メキシコ2部リーグのミネロス・デ・サカテカスというクラブで、ある選手の登録を巡って議論が起こっている。その選手の名はジャロ・マルティネスという。
2006年11月22日生まれ
2部リーグは16チームが1回戦総当たりのリーグ戦を行い、その後に上位12チームによるトーナメント形式のプレーオフを行うレギュレーションになっている。リーグ戦1位はトーナメントの準決勝、2位は準々決勝への出場権が与えられ、残りの10チームがプレーオフ初戦を行う形だ。
マルティネスは地元サカテカス出身のFWで、本来は4部リーグを戦うCチームに登録されている選手。トップチームで選手登録されたのは11月17日に行われたリーグ戦最終節のベナードス戦で、彼はベンチ入りメンバーに名を連ねた。ミネロスはこの試合に1-2で敗れたが、7位でプレーオフに進出している。
下部組織所属選手をトップチームの試合に招集し、ベンチ入りさせるのはどの国のリーグでもよくあることだ。問題になったのは、彼の年齢にあった。2部リーグの公式サイトによると、マルティネスの生年月日は2006年11月22日。ベナードス戦でベンチ入りした時は、わずか13歳11カ月という年齢だったのである。
日本で言えば中学2年生。写真を見る限り、顔つきはやや大人びており、身長も168センチあるが、体重55キロはやはりティーンエイジャーの体つきと言える。
ベナードス戦で試合に出場することはなかったが、万が一ピッチに立ったとしたら、大人の選手たちと互角に張り合うのは無理があっただろう。
サポーターも賛否両論
マルティネスのベンチ入りについてはミネロスのサポーターの間で意見が分かれており、有望株に経験を積ませるという意味では有意義な選択だった、という声と、プレーオフ直前の大事な時期にそのような決断をしていいのか、という声が出ている。選手層に不安があるのではないか、という意見もあるようだ。
あるクラブの下部組織でディレクターを務める人物は「肉体面、精神面の両方で危険にさらす行為だ。あと7年間は成長へのプロセスを踏まなければならない年齢なのに」と不満を口にした。
一方で、ミネロスのエドゥアルド・ロペス会長は次のように反論している。
「確かに彼は成長過程にある少年だが、(コロナ禍の中で)トップチームから4部チームまでに十分な選手がいないという現実的な問題がある。彼は父親とともにPCR検査を受けてパスしており、登録できる状態だったのだ。招集の前には彼と話をし、十分な経験値を得られるだろうと結論付けた。そして、メンバーには入れるが試合には出さないということを確認していた。何もおかしなことはしていない」
ミネロスは11月24日にプレーオフ初戦を戦い、テパティトランに1-0で勝利し準々決勝に進出した。マルティネスはこの試合ではメンバーから外れているので、ロペス会長の言葉通り、ベナードス戦のベンチ入りはトップチームでの経験を積ませるためのものだったのだろう。
Photo: Getty Images
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池田 敏明
長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。