スコットランドが国際舞台に帰ってくる。“タータン・アーミー”が23年の歳月を経て、国際主要大会に出場することになったのだ。
PK戦の末に悲願を達成
新型コロナウイルスの影響で来年に延期されたEURO 2020は、残された4つの出場枠を懸けて今月12日にプレーオフ決勝が行われた。そこでスコットランドが、PK戦の末にセルビアを退けて歓喜の雄叫びを上げたのだ。
スコットランドが主要国際大会に出場するのは1998年のワールドカップ以来のこと。来年の夏に本大会のピッチに立てば、実に23年ぶりの快挙となるのだ。
それにしてもスコットランドらしい試合だった。52分に先制するも、終了間際の90分にCKからルカ・ヨビッチに同点ゴールを決められて追いつかれた。
延長戦では勢い付くホームのセルビアに押し込まれるも耐えしのぎ、PK戦でGKデイビッド・マーシャルがセルビアの5人目のキッカーであるFWアレクサンダル・ミトロビッチのシュートを止めて出場権を手にした。
試合後、GKマーシャルは“VAR時代”の喜び方について『BBC』にて言及した。VARのチェックが入るため、PKを止めた後も数秒間は喜びを我慢しなければならないのだ。
「PKがやり直しにならないことを願ったよ。チームメイトがハーフウェイラインから駆け寄って来ていたからね。22年も待ちわびたんだ。あと4、5秒ほど我慢するなんて屁でもない」
一方、先制点を決めたライアン・クリスティーは試合後、『Sky Sports』のインタビューで「もうダメだ」とつぶやいてこらえていた涙を拭うと「この勝利を国に捧げる」と語った。
「今年は最悪の1年だったからね。国民に何かプレゼントしたかった。だから今夜は国民全員がパーティーをすべきだ。それにふさわしいだけのことをやってきたのだからね。何年も苦しい思いをしてきたけど、やっと肩の荷が下りた」
スコットランドは、イングランドのようなロックダウンは避けることができているが、それでも新型コロナウイルスの影響は甚大である。だからスティーブ・クラーク監督も「みんなにとって大変な時期だ。だから『国民を笑顔にしよう』という合言葉で戦った。少しはそれができたのならうれしいよ」と試合後に答えた。
「今夜は一晩中ブギウギ♪」
彼らの任務は見事に果たされた。女性初のスコットランド首相であるニコラ・スタージョンも試合後、昨年の総選挙で勝った際のガッツポーズの動画をツイッターにアップして「国も元気付けられる。よくやったわ!」とチームを祝福した。
一方で代表チームは、スコットランドを舞台にした名作映画『トレインスポッティング』のワンシーンの画像をSNSにアップし、そこに「スコットランド人に生まれても、意外と最高だろ」と書き込んだ。これは、作中で主人公が「俺たちスコットランド人はクソだ。俺たちは最下層の最下層だ。この地球のゴミだ」と叫ぶシーンへのアンチテーゼだった。
さらに、試合後の控え室で選手たちが大合唱しながら踊り狂う動画もアップされた。彼らが歌ったのはスコットランド国歌『Flower of Scotland』やスコットランド出身のThe Proclaimersが奏でる曲ではなく、スペイン人女性デュオBaccaraの『Yes Sir, I Can Boogie』だった。
実はこの曲は、アバディーンに所属するスコットランド代表DFアンドリュー・コンシダインが数年前に婚前パーティーで披露した曲である。セルビア戦では出番がなかった33歳のコンシダインだが、チーム全員で彼の代名詞となった曲を合唱。「ブギウギ踊れるよ。でも、そのためには曲が必要だ。今夜は一晩中ブギウギだ♪」と歌って踊り続けたのである。
初戦は地元開催予定だが…
そのスコットランドは、来年の本大会ではクロアチア、チェコ、そしてイングランドと同じD組に入ることになった。初戦は来年6月14日のチェコ戦。会場はグラスゴーのハムデンパークである。そして、4日後にはウェンブリーで宿敵イングランドと相まみえる。
早くも来夏が待ち遠しいスコットランドだが、ヨーロッパは新型コロナウイルスの影響が深刻で、来年になってもEURO2020が予定通り開催される保証はない。
フランスの新聞などは、12カ国で開催するのではなく、1カ国、例えばロシアだけで開催することも検討されると報じた。
もしそうなったら、23年も待ちわびてきたスコットランドのファンはハムデンパークで愛するチームの雄姿を見ることができなくなる。それはそれで「なんてスコットランドらしいんだろう」と『BBC』の記者は自虐的に綴っている。
いずれにせよ、あのバグパイプが、あのキルトのスカートが、そして“タータン・アーミー”が国際舞台に戻ってくる。
「No Scotland No Party」を合言葉に、来夏はスコットランドがパーティーの主役として“ブギウギ”を踊ることだろう。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。