DMMは、なぜシントトロイデンを買収した? 同社取締役が語る真意
シントトロイデン会長兼DMM.com取締役 村中悠介氏独占インタビュー
1999年の設立以降、ネット事業を中心に飛躍的な成長を遂げ、現在では数々の斬新な事業で注目を浴びている株式会社DMM.com(以下DMM)が、なんと欧州サッカークラブを買収し経営に乗り出す――昨年11月、驚きをもって報じられたベルギー1部リーグ、シントトロイデンの経営権取得。なぜスポンサー契約ではなく買収なのか? なぜベルギーリーグなのか? しかもアンデルレヒトやヘントといった強豪ではなく、日本での知名度が高いとは言えないシントトロイデンなのか? 次から次へと疑問が湧いてくる決断の真意を、同社の取締役でありシントトロイデンの会長に就任した村中悠介氏に明かしてもらった。
単なる「広告塔」にあらず
事業として十分に軌道に乗せることができる
――単刀直入に、DMMがシントトロイデンを買収した狙いを教えてください。
「今回、私たちはクラブを買収したわけですが、ニュースを耳にして『スポンサーになるなんて凄いですね』と声をかけていただくことが少なくありません。日本の常識的に、海外クラブを買収したのではなくスポンサーになったのだと勘違いされているんです。ですから、私たちは(日本の)親会社のようにスポンサーとして資金を提供するだけではなく、自らクラブを経営していくんだ、ということをまずわかってもらいたいですね。
DMMでは現在、40ほどの事業を取り扱っており、もちろんそのすべてを事業として軌道に乗せていくことを前提に活動しています。つまり、広告としての効果を得られれば採算は度外視というスタンスでやっている事業は一つもない。すべて収益化を目指しているんです。ただ、その中にも昔からある動画サービスのように、すでに最大化しているものをさらに伸ばしていくフェーズの事業もあれば、0から1を作り出そうとしている段階の事業もある。いろいろあるわけですが、中でも私たちの会社は事業の立て直しであったり、あるいは新しい事業を生み出していくことが好きだし、得意だと思っていて、常に新しい事業のリサーチを進めています。
そうやって様々な分野を調査していく中で、もちろんすべてのサッカークラブの財務状況を見たわけではありませんが、事業として十分に軌道に乗せることができる、という結論に達し投資を決めたんです」
――おっしゃる通り、買収とスポンサーではまったく意味合いが違います。海外クラブとスポンサーシップを結んでいる企業の中には、日本での広告塔としての役割はそれほど期待せず、グローバルマーケットにおけるブランドイメージ拡大と割り切って契約しているところもあると聞きますが、それとは根本的に異なるということですね?
「はい、その通りです」
――欧州に数あるリーグの中で、なぜベルギーを選んだのでしょうか?
「今、世界のサッカー界では多くのクラブが、世界中からタレントを集めようと注力していますよね。その点、ベルギーリーグにはほぼ外国人枠がありません。それから、国によって違うのですが制度的に外資の受け入れ態勢も整っている。やるなら1部リーグじゃなきゃ駄目だな、というのもありました。資金的な余裕があるならスペインやイングランドに行きたいという気持ちはありますけど、そうやって多角的に見ていくと選択肢は狭まってきます。
(欧州のリーグで)外国人枠の制限が比較的緩和されているオーストリアとポルトガル、そしてベルギーが候補になりました。そのうちベルギーはEUの本部があるしっかりとした国ですし、地理的にもフランス、ドイツ、オランダに囲まれていてイングランドも近いので、多くのスカウトが試合を見に来ています。さらに、(国土が比較的狭いため)国内の移動が容易です。試合日はすべてバスでの当日移動で済み、飛行機代も宿泊費もないのは結構大きい。遠征費がかからないのでチーム予算は抑えられ、経営はコンパクトにやれるんです」
――事業として勝算があるところという判断なんですね。そのベルギー1部の中でシントトロイデンというクラブを選んだわけですが、特に可能性を感じたのはどういった部分だったのでしょうか?
「伸びしろがあり、上を狙えるクラブだと考えています。3年くらい前に2部から1部へと昇格して、毎年着実に順位を上げてきている(第21節時点で6位)。そうやって成長しているクラブでないと厳しいなというのはありました」
――先ほど「立て直しが得意」と話されていましたが、現在シントトロイデンにはどういった問題があり、それを変えていく計画がすでにあるのでしょうか?
「ありますよ。ピッチ内の面に関していえば、これまでは凄く小さい規模でやっていたので、ホペイロのような人はいるんですがトレーナーなどは専属の人がいません。選手のためにどうするのが一番良いか。まずはそういった部分をしっかりと整えていかなければいけないと思っています。
それから、トップチームからユースにかけての組織面にも手を加える必要があります。トップチームとセカンドチームは同じ組織なのですが、ユースから下の下部組織は別のNPOが運営していて、両組織間の連係が今まではまったくなかったんです。トップがユースを資金面では援助している形なんですが、トップとユースでそれぞれ別々のスカウトがいて、お互いのコミュニケーションも現状希薄です。ユースのために獲ってきた選手は、何のために獲ってきたんだと。ユースで行われることを本当に何も知らない、誰が教えているかもわからない状態でした。下部組織はU–6からあって、全体で500人くらいいるのに、です。そんな状況でなぜ連携しないのか。
今回の買収にあたり、私はクラブ会長という立場になったのですが、別に代表というポストがあって、そこにもともと下部組織のNPOで代表を務めていた人物に就いてもらうことにしました。今後、NPOの代表にはまた別の人を選出することになりますが、下の事情に詳しい人をトップのフロントに加えることでうまく連携していくようにできればと動いています。
ユースの子どもたちが、トップチームを目指したい、そう思えるクラブであり街にしていかなければならないのですが、現実にはそうなり切れていません。事実、観客動員数が芳しくないんです。平均5000~7000人くらいでしょうか。下部組織には子どもたちが500人くらいいるんです。親御さんも合わせれば3倍の1500人くらいになりますし、その親戚を含めたら、それだけでももっと入場者数が増えていておかしくないはず。原因はやっぱり、(上と下の)交流がないからじゃないかと。
何が当たり前なのかはわかりませんが、例えばガンバ大阪のユースにいれば、そのトップチームの選手に憧れるのは普通だと思うんです。『いつかトップチームで』という気持ちがないのは寂しいなぁと思って。ですから、狭い街でバラバラにやっているという状況は改善していきたい。ユースの指導者にしても、自分のところから『トップチームに上がる選手を増やしたい』という気持ちはあるんですよ。でも、アマチュアのコーチが教えているという現実がある。そうした部分をどこまで変えていけるか。変えていかないとレベルも上がりませんからね。
さらに言えば、自分たちの商圏ではない選手の情報も今はまったく入ってきていないんです。例えば、車で2時間くらい離れたブリュージュに良い選手がいても情報が入ってこないですし、逆にそういった選手に声をかけたとして、受け入れられるのかという問題もある。全般的なインフラの部分に関しては大いに改善の余地があります」
“外資”に対する現地の反応
毎日Facebookで友だち申請やメッセージが届いています
――ベルギーリーグはヨーロッパの中でも、若手選手の登竜門的な位置づけのリーグです。1部で活躍すれば20~30億円の移籍金がつくことも夢ではなくなっています。特に「若ければ若いほどいい」という価値観が急速に広まっていて、トップとユースとの連携構築には可能性があると感じたのですが、タレントの育成を通してクラブを大きくしていくというビジョンもあるのでしょうか。
「もちろん考えています。それはもう、うちのクラブに限った話ではなく欧州のスタンダードですからね。すぐには難しいと思いますが、将来的には先ほどお話した観客動員数の増加だけではカバーし切れない収入源になればと考えていますよ」
――目下の課題は、入場者数とクラブ組織の改革ということですね。少し話は変わるのですが、経営戦略的な部分でお聞きしたいことがあります。シントトロイデンの株式を17年6月にまず20%取得して、その後11月に一部のサポーターが保有する分を除く約99.9%を取得と段階的に買収を進めたのは何か理由があったのでしょうか?
「それは前オーナーの意向でした。本当は20%を取得したタイミングで経営権の取得を狙っていたのですが、それだと外国企業がいきなりやって来て買収することになりますからね。日本でいえば、中国のアリババ(中国のネット販売最大手)が鹿島アントラーズを買収するような話ですから。私たちにも学ぶ時間が必要でしたし、段階的にやった方がファンを裏切らないと判断しました」
――現地での、ファンや選手の反応はどうですか?
「まだ何かアクションが起きているわけではないので、今のところは良いも悪いもない、という感じでしょうか。良い意味で外国の企業が来て、急にアジア人が会長になっても、何をやるか、結果を見てから判断したいという考えのようです。それはありがたいというか、ベルギーの人たちは凄いな、理解があるなという思いです。今でも毎日Facebookで友だち申請や『頑張ってくれ』とメッセージが届くんですよ。前のオーナーはFacebookをやっていなかったみたいなんですけど、こうやってラフに言ってくれるのはいいですね、飲み会の誘いも来ますから(笑)」
――現地には頻繁に通われていますか?
「私自身、別の事業も見ているのでどうしても100%集中することは難しいのですが、次は1月に訪問します。それから、現地には財務面、法務面のエキスパートや広報、運営、営業、強化部門のスタッフを5人くらい送り込んでいます」
――2015年以降、中国企業による欧州サッカークラブの経営権取得が加速しており2年間で約15クラブに上ります。それ以外に中東などの企業も投資している中、日本からはなかなかこうした企業が現れませんでした。ヨーロッパサッカーの市場規模が急激に拡大している状況で、そこにチャレンジしていく日本企業が現れたのは本当に楽しみだなと感じています。
「それは本当にそう思います。ただ、大変なのは大変ですけどね」
――弊誌のインタビューで辣腕スポーツディレクターのモンチに話を聞いたことがあるんですが、彼もベルギーリーグには注目していると話していました。いい選択をしたのではないでしょうか?
「そうですね。それから、これまでお話した以外にもう一つ、外国人選手の最低年俸が隣国オランダよりも低いところも魅力です(オランダではトップチームで約4000万円、サテライトでも約2000万円)。年俸が低ければチームとしても獲得のリスクが減りますので、ベルギーへと今以上に選手が集まってきてもおかしくない状況になっていると思いますね」
――昔、アフリカの選手がヨーロッパに渡って来て最初に所属するのがベルギーリーグでした。
「英語、オランダ語、フランス語が通じる国なのが大きいと思います。Facebookで私に届くメッセージは英語です。シントトロイデンは北部のフラマン語地方なのでオランダ語を話しますが、チーム練習では英語でスタッフにはフランス語が使える人もいる。アフリカは多くの国がフランス語圏か英語圏ですから、ベルギーは移籍しやすい国だと思います」
――アフリカ人選手の獲得も検討しているんでしょうか?
「考えていますよ。DMMで『DMM Africa』という事業をやっているんです。なのでそちらのチームと連携して、今アフリカへ調査に行っています。『DMM Africa』チームでは日本語を喋れるアフリカ人を採用していて、シントトロイデンでも代表はベルギー人です。やっぱり、なるべく現地の人を登用した方がいい。変にアジア人がでしゃばるよりも、現地の人が話すのが一番伝わりますからね。アフリカでも、いろんなことができれば良いなと思っています」
日本人選手に対するスタンス
それありきで始めた事業ではありません
――買収後は日本人選手が移籍するのかというのが誰もが気になるところですが、その点についてはいかがですか?
「日本人選手を獲るとは思います。若い選手に限るとは言いませんが、できれば若い選手がチャレンジできるようなリーグであり、チームでないといけないなと思っていますので、若い選手にチャンスを与えられたらいいなと思っています。日本人は身体ができるのが海外の選手に比べて少し遅い印象があるので、スピードやぶつかるところは、早めに(海外に)出て体感してもらえるといいなと。ベルギーは激しくて、とにかくぶつかるリーグですから。
もちろん日本人選手は日本人として好きなので、シントトロイデンに来てほしいと思っています。ただその一方で、日本人選手を獲得したくてこの事業を始めたわけではありません。原石を見つけて連れて行って、その選手たちの成長を楽しみたい。それがどこ出身の選手であっても、喜びは変わりません。日本人だったらより良いとは思うでしょうけど、全世界の良い選手たちが私たちのクラブに来てくれるのが、一番やりたいこと。南米なのか、中米なのか、アフリカなのか、日本なのか。他のアジアの選手でも良いと思っています」
――シントトロイデンは、DMMが買収する以前から日本のマーケットに興味を持っていたのでしょうか?
「前オーナーは、川島(永嗣)選手が加入した当時スタンダールのオーナーだった方なんですけど、彼の川島選手への評価が凄いんですよ。『最高の人』『人格が素晴らしい』『大好き』『あんなヤツは見たことない』ともう絶賛。それで、日本人はそういうイメージになっているので、影響はかなりあったでしょうね。のちにシントトロイデンに加入した小野裕二選手(現サガン鳥栖)のことも良い選手だと称賛していましたし。川島選手がきっかけとなって、実際に日本人選手が所属し評価されていたのは縁があったんだと思います」
――日本サッカーにも貢献できる事業にしたいとのことですが、具体的にはどういう構想をお持ちでしょうか?
「言語面のサポートは私たちがしなければいけないと思っています。過去にも、日本人選手が言葉の壁で困っているという話を聞いていますからね。私たちの事業の一つ『DMM 英会話』を使えば、スカイプで英語を学ぶことができます。日本にいてもできますので、移籍が決まった時点ですぐに取りかかってもらって。日常会話くらいできなければ結構キツいですからね。これは僕らの強みだと思います。サッカー用のカリキュラムも作っていこうと思っているんです。まずはサッカーに必要な用語を覚えて、そこから日常会話も覚えていってもらうようなものができれば理想かなと考えています。
それから、指導者ももっと世界に進出した方が良いと思っています。昨年、霜田(正浩/元日本サッカー協会技術委員)さんがコーチとしてシントトロイデンで指導を行いました。彼はセカンドチームのコーチだったんですが、現地のスタッフから凄く受け入れられていて、練習を主導していました。アイディアの部分で選手からも『飽きない』『楽しい』と評判が良かったんです。その話を聞いて、比べるわけではないですが創意工夫は日本人の得意なところなのかもしれない、日本人の指導者は通用するはずだと感じたんです。ただ、残念ながらライセンスや言語の問題があります。霜田さんは英語もスペイン語も話せたので問題ありませんでしたが、他の方も同じようにいくわけではありません。すぐにどうこうできないかもしれませんが、選手はこれだけ多くの選手が海外挑戦するようになっているので、今度は指導者にもチャレンジしてもらいたい、そういうところでも貢献したいという思いはあります」
――疑問に感じている人がいると思うので聞かせてもらうのですが、なぜ日本国内のチームではなくベルギーのチームだったのでしょうか?
「日本とか、海外という視点ではあまり考えていなくて、あくまで事業としてどちらが良いかという選択でした。日本は日本で良いところがありますし、海外は海外で良いところもあるのですが、今回に関しては、事業的にはベルギーの方が面白いという結論に至ったということです。
それから、これはポジティブに捉えているのですが、ベルギーは『わざとやっているんじゃないか』と思うくらい、いろんな意味で全然、足りていません。でも、最近はその方が良いのかなと思うようになってきました。要するに、なにくそ根性じゃないですけど『早くトップリーグに移籍したい』と思っている選手がたくさんいる。そう考えるとハングリー精神が養われるというか、すべて整っていることが決して良いことではないなと。マンチェスター・ユナイテッドに移籍すれば、とんでもないクラブハウスがあって恵まれた環境に移れる。
アフリカ人の選手は特にそういう感覚なんじゃないでしょうか。アフリカからヨーロッパに移籍してきたら、どんなチームでも天国に見える。そのハングリー精神があるから世界で活躍していると思うと、ベルギーではインフラを整え過ぎても駄目なんじゃないかとも考えます。不完全なくらいがちょうどいい、必ずしも一流の施設が必要というわけではないんじゃないかなと。
日本に比べたら整っていないと感じます。来て見てもらえたらわかりますけど、そういう感じがいいんだと思います。何もかも用意されているわけではない」
――日本的な緻密さを持ち込めれば、良い化学反応がある?
「絶対に必要なものは導入しますけど、『これぐらいは(我慢して)頑張れ』という思いもあります。J2の中には恵まれている環境のクラブもありますけど、基本的には日本でもJ2やJ3はハングリーな環境でやっているはずですからね」
クラブ以上の意味
クラブを持ったつもりでしたが、『街を持っている』感じです
――実際に事業を始めて苦労した点や予想と違った点があれば教えてください。
「今のところは想定内に収まっています。ただ、思った以上に街から巻き込まないといけないなというのは感じています。サッカークラブを持ったつもりだったんですけど、『これは違う』と。『街を持っているんだな』という感じですね。
――行政も含めて関わっていかないといけないということですね。
「まさにそうです。シントトロイデンは果物の街なんです。りんごと苺と洋梨の産地で、それが税収の一番の柱になっている。とはいえ、国中で知られている街ではありません。市長とお会いした際に話を聞いたら、『次にサッカークラブが柱になっている』と話していました。実際、今のスタジアムも土地は市のものですし、練習場も支援されていて、街がサッカーを応援してくれているんですよ。ここから入場者数を増やすために、みんなが好きになるクラブを作っていくとなると、街から変えていかないといけない。私たちが勉強している段階なんです。パブに行けばユニフォームを来ている人が1人くらいいるだろうと思っていたんですが、実際には街にユニフォームを着ている人がいたら、選手だと思われるくらいいないんです。街の人に、クラブをもっと好きになってもらわないといけない。
今、Facebookで友だち申請してくれる人は熱心なサポーターなので、こういう人を増やしていくのが一番です。そのためには『毎日話題になるクラブになりたい』と思っている。入場者数が少ないのは、試合をテレビで見ている人が多いからだと話す人もいますけど、スタジアムで見るのとテレビで見るのとでは全然違うでしょう。(スタジアムは)街中にあって立地も良いので、(訪れるのは)そんなに面倒ではないはずなんです。ですから、どう街を盛り上げていくかを考えているところです」
――例えばスタジアムを改修したり、ショッピングモールなどを併設した複合商業施設化する動きも流行していますが。
「私たちが買収したのはクラブだけなんです。スタジアムを含めたインフラ周りを所有しているのは前オーナーで、年間契約で借りています。スタジアムの地下には駐車場、スーパー、ディスカウントショップ、服屋、ペットショップ、家電屋、ホテル、カフェがあって、あとはオフィスも貸し出しています。平日には買い物客が集まり、駐車場はかなり車が埋まっています。試合の日は早めに閉店する感じです。
良い環境ですよね。それなのになぜ見に来ないのか。2部で優勝した時は満員になっていたので、街に人がいないわけじゃない。熱を持って見に来てくれる人をもっと増やしていかないと。観客席が埋まるポテンシャルはあるはずなんです。増えてくれないと、街が盛り上がりません。人口は4万人くらいですけど、周辺の街があってそこからも来ているので人口の問題じゃない。スタジアムのキャパシティは1万5000人くらいですけど、ヘンクとのダービーマッチには人が集まりますから。『やればできるんじゃん』って感じですね」
――RBライプツィヒを中心にオーストリアやニューヨーク、ブラジルなどにチームを展開するレッドブル・グループや、マンチェスター・シティを筆頭に世界各国にクラブ網を広げるシティ・フットボール・グループのように、DMMも今後複数クラブを傘下に収めて世界的ネットワークを構築していくお考えはありますか?
「選択肢として考えてはいますが、どちらかと言うと人の質の方が重要だと考えています。例えばレッドブルが良い選手の発掘を目的として、現地にアカデミーを作ったり、チームを持ったりする。それは選手を集める方法であって、それが本当に良い方法なのか。それで優秀な選手が集まるならいいですけど、結局のところは選手の質。チームを持たなくても方法はあると思っています。結局は、誰がどう良い選手を発掘できるかに懸かっている。私たちは日本人なので日本の情報は理解していますけど、韓国の若手選手は知らない。そう考えると、現地の人が見つけるのが一番良いんじゃないかと。
自分がエージェントしている選手を勧めてくる人はたくさんいますけど、それは違う。本当に良い選手を見つけて、そこから誰がエージェントなのかコンタクトが取れる、第3者の目線で見れる人がいないといけない。(複数の)チームを持つのは1つの選択肢ですが、そうしなくてもできるとわかればやりません。今アフリカへ調査に行っていて、どういう現状なのかわかってきたのでじっくり検討していくことになると思います」
――今後の計画、目標を教えてください。
「10年計画で見ていて、できれば5年以内で(上位6チームが進出する)プレーオフ1に残ってEL出場を目指したいと思っています。ベルギーではプレーオフ1に残ることが重要なので、まずはそこですね。
結果を見ていくとプレーオフ進出チームの顔ぶれは毎年入れ替わっています。選手が抜けることがままあるリーグなので、入れ替わりが激し過ぎて順位が落ちる時もあります。いかに安定して結果を残していくかが難しいところですね。
毎年この順位(6位/第21節時点)にいられるようにしたいですよね。Jリーグでも何年かに1度、急に上位進出するチームがありますけど、次の年には続かなかったりする。予算から見ると予想以上の順位にいけたというのではなく、できるだけ安定して毎年上位に入っていけるように。そういうチームは地力があるので上位に残れる。地力を徐々につけていかないとエレベータークラブになってしまいますから。
ベルギーリーグでは降格は1チームだけなので、そこは恵まれています。1チームは結構な確率ですから。逆に、2部で優勝して昇格するのも大変なことなんですが。そこも面白いリーグだと思います。クラブは地力ですよね。選手が入れ替わっても戦力が落ちないようなチーム作りをしていかないと。
重要なのは行動力だと思います。行動力のあるチームが強くなっている。行動力のないチームは強くならない。企業の事業と一緒です。常に先を目指していかないといけない。そこにいよう、留まろうと思ったら会社は終わる。常に次のことに投資し続ける会社でないと、残っていけません。僕らの感覚では、僕らがやるのは事業、株式会社ですから。今までと同じことをやっていても仕方がない。今までのスカウト網をそのまま引き継ぐのではなく、もっと広げる。
現状、欧州カップ戦に出場するアンデルレヒトのようなクラブであれば海外に選手を売却できますし、よほど良い選手なら下のクラブにいても外国のクラブに移籍できますけど、まだ少数派です。ベルギーだと国内へ移籍するケースが多い。外国のクラブへの移籍は『売り込んだの?』って聞いたら『売り込んでない』という感じなので。地元のクラブではあるけれど、情報網を広げて最善の方法を探っていきたい。
とはいえ、先にも話したようにJリーグのクラブができていることがやり切れてないのも事実です。1から凄いことをやるのも改革ですけど、小さいことをやるのも改革。地道にやれることをやっていくことで、大きな目標に繋げていきたいと思っています」
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この取材後の2018年1月16日、シントトロイデンは冨安健洋選手の獲得を発表した。彼の加入について、追加で話を聞いた。
冨安選手、チェアマンの村中、CEOのフィリップとの3ショット! pic.twitter.com/0ysJRwLGbM
— シント=トロイデンVV (@STVV_JP) 2018年1月18日
――冨安選手のことはいつからチェックしていたのでしょうか?
「彼のプレーをちゃんと見たのは、シントトロイデンの経営権取得に関して交渉してる合間にU-20ワールドカップを韓国に観に行った時でした。各国のスター候補に対峙しても物怖じしない性格とプレーにスケール感、凄いものを感じて、そこからずっとチェックしていました」
――彼に期待することは?
「アビスパ福岡の選手として戦った昨年のJ1昇格プレーオフ決勝で、名古屋グランパスのシモビッチ選手とやりあった激しさを求めています。シントトロイデンは守備が要のチームなので、守備面での貢献に期待しています」
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。