ブンデスリーガ開幕から6連敗後、11月にようやく連敗をストップさせ、最下位から入れ替え戦圏内の16位まで順位を上げたマインツ。振り返れば、今季のマインツはスタートから散々だった。ハンガリー代表FWアダム・サライの処遇を巡って、選手陣とアーヒム・バイアーロッツァー監督が対立。選手が練習のストライキを敢行するなど、チームとしての体を成していなかった。
そんな状況の中、火中の栗を拾うように監督を引き受けたのは、アシスタントコーチだったヤン・モーリッツ・リヒテ監督だ。40歳と比較的若いが、すでに10年以上もプロクラブのアシスタントコーチ務めている。その一方で、ハノーファーでは育成アカデミーの統括を務めるなど、理論と実践の両面で豊富な経験を積んできた。
そのリヒテ監督が、12月2日の『シュポルトビルト』の中でチーム立て直しのプロセスを説明した。
強みを確認しゲームモデルを再調整
リヒテはまず、チームの強みを改めて定義することから始めた。加速力がある元U-21フランス代表のジャン・フィリップ・マテタ、スウェーデン代表のロビン・クアイソンら、チームの軸となるエースの能力を存分に発揮することを念頭に置いた。
その答えが、トランジションの瞬間を戦術の軸とした“急襲”だった。
「我われの強みの1つは、できるだけ速くゴールに到達できることだ。そのための選手がそろっている。それがうまくいけば、簡単にゴールが入るような感覚を一気に持てるようになる」とリヒテが話す通り、マテタは9試合で7得点。得点ランキング3位と好調ぶりを見せている。
ゲーゲンプレス一辺倒からの脱却
“急襲”と呼べるようなカウンターを成功させるには、確実にボールを奪い返すこと、そして失点をしないことが前提条件だ。リヒテはゲーゲンプレッシングを仕掛けるタイミングとリトリートに切り替えるタイミングを整理した。
前任者のバイアーロッツァーは、頑なにゲーゲンプレッシングにこだわった。それはコンセプトの明確さをもたらしたが、同時にチームシステムの構造が不安定になる要因となった。
「選手たちのフィジカルの強さを生かさないといけない。その意味で、ゲーゲンプレッシングは我われの強みの1つだ。だが、DF陣がしっかりとコンパクトにユニットを組めるようにハードワークをしなければならない。グラウンド全体に渡ってボールを追い回さなくて済むフェーズも必要だ」
「そんなことは不可能だし、自分たちの強みでもない。デュエルに負けた瞬間に大きなスペースが空いているようでは駄目なんだ」と続けるリヒテは、3-1で勝利した第8節のフライブルク戦を例に挙げる。
ボール保持率ではホームのフライブルクが72%と圧倒的に優位に立ったが、シュート数は20本ずつで互角。ゴール期待値ではマインツが3.20、フライブルクは1.48と、倍以上も得点の確率が高いチャンスを作り出した試合だ。
自分たちが勝てなくても、相手の負けを誘うことはできる。残留争いを見据え、リアリスティックな戦い方を選択したリヒテは、11月の3試合で直接降格圏からの脱出に成功した。
ファンが応援してくれるサッカーを
コロナ禍が訪れる前から観客数が落ち込んでいたマインツには、結果が必要だ。同時に、ファンの心を再びつかむ必要がある。
ドイツと一口に言っても、クラブや地域によって好むサッカーが異なる。とはいえ、ドイツのスタジアムではGKへの頻繁なバックパスを嫌って味方からもブーイングが起こり、スピードに乗って直線的にゴールに向かう時が、スタジアムが最も湧き上がる傾向がある。
「我われはファンがともにドキドキしながら観戦してくれるようなサッカーをしたい」と話すリヒテ。自身の将来のポジションも不確定だが、「監督にとっては契約年数なんかどうでもいい。負けが込めば、いずれにせよ同じことだ。仕事を成功に導くことだけが重要なんだ」と覚悟を決めた。
チームの1部残留に向けて、直接対決が続く12月の4試合が今季の行方を占うことになりそうだ。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。