今季のEFLチャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)で異変が起きているという。プレミアリーグ同様に無観客で開幕を迎え、制限付きで先週から観客動員が認められるようになった異例のシーズンだが、異例なのはピッチ外だけではないという。
スポーツ情報サイト『The Athletic』によると、ピッチ上でも異変が起きているというのだ。というのも、12月2日までの開幕15節で、両チームを合わせて1試合に生まれたゴール数が平均「2.23」となっており、なんとこれは128年前にイングランド2部リーグが創設されて以降で最少の数字だというのだ。
「1980年のセリエAのよう」
ちなみに、昨季の2部リーグの1試合平均ゴール数は「2.63」。そうなると真っ先に考えてしまうのは無観客の影響だが、実は同じような状況下のプレミアリーグでは1試合平均「2.95ゴール」(第10節終了時点)となっており、これは1992年に開幕したプレミアリーグ史で過去最高なのだ。
ウェイン・ルーニーが暫定監督を務めるダービー(降格圏に低迷)を含め、今季2部リーグでは24チーム中、実に8チームが1試合平均1得点を下回っているのだという。それどころか、第15節を終えた時点で得点ランク首位に立つアダム・アームストロング(ブラックバーン)の14ゴールを、チーム総得点で下回るクラブが6つもあるそうだ。
首位を走るノリッジでさえ、開幕15試合でわずかに19得点。1試合平均で見ると「1.27得点」と得点力不足を抱えており、3位ワトフォードや5位ブリストル・シティも同等だった。
そのため『The Athletic』は「2020年のチャンピオンシップというより1980年のセリエAのようだ」と指摘する。「もしかするとサポーターも『今季に関しては家のソファーから観戦するのが一番』と考えるかもしれない」と揶揄するほどだ。
だが、異変はゴール数だけではないという。開幕15節を終えた時点で首位ノリッジの28ポイントというのは、首位チームにとっては1999-2000シーズン以降で最少だという。さらに第15節を終えて、プレミアリーグから降格したばかりの3チーム(1位ノリッジ、2位ボーンマス、3位ワトフォード)が上位3位を占めるのも初めてだという。
そんな奇妙なシーズンの原因はどこにあるのだろうか? ゴール欠乏症はどこからやってきたのだろうか? 前述の通り、理由は「無観客」だけではないはずだ。
実は、ノリッジを率いるダニエル・ファルケ監督が、すでに原因を突き止めているというのだ。ファルケ監督は「簡潔に答えるのなら、ニール・ウォーノック、トニー・ピュリス、アイトール・カランカが現場に戻ってきたからさ!」と笑みをこぼしたという。
必然か、それとも偶然か
確かに、第15節を終えた時点で得点と失点を合わせたゴール数が最も少ないのは、今季途中からピュリス監督が率いるシェフィールド・ウェンズデー(1試合平均で1.4ゴール)なのだ。そして次に少ないのがカランカのバーミンガムで、4番目に少ないのがウォーノック監督のミドルズブラだという。
やはり2部リーグを知り尽くした守備意識の高い指揮官の存在が影響を及ぼしている可能性は大いにある。ファルケ監督も「彼らが率いるチームを崩すのは難しいし、ゴール奪うとなると信じられないほど大変なんだ」と証言する。ただし、それだけが原因なはずがない。
「実際のところ、偶然だと思う」とファルケ監督。「通常のプレシーズンを送れずに連戦を戦うことになったため、少し堅守に重きを置くことはある。疲労が出始めたら、クリエイティブに戦うよりコンパクトに守る方が簡単だ。攻撃の選手がシャープに魔法を生み出すより、守備的な選手が経験を生かし、集中してボールをクリアする方が簡単なのさ」
他にも、今季の2部では同じシステムががっぷり四つに組み合い、“チェス”のようにお互いの良さを消し合う試合が多いというし、無観客のせいで試合開始と終盤5分間の「異様な盛り上がりがない」といった理由もあるようだ。しかし、やはり前述のファルケ監督の意見がとてもしっくりくる。
準備不足で迎える過密日程では、守備を意識する方が簡単なのだ。
そういえば、現在プレミアリーグで首位を走るのは、守備意識の高い名将が率いるチーム(ジョゼ・モウリーニョ監督が率いるトッテナム)だったような……。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。