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ドメニコ・テデスコ。好調シャルケを率いる 印刷屋バイト上がりの苦労人

2017.12.08

『ビルト日曜版』を包装して一晩につき70ユーロ(約9100円)を稼いでいた

Interview with
DOMENICO TEDESCO
ドメニコ・テデスコ(シャルケ監督)

16-17シーズンのブンデスリーガで10位に沈んだシャルケだが、迎えた17-18シーズンは第14節を終えて3位と好位置につけている。その立役者が、今シーズン就任したドメニコ・テデスコ監督だ。ドイツでは近年、史上最年少監督として注目を集めたユリアン・ナーゲルスマンを筆頭に選手としては実績皆無の新世代“ラップトップ監督”の台頭がトレンドとなっている。その中でも期待の星と目されている指揮官はいかにして育まれ、どのようにしてシャルケを復活へと導こうとしているのか。その哲学に触れてほしい。

信号機のようなシンプルなルール

車を運転していて青なら通過、赤なら停車。
同じようにプレーの際は(自動的に)機能しなければならない

── あなたは大学生だった頃、エスリンゲンの印刷所で働いていたそうですね。この経験は監督業にどれだけ役に立っていますか?

 「あれは個人的にはとても貴重な経験でしたね。一晩につき70ユーロ(約9100円)を稼いでいました。アマチュアサッカーチームの同僚たちが夜中に遊び回っている間、土曜日の21時から午前3時まで『ビルト日曜版』を包装してトラックに積んでいたんです。そして、翌朝にはトレーニングに参加していました。この経験からいろいろと学びました」

── 具体的には何を学んだのですか?

 「ハードワークとはどんなものかを、身に沁みて理解しました。私たちは今シャルケで、素晴らしい仕事を引き受けているのです。このことを忘れてはいけません。プレッシャーがどれほど大きいか、選手や私がトレーニングのたびにどれほど多くのファンにサインをするのかなど、問題ではありません。職業としてこの仕事を行えること自体が、とても贅沢なことなのですから。私たちはそれをしっかりと理解しなければなりません」

── ブンデスリーガでの(指揮)経験がないにもかかわらず、昨季10位に終わったシャルケを再び上位に引き上げるために契約を結びました。あなたの前には、多くの監督たちが失敗しています。シャルケの内部では信じられないほどの抵抗もありますからね。どんな期待を胸に秘めていますか?

「感情、ファンの情熱がこのクラブを特徴づけています。シャルケはドイツで最も大きなクラブの一つです。そのトップチームを率いる刺激はとても大きなものです。クラブ内外の抵抗や狂騒に影響されないようにしなければなりませんね。この内外のノイズを落ち着かせようとしたり、ブレーキをかけようとしたりするのは、私の目的ではありません。それは監督やスタッフがどうこうできるものではありませんから」

── では、どう対処するつもりなのでしょうか?

 「私たちには、自分たちが影響を与えられるところで仕事をすることしかできません。日々の選手たちとのトレーニング、戦術やマッチプランを組み立てたり、あるいはスタメンを決定したりといったことですね。他のすべてのことは集中の邪魔になるだけです」

── しかし、日々のトレーニングや一試合一試合に集中して仕事をする、という常套句だけでは、あなたのボスを納得させることはできないはずです。彼らの目標は欧州の舞台への復帰、できればCL出場です。

 「それに反対するつもりはありません。そこに矛盾があるとも思いませんしね。しかし、それでも10カ月後の結果に関するプランを立ててはいないのです。そうではなく、まずは直近の数日間のトレーニング、チームの初戦、そしてメンバーの構成に集中しなければなりません。他のすべてのことは、何にも繋がりません」

── あなたの前任者であるバインツィール監督は、シャルケに新たなプレー哲学をもたらそうとしていました。あなたがシャルケでこれから実践しようとしているプレー哲学はどのようなものですか?

 「私の考えでは、プレー哲学というものはある状況でのプレーを強調するものに過ぎません。例えばですが、ボールポゼッションを中心としたサッカーをする、と設定することは可能でしょう。ですが、そうは言っても、プレッシング、ゲーゲンプレッシングやカウンターもゲームの一部です。時には全体を下げて自陣に引くこともあれば、全体を高く押し上げる時もあります。ただ、仮に選手たちがシャルケのユニフォームを着ていなくとも、傍から見る人々が対戦している2チームのどちらが私のチームであるか、すぐにわかるようでなくてはいけないとは考えています」

── 具体的にはどのようなイメージを持っていますか?

 「個人的には、私のプレーアイディアが選手たちにぴったり合っていることが大切です。仮に、私の方から決まったプレーの枠組みを選手たちに与えるとしてもね。私たちは、攻守においてある種の縦に向かっていく意志を必要としています。最適な選手間の距離を取ることによる、理想的なスペースの配置も重要です。それに、選手たちが私たちコーチングスタッフから必要以上の情報を与えられることなく、賢いプレーで状況を打開できるようにしたいですね」

── それはどうすれば可能になりますか?

 「次のように比喩を使ってイメージできるでしょう。車を運転していて、信号が青ならそのまま通過します。赤信号なら、停車します。選手たちがプレーする際にも、同じように(自動的に)機能しなくてはいけません。サッカーをプレーすること自体はとてもシンプルです。車を運転するように、非常に大きな数の決定を自動的に下し続けていかなければなりません。しかし、それらがあまりに複雑過ぎてもいけない。そうなれば、事故を引き起こしてしまいますからね。サッカーでも同じことです」

影響を受けた指導者たち

アリーゴ・サッキが行った発想の転換は面白い。
いまだに彼の学習用ビデオをいくつか残してある

── あなたはフースバル・レーラー(日本のS級に当たる)を最高点の1で卒業しましたね。お手本にしている人はいますか?

 「多くの監督たちから何かしら学ぶことができるものですよ。個人的には、他の監督もそうですが、アリーゴ・サッキが行った発想の転換が面白いと思っていました」

ゾーンディフェンスの改革者アリーゴ・サッキ

── イタリア人監督のレジェンドですね。彼は今のCLの前身チャンピオンズカップを88-89と89-90に制しています。

 「そうですね。実家には、いまだに彼による学習用ビデオをいくつか残してあります。主な内容は4バックのDFラインや前方に向かって押し上げて行くディフェンスのやり方です。フランスで行われたEURO2016や最近のチェルシーでのコンテの熱さも、とても気に入りました。クロップの選手のモチベーションを掻き立てる話し方やインタビューにも惹かれますね。そして、オットマー・ヒッツフェルトの仕事もとても印象に残るものです」

ドルトムントとバイエルンでリーグ7回、CL2回など数々のタイトルを獲得したオットマー・ヒッツフェルト

── なぜですか?

 「私は彼のインタビューをかなりたくさん読みました。それに、彼の下でプレーした選手たちが、彼についてどのように話しているのかも目にしています。そして、彼らがヒッツフェルトについて話す内容は基本的にどれも一緒で、『人として、選手たちとの接し方がフェアだった』というものです。しかし、それにもかかわらず、タイミングによっては選手たちに厳しく対応することもできたという話です。人をマネージメントするという仕事において、彼の手法は信じられないほど刺激的です」

──『T-Online』のインタビューの中で、ヒッツフェルトは「あなたには経験が必要だ」と語るとともに、「シャルケはテデスコ監督にとって火傷をするようなチームだ」と発言しています。それに対して、何か言いたいことはありますか?

 「私は計12年間も育成年代で監督を務め、昨季はブンデス2部のエルツゲビルゲ・アウエで働きました。これらの小さなステップを一歩ずつ踏んできています。とはいえ、私にプロ選手としての経験がないのは確かです。プロ選手としての経験は監督としてのキャリアの初めの方で有利に働くと思います」

── なぜ有利なのですか?

 「例を一つ挙げましょう。仮に育成カテゴリーで元プロ選手が監督として目の前に現れたとしましょう。そうすると、選手たちは彼を見つめて『オレもここまで行くぞ』と思います。しかし、中期的に見れば、最終的には指導の内容がモノを言います。それはブンデスリーガも同様で、元プロ選手か、育成カテゴリーの指導者から上がってきたのかは、何の意味も持ちません。最終的には、監督はクラブと、そのクラブやチームの状況に相性良くマッチしなければなりませんからね」

現有戦力の可能性

選手たちのキャラクターは素晴らしい
若手と成功者が良い具合に組み合わさっている

── シャルケはFWのハリトをナントから、デポルティーボからはCBのパブロ・インスーアを獲得しましたが、どちらもドイツ国内ではあまり知られていません。あなたは今のチームをどう評価していますか?

 「私の最初の印象は、選手たちのキャラクターは素晴らしいというものです。私たちには、しっかりとしたベースがあります。ちょうど良い具合にメンバーが構成されています。ベテランもいれば、若手もおり、まだ成功を手にしていないハングリーな選手やすでに大きな経験を積んだ選手まで、良い具合に組み合わさっていると考えていますよ」

── 若くてハングリーと言えばゴレツカですが、あなたは彼をどのように起用しようと思っていますか?

 「ゴレツカは私たちにとって、とても大きな役割を担っています。彼はポリバレントな選手です。ポリバレントとは、いろいろな起用の仕方ができるということを指します。8番(インサイドMF)としてもプレーできますし、10番(トップ下)はもちろん、6番(ボランチ)でもプレーできます。彼はセカンドボールをきっちり拾うことができ、同時にボールの供給源でもあります。加えて、彼はゴール前では危険な得点力も備えている。彼はチームに多くのことをもたらしてくれます。私は、彼が最低でもあと1年シャルケでプレーしてくれることを喜んでいます」

── マックス・マイヤーはいかがですか?

 「彼はフリーランニングがうまい、素晴らしいテクニシャンです。相手の守備ラインの間をつかみどころなく動き回り、ラストパスを常に狙っている選手ですね。それに、彼も得点を決められます」

── マイヤーは契約延長を拒みました。それにより、2018年の契約が切れると同時にフリーの立場で移籍できるようになりました。そういうこともあって、今では放出候補に名前が挙がっています。彼を戦力として考えていますか?

 「私はまだ彼と会って話をしていませんからね。彼が合流してから、様子を見ましょう。マックスが優れた選手であることは、間違いない事実です」

これまで2列目を主戦場としてたマイヤーは今季、テデスコによってボランチにコンバートされ新境地を拓いている

── 今年1月に2部のニュルンベルクからやって来たブルクシュタラーはブンデスリーガでも本当に素晴らしい選手に成長しましたね。

 「彼には、ペナルティエリア内の状況を察知するGPSが組み込まれています。つまり、ストライカーとしてどこにポジションを取らないといけないのか、良くわかっているという意味です。彼もFWとしてのゴールの嗅覚を持っていますね」

── 本日は貴重なお話をありがとうございました。

Domenico TEDESCO
ドメニコ・テデスコ
(シャルケ監督)
1985.9.12(32歳) GERMANY

COACHING CAREER
2013-15 VfB Stuttgart U-17
2016-17 Hoffenheim U-19
2017 Erzgebirge Aue
2017- Schalke

Cooperation: Sport-bild
Translation: Tatsuro Suzuki
Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images

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トルステン ルンプフ

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