Jリーグにも「ブーム」の兆し。欧州発のゲームモデルって何?
喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~
毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。
今回のお題:月刊フットボリスタ2019年5月号
『ゲームモデルという新たなチーム作り』
店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦
バル・フットボリスタが書籍化!
「ブーム」の裏にある危険
川端「まずは『ヨハン・クライフがどーん!』という今号の表紙に至った経緯からお願いします(笑)」
浅野「制作中の3月24日がクライフの命日だったんですよ。ちょうど同じタイミングでアヤックスアカデミーで働いていた白井さんのインタビューをしていて、2000年代後半にアヤックスに戻ってきたクライフが『クライフ・プリンシープ』という8つのプレー原則を導入したことが近年のチーム改革の基盤になっているという話を聞いて、プレー原則の集合体であるゲームモデル特集をするなら、表紙はこれだな、と」
川端「ようやく我らが編集長も『オッサンやおじいさんを表紙にしても売れない』ということに気づいたわけですね?」
浅野「いやいや、若者が表紙になっている時もあるから!(笑)」
川端「そもそも、どうしてこのタイミングでゲームモデル特集だったんですか? クライフから発想したのではなく、『ゲームモデル特集をやろう』というのが最初にあったということですよね?」
浅野「最近いくつかのJクラブで『ゲームモデルを作ろう』という流れがあって、近い将来日本サッカー全体にこの考え方が広がっていくだろうなと考えていました。そこで一度きちんと取り上げようという意図ですね」
川端「確かに昨年から今年にかけてユース年代の人事が刷新されたクラブも多くて、そのあたりの影響もあるみたいですね。大本はJクラブのユースシステムを監査したフットパスですけど。ヘッド・オブ・コーチング(コーチを指導するコーチ)が置かれたり、メソッド部門が創設されたりという動きも出てきています。ただ、クセのある指導者が排除される流れになっている気もして、ちょっと気になってもいますが」
浅野「フットパスの調査項目にクラブのコンセプトを見るものもあるからね。ただ、ゲームモデルという概念が間違って広がっていくのは危険だなとも感じているんです。林舞輝さんも説明してくれていますが『ゲームモデル=理想のサッカー』では決してないんですよね。トレーニングやチーム作りにあたっての思想まで含めた包括的概念なので、中途半端に上辺だけマネするブームにしてはいけないと考えています」
川端「『より良いゲームモデルを~』みたいなことを言う方も出てきていて、ちょっとそこは心配になりますね。『こういうサッカーができたら理想的』みたいな話にすり替わっている傾向はすでにあると思います。日本型組織はそういうスローガン的なの好きですし……。実現するべき目標を設定するというより、『こうだったらいいな』みたいなフワッとした絵を掲げるのが好きというか(笑)」
浅野「その傾向はどうしてもあるよね」
川端「この号でもいろいろな方が何度も強調されていますが、ゲームモデルは歴史や文化や地域性といった要素まで加味して決められるべきものだとされているのに、そうではなくて指導者が『こういうサッカーをしたい・させたい』が先に来てしまっているような気が早くも……。そもそも理解・実践の段階で、何か逆になっている感じがあるんですよね。『こういうサッカーをしたい』→『こういうサッカーをする理由づけは何かないか? そうだ、うちの県は平均身長が低めだからこれを理由にしよう』みたいな」
浅野「『監督の理想とするサッカー』もゲームモデルを構成する要素だと思いますが、それと並列して『どんな選手がいるのか』『チームや国の文化』『予算規模』『大会のレベル』『目標は優勝なのか、残留なのか』……そのすべてを勘案しながら、ある種の折衷案みたいに落とし込むのがゲームモデルだと思います。この号ではそれを伝えたいのが一つありました」
川端「監督が理想を掲げること自体はまったく悪くないと思います。ただ、僕が感じているのは『クラブでゲームモデルを統一する』という時に出てくる違和感ですね。ものすごく身も蓋もない上に、いろいろ怒られそうなことをあえて言ってしまえば、ゲームモデルについての能力や識見に欠ける人が『ウチのゲームモデル』を作って、各年代のチームに押しつけても、正直うまくいかないと思うんですよ」
浅野「言葉を選ばなければ、その通りです(笑)。理解が浅いと、ディテールの落とし込み段階で本末転倒の嵐になると思います」
川端「ただ、クラブによっては『暗黙のゲームモデル』がすでに存在していたので、それを言語化してすり合わせる意義はあったみたいですね。『ウチのサッカー』とか『ウチらしさ』って何だ?という」
浅野「そういうディスカッションは重要でしょうね。言葉にすることで意外な発見だったり、認識のズレも見つかるでしょうし」
川端「別の年代のチームのコーチと突っ込んだ話をする機会自体がないようなクラブもありますからね。ただ、とあるクラブなんかは『必ずアンカー置いた[4-3-3]でやれ。そこはマストだから』と言われるようになったそうで、『え? ウイングタイプの選手が全然いないのに?』となっているなんて話も……」
浅野「『やりたいサッカー』が先行しちゃっているパターンですね、それは」
川端「クラブのそこまでの歴史の影響って絶対にあって、積み上げているものがないように見えて実はあるんですよ。それは選手の傾向にも反映されている。そういうのを無視して、『これがいいサッカーなので、これをやる』と決めちゃうのはマイナス要素も大きいと思います。もちろん、その方針を十年以上にわたって貫くなら、自然とクラブのカラーや文化も変わってくると思いますが、そういう感じのクラブって、結局ブレそうで……」
“考えない”で複雑なサッカーを実現できる
浅野「まさにそこに絡んでくる話だと思うんですけど、もう一つ伝えたいのがゲームモデルの落とし込みの話でした。イタリアで先進的にそれを進めているセリエAコーチのレナート・バルディも『机上だけのゲームモデルはクソ』と断言しているように、トレーニングを通じてどう落とし込むか、そういう考え方が重要です。そこで出てくるのがプレー原則の設定とそれをトレーニングに落とし込むシチュエーションの切り取りですね。それによって選手たちが“考えない”で複雑なサッカーができるようになるんです。大分トリニータの安田コーチの言葉を借りると、『考えるよりも、今までの経験から導き出される直感で、見て、感じたままプレーした方がプレースピードは上がる』ということですね」
川端「大分の安田コーチのインタビューで、別の話題についてしていた『選手がカンペを見ながらサッカーをするようなのは最悪』みたいな話にも通じますよね。僕は『指導者がカンペを見ながら指導するようなのも最悪』なのかなと思いました」
浅野「安田コーチは理論を練習から落とし込んでいくことにすべてを懸けているのが伝わってきました。その情熱が凄かったです。だから、うまくいくと大分みたいにいい方向に回るんですよね」
川端「安田コーチのインタビューは最高でしたね。あれはJリーグのサポーターにも読んでほしいです。読みながら『この人、変態だーーーーーー!!!』と言いたくなる。情熱がカンストしていました(笑)。あと、安田さんの留学話を通じて戦術的ピリオダイゼーションの開祖であるフラーデ教授の『人間』としての一面が強く感じられたのも良かったです。やっぱり人を導く『先生』なんだな、という」
浅野「フラーデ教授は自分でメールもやらないらしいですね。弟子たちが『師いわく……』みたいに広めているので、戦術的ピリオダイゼーションは宗教みたいに流派が分かれていたり、その中でも解釈が分かれている概念になっているという。大元のフラーデ教授自身、『何か新しいことはないか?』が口癖で、常に理論をブラッシュアップしていく人みたいなので、余計にややこしくなっている(笑)」
川端「いや、まさにそういう人が発信したからこそ『机上の空論』に終わることなく発展していったんだなと思います。みんな違ってみんな新しいし、みんな正しい、みたいな(笑)」
浅野「だから、ゲームモデルを解説するにも具体例がないとわからないと思って、今回ケーススタディを入れたんです。東大ア式蹴球部で学生コーチをしている山口遼さんにマンチェスター・シティとリバプールのゲームモデル分析をお願いしました。彼は指導に当たって独学で戦術的ピリオダイゼーションを学んでいて、チームで実践しているトレーニングも本質的だなと感じていて、それが依頼した理由です」
川端「練習から試合を導く理論ですけど、その逆をやったわけですよね。試合から練習を推し量り、その練習の根拠をイメージする」
浅野「そうです。ゲームモデルやプレー原則は基本的に外からはわからないものですけれど、ピッチ上で現れている状況から類推はできるんですよね。山口さんはペップの守備の主原則を『選択肢を制限することで、広いスペースを守る』という言葉で表現していましたが、要するに、ペップは守備時にあえて広く守ろうとしていて、その理由はボールを奪った後にスペースのある状態で攻撃に移行したいからである、と。おそらくその本質はズレていなくて、プレー原則の細かい表現やそれを実現するためのトレーニング方法は指導者の個性なんだけど、おそらく本質がずれていなければ別の誰かが考えたプレー原則の設定の仕方とトレーニングでも似た現象は起こせると思いました」
川端「さすがは『フットボール・サイコパス』の異名を取る山口コーチですね。でもそれって、『暗黙のゲームモデル』とどうやって区別するんですか? 例えば日本代表について存在しない『特殊なゲームモデルを持ったチーム』として海外の方が読み取ってしまうことがしばしばあるようですが」
浅野「いや、逆にピッチ上の状況からの逆算で、日本代表の暗黙のゲームモデルとプレー原則も言語化は可能なんだと思います。対戦相手のアナリスト的な視点になりますが。実際に日本代表にどこまで言語化された規範があるのかは試合を見ただけではわかりませんけどね」
川端「なるほど。そうやって言語化していくメリットとしては、新参者と共有しやすいというのがあると思います。指導者でも選手でも」
浅野「まさにそういうことですね」
広がる「非公開練習」の是非
川端「あと、高校サッカー教師のわっきーさんが自分のチームのゲームモデルを、作る過程含めて公開した話で『あー、これこれ』と思ったのはまさにそこですね。剣道の道場をやっているお父さんが『指導の極意』みたいな部分は自分がわかっていればいいみたいな考え方だったのが、わっきーさんの行動に刺激を受けてもっと共有できるものにしておこうとしたという。あれはすごくゲームモデルの意義を伝えていると思います」
浅野「剣道という他競技ではありますけど、ずっと指導者やっていたような人は、ああいうことの意義を直観的に理解できるんでしょうね。でも、凄いと思いますよ、あれは。例えば僕らの立場で考えると、今まで自分が獲得してきた雑誌編集や取材のノウハウを全部タダでオープンにする行為です。正直心理的な抵抗は大きいですが、それによって自分という存在の価値を可視化できますし、タダで見せてくれた側からは改善案や追加のアイディアみたいな意見ももらえるので、自分のスキル自体がブラッシュアップされる。ただ、相当の意識の高さがないとできない」
川端「まず面倒くさいと思っちゃうよね(笑)」
浅野「間違いない」
川端「あとやっぱり『勝負』の文脈から行くと、『諸々秘匿していた方が勝てるんじゃね?』と思っちゃう部分ですよね。グアルディオラは公開してくれないでしょう(笑)」
浅野「だから、公開してもいい情報とそうでない情報の棲み分けになってくるよね。実際、ペップのトレーニングは完全非公開ですし、欧州サッカー全体の傾向として練習非公開が主流になりつつあります。さっきのプレー原則の話もそうだけど、わかっている人がトレーニングを見ちゃえば対策から何から全部ばれてしまうから、もう見せられないんですよね。だからビエルサがやっていたトレーニングスパイは完全にアウトな行動でしょう(笑)。でも、ペップは試合を想定していないプレシーズンのトレーニング映像はむしろ積極的に公開してサッカー界全体に情報を共有してくれていたりもします」
川端「川崎フロンターレの監督就任当初は『別に見られても困らないから』と言っていた風間八宏さんも、今はすっかり非公開派になったそうですからね。実際、プロのステージで戦うと、研究・分析される厳しさを実感するんでしょう。ただ、サッカーって練習の内容も踏まえて試合を見ると何倍も楽しいんですよね。そこはエンターテインメントとして考えると、ちょっと難しいですけど」
浅野「ゲームモデルがあって、次の試合を想定して綿密にトレーニングを設定すればするほど致命的なくらいに試合で想定している行動がバレると思います。だから、練習非公開が当たり前になったのはゲームモデル主義の弊害もあるかもしれません」
川端「僕は逆に強制的に全公開にしちゃって、各チームが研究し合って切磋琢磨する環境作りを促した方が日本の指導レベルは向上するんじゃないかという気もしているんですよね。知の共有です。お互いに公開し合うなら、別に有利不利は働かないですから。ビエルサが他チームの練習に対してあれほど熱心なのも、目先の勝ち負けだけじゃなく、それによって自分の指導レベルを上げられると思うからでしょうし」
浅野「面白いとは思うけど……」
川端「まあ、みんな嫌がるでしょうね(笑)。だから『第13節はそういう節にします!』みたいなのでもありかな、と。『DAZN』も乗っかってもらって、トレーニングから映像を収め、試合の前後でそれを踏まえてゲーム解説するとか。これによって、エンタメ性と指導のレベルアップというのが両立するんじゃないかと思うんですよ。実現すれば、Jの指導者はもちろんですが、いろいろなカテゴリーの指導者にとって学びと刺激があると思うんです」
浅野「そこは決定権のある人の考え方次第ですね。プレミアリーグがほぼ個別取材NG、練習非公開が当たり前になっているのは、クラブや選手の発信力がもうメディアを超えちゃっているので、立場が完全に逆転しているというのも大きいですよね。ビッグクラブは自分のメディアを持っているのも普通になっていますし、ビジネス的にもサッカー的にもオープンに対応する意味がなくなってしまっている。Jリーグがどっちの立場を取るかは考え方次第でしょうね」
川端「Jリーグはビジネス的にもサッカー的にも未発展だというのが僕の立場ですが、『すでにプレミア級』、あるいは『プレミア級であるべき』という視点ならば自然とオープンではなくクローズな方向性になっていくということになるでしょうね」
浅野「今の時点で非公開ばかりになると、デメリットの方が大きいよね」
川端「ある地方クラブの監督が『プレミアでは非公開が当たり前』と言って、ずっと練習観るのを楽しみにしていた地域の人たちを追い出してしまったみたいな話を聞くと、『どうなんだ、それ』と……。あと、プレミアを含めて欧州のクラブが非公開なのは、そもそも『ファンがたくさん来過ぎて警備上のリスクが極大化してしまった』というのも大きいと思うんですよ。しかし、半分残念な話ではありますが、日本のほとんどのクラブにそこまでの人気があるのか?という。さっき触れた地方クラブも普段は10人ちょっとしか来ていなかったという話ですからね」
浅野「欧州サッカーを上辺だけ真似ると本末転倒になるという好例ですね……」
川端「ゲームモデルもそうですけど、『なぜそうなっているのか?』の考察が浅いと形だけの模倣になってしまうと思います。そもそも『欧州ではこうなので』というのは理由として浅過ぎるんですよ。激浅です(笑)」
ゲームモデルに模範解答はない
浅野「戦術的ピリオダイゼーションにおけるゲームモデルという考え方は、トレーニング方法の革命だなと僕は感じています。攻撃、攻→守の切り替え、守備、守→攻の切り替えの4局面ごとにそれぞれ主原則、準原則、準々原則……と設定していって、それをタスク化してトレーニングに落とし込む。定量的な分析もゲームモデルとセットでやる。全部一体化しているんですよ。根本にある思想が大事で、例えば個別のトレーニングメニュー自体を切り取っても意味がないというか」
川端「トレーニングメニューが大好きですからね、日本人は。『サッカークリニック』という指導者向けの雑誌でも、とにかく需要があるのはトレーニングメニューだという話でしたから」
浅野「今回フットボリスタでは全体像のないパターン練習ではなく、プレー原則と紐づいたシチュエーション切り取り型の練習の提案をしていますが、認知心理学を学んでいる塚本さんは『パターン練習は一定の割合で残すべき』と言っていますし、安田コーチも両方必要と言っています。サッカーの指導は指導メソッド自体よりも指導者がどこまで確信しているかの方が重要だったりしますし、受け売りにならずに自分で考えて納得する形でやってほしいです」
川端「指導者が納得していないと選手も納得できないしね。迷っている指導者に付いていきたい選手はいない(笑)」
浅野「そうそう(笑)。そこが評論家と監督の決定的な違いですよね」
川端「良い評論家と良い監督が矛盾しがちなのもそういう部分があるからですよね。突っ走っている指導者は強い(笑)」
浅野「この特集の最後に林さんに反ゲームモデル主義をテーマに書いてもらったのは、安直に『これからはゲームモデルだ!』となってほしくなかったのもあります。もちろん学ぶ必要はあるんだけど、それをどの程度、どういう形で取り入れるか、あるいはあえて取り入れないかは自分で判断してくださいね、という意図が込められています」
川端「あれは素晴らしい構成だなと思いました。おべっかじゃなくてね(笑)。俺たち報道・評論側の人間は逆に指導者じゃないので、ちゃんと迷わないとダメだと思うんですよ。ネット時代になって、『煽る』のがうまいアジテータータイプや、極端なことを言い切って燃やせる書き手や編集者が数字の取れる人として評価される流れになっていますが、やっぱり報道・評論する側の人間はバランスも意識しとかないとダメだと思うんです。ネットの空気は『正義』に流れやすいから、そこはなおさらですね。こういうこと言うと『古い』と馬鹿にされるわけですが(笑)。監督は迷わないで突っ走ってもらっていいし、それでいいんですけど、俺たちは人々が『どっちが正しいねん!』と迷う材料も提示しておかないといけない(笑)」
浅野「ちょうど、その記事で反ゲームモデル主義の旗頭として取り上げたユベントスがごりごりのゲームモデル型のアヤックスに完敗するというオチまでついたので、そこも悩ましいですね(笑)」
川端「でも、林舞輝さんも言っていましたが、そもそもアヤックスが『個』で勝っていた、少なくとも負けていなかった感があるのも凄かったですね。ユーベが反ゲームモデル主義をとるに当たっての前提が崩されていた」
浅野「これは林さんも山口さんも強調していましたが、ゲームモデルは個を育てるんですよね。バイエルンのイェロメ・ボアテンクとか、マンチェスター・シティのカイル・ウォーカーとか、ペップのチームでプレーしてから明らかに選手のタイプ自体が変わった」
川端「あれはでも、逆に『別のチームにいったらあっさり魔法が解けるパターンもあるんじゃね?』とも思いましたが。別に上手くなったわけではない、という」
浅野「いや俺は別のチームでも彼らは同じプレーができるようになったと予想しているけど……まあ(本人たちが移籍しないと)答えのない話ですし、いつの間にかまた話が広がり過ぎているので(笑)、今回はこのあたりでまとめますか」
川端「いつもここから広がり過ぎますしね(笑)。では『ゲームモデルとは何ぞや?』というところから始まる今号でしたが、あらためて編集長として今号で訴えたかった内容をまとめてもらっていいですか?」
浅野「そもそもJリーグになぜゲームモデル導入の動きがあるかと言えば、監督が代わったらサッカースタイルから何から全部変わるのはあまりに非効率で、そんなチームは継続的に勝てないからです。実際、勝ち続けている鹿島とかにはクラブ固有のスタイルがありますよね。それを作るべきという発想は正しいと思いますし、そこに言語化されたゲームモデルを導入するのも理に適っています」
川端「ただ、そもそも『ゲームモデルって何なの?』という出発点からしてちゃんと共有できていないのではということですよね」
浅野「まさにその通りで、ゲームモデルという概念の元になっている戦術的ピリオダイゼーションは非常に複雑な概念で、やり方を間違えると危険だなとも感じています。なので、一度しっかりまとめさせていただきましたので、これから広まっていくであろうゲームモデルという新しいチーム作りのやり方を理解する助けになればと思っています。ただ、『ゲームモデルがすべてではない』ことも併せて伝えたいと思っていました」
川端「欲張りですね(笑)。『日本と世界』はフットボリスタ創刊以来のテーマですけど、その意味でも面白い号でしたね。『変態日本人指導者』もたくさん登場していて、そういう意味でも良かったです」
浅野「これは強調しておきたいですけど、日本にも面白い指導者はたくさんいますよね。そういう人たちが活躍して、日本のサッカーをよりポジティブな方向に導いてほしいです。本当に」
川端「こうやって変態が可視化されるのは良いことだな、とあらためて思いました。これから先、日本の変態指導者たちがきっとまだまだ面白いことを起こしてくれると思っていますし、眠れる変態、未来の変態もまだまだいると思っています(笑)」
浅野「あんまり変態、変態いうと怒られますよ(笑)」
川端「うん、そうでしょうね。僕はテレビに出た時『変わっている』『変』といった表現について局の人に注意されたことがあって、その時にハッとしたんです。この国の多数派は『他と比べて変わっていること=悪いこと』という捉え方なんだ、と。自分はポジティブな文脈で『ちょっと変わったことをしている』とか使っていても、『普通』『同じ』がいいことで『変』は善くないことだという世界観だと悪口に聞こえるんですよね。僕みたいに組織に属さずにフリーランスで仕事をし、サッカーの世界に生きていると、そういう日本的な常識がいつの間にか失われているので、大きな気づきでした(笑)」
浅野「サッカー選手やフリーランスのライターとなると、逆に個性が立っていて『変』じゃないと生きていけないもんね」
川端「そうですね。そして、その世界に浸っているうちに、いつの間にか常識を失っていた(笑)。でもやっぱり指導者も『変』な人こそ強いんですよ。そこは間違いない。他の人がやらないことにチャレンジしていく人が強い。だから、安田コーチやわっきーさんみたいな人の存在を知ると、たまらなくうれしくなります。ああいう『変』な人たち、今はまだ無名のチャレンジャーたちを含めて、そういう『変態』たちが未来のサッカー界を作っていってくれるんだと思っています」
浅野「それでは、うまくまとまったところで、打ち切りましょう(笑)。今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!」
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Photos: Getty Images
Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。