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喜び、闘争心、責任感――ブラジル南米予選で開幕4連勝を飾る

2020.11.26

 ブラジル代表が、11月の南米予選、第3節ベネズエラ戦(1-0)と第4節ウルグアイ戦(2-0)に勝利した。しかも今回、チッチ監督が招集メンバーを発表した10月23日からこの2試合が終了するまでに、チームから8人の選手が離脱するという厳しい戦いの中での勝利だった。

離脱者続出の中、連勝を飾る

 集合前に不参加が決まったのは、新型コロナウイルスに感染したMFカゼミーロとCBエデル・ミリトン(ともにレアル・マドリー)。それに加えて、MFのフィリペ・コウチーニョ(バルセロナ)とファビーニョ(リバプール)、CBロドリゴ・カイオ(フラメンゴ)の3人が負傷辞退となった。

 11月9日にチームが集合してからも、ケガの治療中だったFWネイマール(パリ・サンジェルマン)の回復が間に合わずにチームを去った。そのために追加招集されたFWペドロ(フラメンゴ)も、1試合目に途中出場した後に負傷離脱。また、SBガブリエウ・メニーノ(パルメイラス)が新型コロナの陽性発覚で離脱した。

 チームの集合初日、キャプテンのCBチアゴ・シウバ(チェルシー)はこの状況について、オンライン会見でこう語っていた。

 「普通とは違った1年だ。新型コロナ感染であれ、ケガであれ、試合のたびに何人もの選手を欠き、その都度、チームの見直しと変更が必要になる。今はどこのリーグも3日ごとに試合をするという過密日程で戦っているけど、最近見た調査によると、そういう状況を続ければ、4、5試合目にはケガをしやすくなるそうだ。僕ら自身、それをとても心配している」

 さらに、選手の離脱に対応し、チッチがブラジル国内のクラブでプレーする選手を追加招集すれば、一部のサポーターがインターネット上で「良識を欠く」と批判した。FIFA国際マッチデーの期間もブラジル全国選手権が平行して開催されていたため、応援するクラブの戦力を奪われた、という不満だ。

 一方で、ブラジル代表としての強さはいつもと変わらずに求められる。格下と見られているベネズエラ戦では、勝利してもスコアが1-0だったことで批判の声が噴出した。

 メディアがそうしたインターネット上の声を紹介することで、それがまるで世論のようになっていく。

 そんな過酷な状況を、2試合目のウルグアイ戦2-0の完勝で締めくくったブラジル。それを支えたのは、チッチとスタッフ、選手たちの実力や、ピッチの内外での緻密なプラン、そして疲労回復を優先させながら、限られた時間の中で行った内容の濃い準備だろう。

過酷な状況の中、難敵ウルグアイを2-0で下したブラジル代表(Photo: Lucas Figueiredo/CBF)

セレソンであることの誇りと喜び

 そしてもう1つ、メンタリティの面でも、チッチや選手が語る“喜び”という言葉が強い印象を残した。

 ウルグアイ戦の2日前に追加招集されたFWチアゴ・ガリャルド(インテルナシオナウ)は、初招集の喜びを語りながら、感動で涙を流した。

 フル代表歴2年のFWリシャーリソン(エバートン)は、今回も「ブラジル代表であることは僕の最大の誇りであり、喜びだ。僕は自分自身のこと以上に、ブラジル代表のことが大好きなんだ」と笑った。

 ブラジルサッカー連盟(CBF)が運営する動画チャンネル『CBF TV』で、1試合目のベネズエラ戦当日のロッカールームの様子が公開された。

 チアゴ・シウバは試合の準備中、何度も手を叩きながら「喜びだ! 喜び!」「責任感を持とう、でも、喜びとともに!」と、大声で怒鳴っていた。

 また、ピッチに出る前、選手とスタッフの全員が輪になった時には、チッチが「喜びと闘争心を!」と、語り掛けていた。

ロッカールームでチアゴ・シウバ(背番号3)は「喜び」という言葉を連呼した(Photo: CBF TV)
チッチ監督も「喜びと闘争心を!」と呼び掛けていたという(Photo: Lucas Figueiredo/CBF)

「少年の頃に戻ろう」

 試合前にチームで確認し合うその“喜び”とは何を意味するのか。それを、2試合目のウルグアイ戦前に、チッチに聞いた。

 「“喜び”というのは、少年時代から大好きだった“ボールとともにいる”ということだよ。今の我われにとって、サッカーとは非常に大きな責任を伴うもの。しかし、少年の頃に戻ろう、ということなんだよ。遊びのサッカーであっても、ボールを蹴っていれば、そして攻撃に参加すれば喜びを感じられた、あの頃にね」

 「もう1つの“闘争心”というのは、攻撃するため、つまり、ボールを持つためには、守備をするという連帯感や闘争心が必要だ、ということだ。相手からボールを奪うためにね。“守備をする”というのはどういうことか。“ボールが欲しい”ということなんだ。自分たちが攻撃し、あの“喜び”を感じるために。そういう2つの局面を語っているんだよ」

 強豪ウルグアイ戦での完勝の後、チアゴ・シウバにも聞いた。『CBF TV』で見た「責任感を持とう、でも、喜びとともに!」というスピリットを持って、この試合も戦うことができたのか。

 「できたと信じている。それが、いつでも僕らの心の中にあることだから。僕らはいつでも良い試合をしようとしている。責任感のあるプレーをしようとしている。しかも、いつでも喜びを胸に抱きながら。それがサッカーではとても大事なことだし、僕はそれが可能だと信じている」

 10月の第1節ボリビア戦(5-0)、第2節ペルー戦(4-2)と合わせて、南米予選での開幕4連勝は、ワールドカップ1982年大会の予選以来の好スタートだ。喜びとともに、チームが次に集合するのは来年3月、南米予選第5節、第6節となる。


Photos: Lucas Figueiredo/CBF, CBF TV

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チアゴ・シウバチッチ

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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