが、大きなケガによる長期欠場でもなければ、ムバッペが今季中にパウレタを抜いて3位に浮上するだろう。
ちなみに、100ゴール達成までに費やしたのは137試合。イブラヒモビッチが最速で124試合だが、カバーニの166試合よりは断トツに早い。
もっとも、これはチーム状況にもよる。イブラヒモビッチが主砲だった時代は、チャンスボールのほとんどが彼に集まるシステムだった。ムバッペの場合は、ネイマールやアンヘル・ディ・マリア、マウロ・イカルディなど、チャンスが分散する中でこれだけ決めているのだから、かなりの効率だと言える。
200ゴールが先か、移籍が先か
ちなみに、彼に最も多くのシュートチャンスを献上しているのはネイマールだ。
そしてムバッペ自身も、彼らのような名アタッカーとプレーすることで、PSGに入ってからアシスト数が飛躍的に向上していて、CLだけでも16アシストを記録している。
ネイマールは「彼とは本当に相性がいい。俺たちは兄弟みたいなんだ。彼とゴール前で組んでプレーできるのは俺にとっても喜びだ。一緒に200ゴール目も迎えたいね」と祝福コメントを寄せていたが、彼が言うように、200ゴールを迎えるまでムバッペがPSGにいるかどうかは微妙だろう。
現行の契約は2022年6月まで。スポーツディレクターのレオナルドは現在、必死に契約延長交渉をまとめようと奮闘している。
モナコ時代のスポーツディレクター、ルイス・カンポスは「今の彼は自分の能力の70%、多くても80%しか出していない。これからまだまだ伸びしろがあるだけに、(PSGでプレーし続けるかは)彼が、自分が成長できると心底実感できるプロジェクトがあるかどうかが大きな要素となるだろう」とコメントしていた。
「算数と同じだ。同じ難易度の問題ばかりいくら解いても進歩しない。さらなる難題に挑み、それを乗り越えることでより成長できるのだ」
フランスで実力が証明できたなら、さらに上の環境、より手ごわい相手と対戦して、どれくらい自分がやれるのか試してみたくなるはず。
22歳の彼の前には、まだまだ無限のキャリアが広がっている。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。