日本は、決定機に直結する技術が低い。 イタリアの頭脳が分析するU-20代表
マウリツィオ・ビシディ(FIGC育成年代統括コーディネーター)インタビュー/前編
「戦術やスタイルの背景にあるフィロソフィや文化というレベルから、大陸によって明らかな違いがあることを、あらためて目の当たりにした」というのはU-20W杯でウルグアイ、日本、南アフリカ、フランス、ザンビア、イングランドという異なる4大陸のチームと対戦したイタリア育成年代の統括責任者マウリツィオ・ビシディの実感だ。低迷するイタリアサッカーを改革するためにライバル国の最新動向をリサーチしてきたFIGC(イタリアサッカー連盟)の頭脳が明かす世界、日本、そしてイタリアの育成事情。
アフリカと南米の課題
ドイツ戦のザンビアはあまりに衝動的。
決勝前夜の乱闘は南米社会の縮図
── イタリアは先のU-20W杯で史上初めてベスト4に勝ち残り、最終的に3位という成績を残しました。グループステージではウルグアイ、日本、南アフリカと当たり、決勝トーナメントではフランス、ザンビア、イングランドと戦ったので、アフリカ、南米、アジア、ヨーロッパと、北中米を除く4大陸のサッカーを見たわけですよね。まずは、ユースレベルでの世界の状況をどう捉えたかというところから聞かせてください。
「私はU-21欧州選手権でポーランドにも行ったのだが、出場しているのがヨーロッパのチームだけなので、戦術やスタイルの違いはあまり感じなかった。しかしU-20W杯では、戦術やスタイルの背景にあるフィロソフィや文化というレベルから、大陸によって明らかな違いがあることを、あらためて目の当たりにした。グローバリゼーションが進んだ今の世界においても、食生活とサッカーだけはまだまだローカルな文化が色濃く反映していることを実感したよ」
── 具体的にどんな違いがあったか聞かせてください。
「アフリカは、戦術的な観点から見るとヨーロッパやアジア、南米よりも遅れている。例えばザンビアは、ドイツとのラウンド16で88分まで3-1で勝っていたにもかかわらず、残り2分+ロスタイムの間に2点を与えて追い付かれた。というのもザンビアがカウンターアタックのチャンスを得た時に5、6人を送り込んで、自陣を空っぽにしたからだ。3-3で延長に入った後、もう1点取って最終的には4-3でドイツを下したが、本来ならば3-1で終わっていて然るべき試合だった。個々のプレーヤーは、極めて高いフィジカル能力を備えており、体格、スピード、持久力のいずれにおいても優れている。テクニックは平均的で、まだ向上の余地がある。しかし戦術的に見ると、理性的な状況判断よりも衝動的、直情的な振る舞いが先に立っている印象は否めなかった」
── それはザンビアだけでなく南アフリカやセネガルも含めたブラックアフリカ全体に言えそうなことですね。
「私は、彼らがトップレベルで違いを作り出すためには、育成年代のうちからヨーロッパのクラブやアカデミーで技術や戦術を身につけることが必要だと思う。私は現地の事情に通じているわけではないが、アフリカにはまだそうした育成の環境が整っていないという印象を強く受けた。それは戦術だけでなくテクニックやコーディネーションといった側面も、まだ十分に磨かれていないという事実に表れている。アフリカの潜在能力の高さは、もう20年も30年も前から広く指摘されているわけだが、それをサッカーというゲームの中で最大限に引き出し表現するための道筋は今もまだ十分につけられていない。代表レベルでのサッカーは、ユースもA代表もフィジカル能力に依存したスタイルであり、パワー、スピード、持久力の高さには目を見張るものがあるが、スタイルとしてはあまりに衝動的、直情的で、戦術的なレベルは低い。ザンビアとの準々決勝で、我われは後半を通して10人で戦わなければならなかったのだが、彼らは数的優位を生かそうという手を何ひとつ打ってこなかった」
── 南米はどうでしたか? 今回はアルゼンチンが早期敗退しましたが、ベネズエラが準優勝、ウルグアイがイタリアに負けて4位と健闘しました。
「南米は高いテクニックを備えたタレントの宝庫だ。今回も魅力的な選手をたくさん見ることができた。チームとしての戦術的秩序はそれなりにあるが、常にそれが高いレベルで保たれているとは言えない。そしてディシプリン(規律)、フェアプレーといった観点から見ると、過剰にアグレッシブだったりアンフェアだったりする振る舞いがやたらと目についた。すぐに熱くなって冷静さを失い、感情的に振る舞ってしまう。これは彼らの大きな限界だと思う。
しかし、南米のチームに関して一番強い印象を受けたのは、ピッチ上ではなくむしろピッチ外での姿だった。今回、4つの都市、5つのホテルを回る中で、彼らとしばしば同宿になったのだが、チームの周りには選手たちの父親、母親、兄弟、ガールフレンド、友だちまで一族郎党が集まっており、彼らがほとんど管理されることなく宿舎に出入りしていた。代表選手というのは、たとえ20歳であっても特別な存在であり、家族から友人まで10人では下らないほどの取り巻きに囲まれている。ホテルでも彼らの周囲は常にカオティックだった。彼ら取り巻きが選手に与えるプレッシャーはもの凄いものがある。家族は彼がたくさんのカネを稼ぎ出してくれることを期待しているし、友人たちもそのおこぼれに預かろうとしている。選手はそういうしがらみを背負ってプレーしており、決して自由な存在ではない。我われは選手と関係者以外はシャットアウトして、何日かに1回家族やガールフレンドと会う時間を作るというルールでやっていたが、彼らのところには常に山ほどの人が出入りしていて、誰がチーム関係者で誰が部外者なのかもわからなかった。これはニュースにもなっていたが、決勝の前夜、我われが泊まっていたホテルでは、ウルグアイとベネズエラの選手たちが、警察が介入するほどの酷い乱闘騒ぎを起こした。互いに挑発し合っているうちに熱くなって引っ込みがつかなくなったらしい。決勝の前夜にだよ。南米社会の縮図を見るような思いだったね」
── そういうピッチ外の状況はピッチ上にも影響してきますよね。
「ああ。我われはメダルをイタリアに持ち帰るためにプレーしていたけれど、彼らはチームが勝つことよりも、自らがいいプレーをしてヨーロッパのいいクラブのスカウトに認められるためにプレーしていたからね。彼らのプレーにはそれがはっきりと表れていた。実際、明らかにパスをした方がいいのに強引にシュートを打つ、シンプルにプレーせずトリッキーで難易度の高いプレーを試すといった場面は少なくなかった。最初に、戦術的秩序が常に保たれてはいないと言ったのはそういうことだ。その中でベネズエラは相対的に秩序があった。国が危機的な状況にあったこと、絶対的なクオリティが南米の中では高くないこともあるのだろう、チームに一体感があり勝利のために戦おうという姿勢を全員が共有していた。それと比べるとウルグアイ、アルゼンチンは、ピッチ上でもピッチ外でもずっとカオティックだった。ただ、個々のプレーヤーの技術レベルは非常に高い。それは例えば、試合前のウォームアップにも表れていた。我われのウォームアップは大部分がフィジカル面にフォーカスされていて、そこに多少の戦術的な復習が入っているという感じなのだけれど、ウルグアイやアルゼンチンのそれは、ほとんどが個人技術だけで成り立っていて、2人ずつペアになって、あらゆるやり方でボールを扱ってみせる。彼らのテクニックの多くはストリートサッカー由来の、狭いスペースの中で相手を出し抜くようなタイプのそれだ。見ているだけで楽しいものだったよ。アフリカのチームが圧倒的なフィジカル能力を持ちながら戦術に無頓着でナイーブだとしたら、南米は高いテクニックを持っているけれどプレーが自己中心的で戦術的秩序が不足していると言えるだろう。それと比べるとヨーロッパのチームはコレクティブで戦術的な秩序が高い」
対戦して感じた日本
エリア内を除いた70mはほぼ完璧だが、
一言で言うと、リスクを冒さな過ぎる
── 戦術的秩序に関しては、日本もそれほど引けは取っていなかったんじゃないでしょうか?
「コレクティブだというだけなら、間違いなく我われよりも日本の方がコレクティブなチームだったよ。日本だけでなく韓国にも言えることだが、今回見たこのアジアの2チームは、自陣と敵陣のペナルティエリアを除いた70mに関してはほぼ完璧だった。極めてよく組織されており、選手たちの動きもいい。体格やパワーという面ではまだハンディキャップがあるが、以前と比べると少しずつスケールアップしてきている。ただ、まだ決定的な弱点がある。それは勝利への執着心が足りないことだ。敵陣と自陣のラスト17mに、強引にでも単独で局面を打開してゴールを奪おうという強い意志、危険な状況で力ずくででも相手を止めようという激しさが見られない。何としてもゴールを奪ってやる、絶対に得点を許さないというデターミネーション(決意、執着心)が薄いんだ。個のレベルでも組織としても非常にクリーンで秩序が整っているけれど、そこを突き破る何かが欠けている。例えば我われも日本にはかなり苦しめられた。テクニックのレベルが高くボールポゼッションが安定している。ただ、試合の中には、組織ではなく個人の力で局面を打開して決定的な違いを作り出すべき場面というものがある。しかしそこでも日本の選手は、与えられたタスクをこなすだけでその枠を越えて行こうという姿勢に欠けていた。唯一それが見えたのは、7番の選手(堂安)がドリブルでペナルティエリアに突っ込んできて強引にゴールを奪ったあの場面くらいだった。しかし、あの7番以外の選手は全員、与えられたタスクを遂行するだけで、その枠を越えた個人のイニシアチブで相手を困難に陥れようという意識に欠けていた。とはいえ、総合的に見れば間違いなく日本は成長しつつあると思う。体格、すなわち高さと重さという部分でも以前より大きくなってきているし、テクニックの平均レベルも非常に高い。しかしまだあまりにも秩序が勝ち過ぎている」
── アフリカや南米と同じように、これもまた文化的な問題ですね。個人のイニシアチブで与えられたタスクの枠を越えるプレーをしないのは、失敗を怖れるメンタリティが強いからだと思います。それは、失敗すると罰せられるからであり、与えられた枠を越えてリスクを冒しチャレンジすることを奨励するよりも嫌悪する空気の方が強いという社会のあり方と密接に関わっているような気がします。
「与えられたタスクをきっちりこなしていれば、それが何をもたらさなくとも罰せられることはないというわけだ。だが社会の中ではそうでも、サッカーではそれだけでは違いを作り出すことはできない。自陣と敵陣、最後の17mを決定づけるのはまさにそこから先、個人のイニシアチブで枠をはみ出す部分だからね。例えば、残り5分で点を取らなければ負けるという状況になれば、イタリアの選手たちは与えられたタスクなど放り出して前線に攻め上がり、パスなどせずにどんどんゴール前にボールを放り込むだろう。そうやってなりふり構わず引き分けをもぎ取る。でもたぶん日本は、残り2分になってもボールのラインより後ろにフリーの味方がいればそこにパスを出して、そこからグラウンダーのパスで攻撃を組み立てようとするのだろう。試合状況がどうであっても、残り時間が何分でも、試合の戦い方はいつも同じ。誇張を承知で言えばそういう印象を受けたことは確かだ。まあ今回は、残り10分でお互いにとって2-2でOKだったから、ああいう展開になったわけだが……」
── そうしたメンタリティ以外に、日本に関して何か目についたことはありましたか?
「さっきも言ったように、フィジカル的には我われとの体格差が縮まってきているし、テクニックのレベルも高い。ただしそのテクニックは正確なストップやトラップ、そしてインサイドでのショートパス、マークを外す動きというベーシックな技術の高さであって、ドリブル突破やサイドチェンジ、敵の守備ラインを突っ切る30mの速いグラウンダーのパス、ミドルシュートといった難易度が高く、決定的な局面に直結するようなハイリスク、ハイリターンの技術については、それよりもレベルが落ちる。一言で言うと、リスクを冒さな過ぎるということだ」
── まさに日本社会を反映していますね。
「アフリカや南米の例も含めて、だからW杯は興味深かったと言える。ピッチ上のプレーや振る舞いに社会や文化のあり方がこれほどはっきりと映し出されるスポーツは、他にはあまりない。サッカーは世界中でプレーされているからなおさら違いが際立つ部分もある。それを言えばニュージーランドも凄かった。ほとんどラグビー選手がサッカーをやっているようだったよ。大柄な体格、大雑把な技術、本当によく走るけれどタイミングの感覚がないから方々で相手とぶつかり合っている。サッカーの試合になっていなかったね」
── 結果的にはイングランド優勝、準優勝がベネズエラ、イタリア3位、ウルグアイ4位と、ヨーロッパと南米がその優位性を示す結果になったわけですが、この世界地図はまだ当分変わりそうにありませんね。
「フィジカル的なポテンシャルに関しては、ブラックアフリカが際立っている。これは否定しようがない事実だ。しかしサッカーはフィジカル能力だけでやるスポーツではない。技術や戦術はもちろん、メンタリティやディシプリンという文化的な要素までが関わってくる。その点に関しては、南米、そしてヨーロッパがまだ小さくないアドバンテージを持っていると思う。チームの大半を黒人選手で固め、そのフィジカル的な優位と技術、戦術的なレベルの高さを両立させたイングランドが優勝したのは、その意味では必然だったと言えるだろう」
── ブラックアフリカのフィジカル能力とヨーロッパのコーチングメソッドによる技術・戦術の洗練にこそ、サッカーの未来があると言えそうですね。
「私はそう思っている。イングランド、フランス、オランダ、ドイツ、ポルトガルといった国がそれを証明しつつあるよ」
欧州の変化
凋落が著しいのはバルカン半島の国々。
ベルギーとスイスもやや落ちている
── U-21欧州選手権には、ヨーロッパ主要国の動向が反映されていたと思います。前回話を聞いた1年前と比べて、何か変化はありましたか?
「多少の変化はある。例えばスペインはややイタリア化してきた。守備の局面にもより注意を払うようになってきており、よりコンパクトになり守備の秩序が高まっている反面、以前ほど攻撃的でもスペクタクルでもなくなってきた。スペイン代表の育成責任者と話をしたのだが、最近は3日練習があったら少なくとも1日は守備に充てるようにしている、エクササイズはイタリアから学んでいると言っていた。以前は3日間攻撃の練習しかしていなかったそうだ。イングランドはさらに強くなってきている。今年はU-20W杯の優勝だけでなく、U-21欧州選手権でもスペイン、ドイツ、イタリアとともにベスト4に勝ち残っている。彼らの育成プロジェクトは非常によく機能している。U-15からすべての年代で[4-2-3-1]システムを採用し、イングランドサッカーの伝統と比べるとよりモダンでテクニカルなスタイルで戦っている。カリブ海の旧植民地にオリジンを持つ黒人選手が多く、さっき触れたようにフィジカル能力の高さと高い技術・戦術が両立している。
一方、凋落が著しいのはセルビア、モンテネグロ、マケドニア、クロアチアといったバルカン半島の国々だ。内戦の時代が終わって社会が安定し豊かになったことで、以前のようなハングリー精神が失われ、サッカーだけが社会的階層を上昇するための手段だった時代が終わったことと関係している。そうした兆候は、U-17以下、2000年代生まれの世代により顕著だ」
── ヨーロッパで先頭を走っているのがドイツ、スペイン、イングランド、フランス、イタリア、オランダ、ポルトガルという状況は変わっていないわけですね。
「変わらないね。協会レベルの育成プロジェクトという点では、ドイツが相変わらず最も進んでいる。システムはどの年代も[4-3-3]か[4-2-3-1]、いずれにしても中盤を3人で構成する布陣で、後方からのビルドアップと中盤でのボールポゼッションを重視したモダンなスタイルを徹底している。以前と比べた変化としては、ウイングをワイドに張らせず、やや内に絞ったポジションを取らせるようになっていることが挙げられる。ゴールに近い中央ゾーンの人口密度を高め、幅と奥行きはSBの攻め上がりによって確保するという考え方だ。大外のレーンにウイングとSBを置き、サイドで数的優位を作ってクロスを折り返すのではなく、中央の3レーンで数的優位を作ってコンビネーションや個人能力でフィニッシュへの形を作り出すというアプローチになっている」
── ベルギーはどうですか?
「やや落ちてきている。理由は明らかだ。アルバニアやモロッコなどからの移民二世が、ベルギー代表ではなく母国の代表でプレーすることを選ぶようになったことだ。スイスについても同じことが当てはまる。この2カ国は人的リソースという点で以前持っていたアドバンテージがなくなってきた。さらにベルギーの場合、以前は育成年代のエリートをサッカー協会のトレーニングセンターに集めて週5日間トレーニングしていたのだが、今はクラブが選手をフルタイムで預けてくれなくなってしまった。そのため、我われと同じように代表レベルでは月1、2回のミニ合宿を行うだけになり、以前のような一貫した指導ができなくなっている。こうした変化の影響はすぐに表れるもので、(ユース年代の)UEFAランキングも下がってきた」
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■プロフィール
マウリツィオ・ビシディ
(イタリア代表育成年代統括コーディネーター)
1962.5.18(55歳) ITALY
ISEF(体育専門学校)修了後、コーチキャリアをスタート。パドバの育成部門でデル・ピエーロを育て、91年、当時のミラン監督サッキにプリマベーラ(U-19)監督として引き抜かれる。その後ペスカーラ、ビチェンツァ、モデナなどセリエB、Cの監督を歴任し、2010年8月より師匠のサッキとともにイタリアサッカー連盟(FIGC)の育成年代代表の運営体制改革に携わる。2016年7月から始まったベントゥーラ新体制では育成年代代表の統括責任者に昇格。各年代の代表チームとともにヨーロッパ中を飛び回る多忙な日々を送っている。
Photos: FIFA via Getty Images, Getty Images
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。