FEATURE

選手が語るVAR。齊藤未月「スローで見ると激しく見える」

2019.09.17

VAR特集#3】 齊藤未月(湘南ベルマーレ/U-20日本代表)インタビュー

いよいよルヴァンカップでも始まったVARについて選手は実際どう思っているのか。今年のU-20W杯の日本代表チームでキャプテンを務めた齊藤未月が、世界の舞台で経験したVARについて語ってくれた。選手にとってVARはポジティブなのか、また選手によってはプレースタイルが変わるのか、インタビュアーの川端暁彦が選手の本音に迫った。


――U-20W杯で4試合、「VARのある」試合をキャプテンとして体感したわけですけど、実際やっていてどうでしたか?

齊藤「基本的にはあまり気にはならないかなくらいの感覚でしたね。ただ、やっぱり、得点が入った時とかは今まで以上に緊張します。実際に入ったかどうかというのがわからないので……。審判が(VARと交信して)今チェックしているぞというのも常に感じることになるので。だから、『どっちだよ、頼むから入っていてくれ』みたいな感覚です(笑)」


――あの間は独特でしょう。

齊藤「独特ですね。ゴールが決まってから喜びづらくなるのは間違いないと思います」


――ラウンド16・韓国戦では郷家選手のゴールがVARで取り消しに。今あらためて振り返ると?

齊藤「あれがグループリーグだったら、切り替えられる部分もあったと思うんですが、ノックアウトで、それこそW杯だったから……。精神的なダメージは大きかったと思います。VARでゴールが取り消されるというのは初めての経験でしたから。難しいところはありました」


――初めてあれを喰らうと動揺しますよね。

齊藤「チームとして動揺しちゃっていましたね。僕もそうですし。そこは間違いないです」


――選手たちもそこが試合の流れの変わり目だったなという感想でした。もし、あれがVARのない普通の試合だったら、副審がすぐ旗を上げてノーゴールで終わっていたのかもしれないし。

齊藤「そこも慣れなんだと思います。VARのある試合だと、副審は微妙な時は(旗を)上げないでゲームを続行させるので、そういう部分についても初めてやった選手としてやりづらい部分はあったと思います」


――副審のフラッグアップについては、明らかにオフサイドっぽい状況でも取らないで続行になるから、無駄走りさせられる感覚もありますか?

齊藤 「ありますね。ただ、そこも慣れなんだと思います。VARがこちらにとって有利に作用することもあると思うし、慣れれば問題ないと思います。まず本質として、『誤審をなくす』ということは間違っていないと思うので。正しい判定を出してくれるというのは、選手にとって悪いことではないと思いますから」


――各年代のW杯でも、あるいはクラブW杯でもVARを導入する方向になっているのが現状だから、逆にJリーグで経験しておきたいというのもあるのでは?

齊藤「それこそ、プレミアリーグも今年からVARが入りましたからね。そうなると、Jリーグも早くやった方がいいと思います。最近はジャッジについていろいろとありますし、もし早く導入できるのだったら、導入してくれた方が選手にとってもいいことだと思います」


――湘南でも浦和戦で大きな誤審が。

齊藤「そうですね。僕が(代表に)行っている間にありました」


――ああいうのは選手としてなくしてほしい、と?

齊藤「どうですかね、あったらあったで面白いという考えもあるのかもしれない。ただ、(杉岡)大暉が試合後にコメントしていたみたいに、僕たちはサッカーへ人生を懸けている職業だから、一つのゴールが決まるかどうかが大事になってくる。だからやっぱり、選手としては(VARが)あってもいいのかなと思いますね」


――ただ、逆にないならないでいいという感覚?

齊藤「なくても気にならないですね。ただ唯一、ゴール・ライン・テクノロジーだけは、すぐにでも入れてほしいなと思いますけど。正直、ゴールはゴールじゃないですか」


――PKかPKじゃないか、とは違うと。

齊藤「そうです。ファウルの判定は人のさじ加減みたいなところがあって難しいと思いますが、ゴールはゴールなので。ラインを割っているかどうかだけなので。そこはあってもいいという感じですね」


――ただ、世界的な方向性は、ゴール・ライン・テクノロジー単独よりもVAR導入に傾いていて、乗っかるしかないところもある。

齊藤「そうですね。世界のサッカーがそうする流れなら、そこに抵抗する必要もないなと思います」

VARで選手のプレーは変わるのか?

――プレー的な変化は? 例えばペナルティエリア内の守備が変わるとか。

齊藤「選手としては、正直そこまでやっている分には気にならないと思います。基本的にはプレーが終わってからどうこうって話なので」


――統計的にVARのある試合はPKが増える傾向があるので、ペナ内で仕掛けるプレーが増えるんじゃないかという未来予測もあります。

齊藤「ああ、それは間違いなく増えると思います。1回誰かが倒れるごとに、チェックすると思うので、ディフェンスとしては不利になる部分はあると思うし、逆に攻撃として有利になる部分は増えるのかなと思いますね」


――逆にペナに入れさせない守備みたいなのがより大事になってきますか?

齊藤「そうかもしれないですね。そこは個人戦術を含めて、どんどん合わせて上げていかないといけない部分の一つかなと思います」


――プレーのところでいくと、セットプレーの守備がVARで変わるのではないかと言われています。U-20W杯の時はどうでした?

齊藤「極端な変更はなかったですが、ハンドの部分は言われましたね。身体より手が上がってしまうと間違いなくハンドを取られるという(ルールの部分も)一つあります。 実際、審判がずっと『カメラで観ているぞ』と試合中に言ってくるんですよ」


――そんなこと言うんだ。

齊藤「審判がずっと言っていて、CKだけじゃなくてFKの時にも壁の選手に向かって『カメラは観てるぞ』と。これ以上、位置を変えるなと言ってくる」


――俺は観ていなくてもカメラは観ているぞ、と(笑)

齊藤「ずっと言ってました(笑)」


――その意味では、審判にとっては一つ武器が増えたみたいな感覚もあるのか。

齊藤「そうでしょうね。それこそボールと関係のない変な位置で蹴ったりしていても、それを把握できるという部分はありますね」


――そう考えると、フェアプレーをしている選手にしてみれば、変なことしてくるやつがいなくなるからいいのかな。

齊藤「そうですね。悪いプレーは悪いプレーだと思うので、そこに関しては間違いなく。そこは選手を守るという意味でも大切な変化なのかな、と」


――汚いプレーへの抑止力になりますね。

齊藤「もちろん選手はみんなフェアにやろうとしてやっていると思っていますけど、ただ熱くなったりすると、そういうプレーが出たりもする。それはどの国だからとかいうことも関係なく出てくるものだと思います。そこを未然に防ぐというか、そういう(抑止力としてのVARには)良い部分もあるのかなと思いますね。試合が白熱するのは大事ですけれど、ケガをさせたりするのは両者にとって良くないですし。そういうプレーが少なくなるのはいいのかな、と」


――やってる選手側としては、基本的にいまやっているプレーの延長線上で対処できるという感覚ですか?

齊藤「まさにそんな感じですね。正直W杯でプレーをしながら(VARの存在を)めっちゃ意識しながらやっていたという感じはなかったですね。ただもちろん、点が入った後とかの感覚は変わってくると思います」


――ゴールが決まった後それが取り消されるみたいな大きなイベントは別ってことですね。

齊藤「そこはそうですね。どの選手も多少なりとも影響があったと思います」


――現地で観ていた自分も動揺がありました(笑)。一方、日本側の後悔としては、西川潤のシュートが相手DFの手に当たったプレー。あれをもっとアピールしておけばみたいな意見もありました。

齊藤「あれは僕も試合が終わった後に気づいたんですよ。けど、ああいうのとかはどうなんですかね。僕らにはちょっとわからない部分がある。ハンドはハンドでしたから。そこはVARで『どういう風に決めているんだろう?』というのはありますね。見返してみて、『どうしてこれをチェックしないのか?』とは思いましたけど(笑)」


――チェックする側も人間だし、時間にも限りがある。試合も流れていくしね。だから、そういう『チェックしてほしい箇所』があった時に、よりアピールすることが求められるようになっていくのかもしれない。ただ、VARでの確認をジェスチャーで要求すると警告対象になりますが(笑)。

齊藤「(西川)潤もアピールしておけば良かったとは思いましたけど、そもそも(試合中は)全然気づいていなかったです」


――その辺も慣れですかね。

齊藤「間違いないですね。慣れはあると思います。やっぱりハンドだったりに関しては、VARが気付けば検証してもらえるわけで、アピールしておいた方がいいということになりそうですね」


――あと、日本では今まで『主審は絶対だ』と教え込まれてきている中で、VARの導入によって実質的に『主審の判定が覆る』ことが常態化していくと、その文化と馴染まない部分も出るのかもしれません。

齊藤「そこは僕らが難しいというより、どちらかというと審判の方が難しいだろうなと思います。よりそこはプロフェッショナルとしてやってほしいなというのはありますけど。選手も審判をリスペクトするのは当然として」


――原さんはこれで小さい子どもたちの世代の試合でも、審判に対して「VARだろう!」とか言い出すようになってしまうんじゃないかと危惧していました。

齊藤「それはあるかもしれないですね。少なからず、今までよりも言いたくなる部分は出てくると思うので」


――個人的にも、ユース時代とか主審の判定で「嘘でしょ?」みたいな経験もあったのでは?

齊藤「それはたくさんあります。自分がすごく主審に言ってしまって、当時の監督に怒られたこともある(笑)。たしかにVARに頼っちゃうのが当たり前になると、そこはより強く出て来ちゃうかもしれないですね」


――JリーグでVARをやっているんだから、こっちだって映像見てくれよみたいなロジックにはなりそうですね。親御さんがスマホで撮っていたのを突き付けるみたいなことが起こっても不思議ではない。

齊藤未月「VARがあったら退場だったかも……」

――ただ、試合進行がたびたび止まるのは、気持ち悪いと言えば気持ち悪い。

齊藤「そこは今後どうなってくるのかな、と。やっぱりアディショナルタイムもVARがあると7分とかになるじゃないですか。そこに関してはどうなんだろうと思います。プレーが止まって検証する時間も結構長かったりするので。あれはどうしようもないのかもしれないですけど、もっと良い方法があればなとは思いました」


――たとえ判定が覆らなくても、たとえば押せ押せでいってる時間帯で1分半待ったりすると……。

齊藤「そこは間違いなく、やりづらい部分ですね」


――他に気になった部分はありますか? U-20W杯ではコンタクトプレーの中で相手を踏んでレッドカードというのもありました。

齊藤「僕らが審判団に説明されたのは、レッドカードの対象になるかどうかというプレーは毎回チェックさせるからみたいな話でした。それこそ足裏でスライディングにいって足を蹴ってしまったみたいなシーンは間違いなくVARの対象になるし、もしそういうプレーが見付かったなら基本的にレッドになる可能性が高い、と」


――そこは最後、レフェリーの主観の領域になってくる。

齊藤「結局決めるのは主審ですからね。でも、スローで見ると何というか大げさに見えるんですよね。『あれ?そんな感じだったの?』って選手も思うんです。もちろんそれで選手がケガして、試合を続けられなくなるようなプレーならばレッドになるのが当然ですけど。特に問題なくその後もやれるような接触でも、すごい激しい接触に見える」


――スローは強さ・速さ、インパクトの衝撃が全部見えなくなって、「ぶつかったかどうか」という現象だけになりますからね。

齊藤「コパ・アメリカの(ウルグアイ戦で)植田選手が取られたPKとか、普通に見たら全然なんともないように見えるけど、スローで再生したらめっちゃ当たってるように見えるじゃないですか。あれとかもかわいそうだなと思いましたけど……」


――湘南と鳥栖の試合で、原川選手に対する齊藤選手のファウルとかは?

齊藤「たぶんですけれど、あれはVARのある試合だったら、自分は退場になっていると思います。あのシーン、僕は正直に言うと全然見えていなくて、ああいう風にいっちゃったんです。スローで見たら結構激しいファウルに見えると思います。あの時は審判もすぐ近くにいて、試合の流れから悪意のあるプレーではないと理解してくれました。でも、たぶんあれはVARがあったら、絶対に検証の対象になると思いますし、そうしたら間違いなく退場になるなと思います」


――真面目に細かくチェックしていくと、おそらくレッドカードも増えていくんでしょうね。逆に「間違い退場」みたいなケースはなくなりそうですが。ただ、実際やってみると、もっといろいろ起きそうではあります。

齊藤「もっと出てくると思います。僕らが経験したのはたった4試合で、わりと大雑把な経験だと思いますし、細かい部分でもっと出てくるんじゃないかなと思いますね」


――お客さんからするとよくわからないというのもありますよね。

齊藤「たしかに。『どっち?』『どういうこと?』みたいな反応になると思いますよ」


――実際、U-20W杯でゴール取り消しになった後も、お客さんもしばらく理解できない感じになっていた。

齊藤「1回真ん中にボールをセットしていますからね。そこから戻るので。よくわからなくなっちゃいますよね」


――そこはちゃんと判定の覆る過程について説明すべきだと思いますか?

齊藤「うーん、そこは見せなくてもいいかなと思いますけどね。やっぱり時間がかかるのが一つですし、そもそも人によって捉え方が違うと思うので、全員に見せると逆に面倒くさいことになるでしょう。誰かが『いつも練習でこのくらいやっているしこんなのファウルじゃないと』言っても、別の誰かは『いやいやファウルだろ』みたいになって揉めそう(笑)」


――そこは主観になりますよね。

齊藤「そうですね。審判だけで決めてもらって、その結果が伝わればいいかな、と」


――判定が変わったときって、キャプテンに説明とかありますか?

齊藤「いや、ないです」


――主審の動きから判断して、その瞬間に切り替えろってことなんですね。やっぱり難しいな(笑)。そういうこと全部を踏まえて、VARを先に体験した側として、仮に次の試合でいきなりVARをやることになりましたという場合、チームメイトにどういうアドバイスをしますか?

齊藤「基本的に大きいことは言わないですが、やっぱり、それこそ点を取ったあとにどうなるかわからないということは言うと思います。あとはペナ内で簡単にファウルをしちゃダメだ、と。湘南だったら、セットプレーのことを特に強く言うかもしれないですね。僕たちは攻守ともにセットプレーは力を入れているので。守備に関して激しく守ろうとするし、小さい選手が大きい選手に付くこともあるので、そこだけは気をつけたほうがいいと強調すると思います」


――相手に(ウルグアイ代表の)カバーニみたいなやつがいるかもしれません(笑)。

齊藤「そうですね(笑)。そういうのが上手い選手はたくさんいますから」


――今日は貴重な経験談と選手側の感覚を教えてもらえて勉強になりました。ありがとうございました!

Edition: MC Tatsu, Baku Horimoto
Photo: Norio Rokukawa

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。