リバプールはSNSでも敵なし!?「世界一バズるサッカークラブ」の戦略
【ファンと振り返るリバプール優勝5つの理由】#3
「君たちが我われを王者にしてくれた」――トロフィー授与式でユルゲン・クロップが口にしたのは、5年間で「疑う者」から「信じる者」へ変貌を遂げたサポーターへの感謝の言葉だった。悲願のプレミアリーグ初制覇。歓喜の瞬間を夢見てリバプールを信じ続けてきたファンにとって、30年ぶり国内リーグ戴冠の理由は何なのか。経営、専門家、SNS戦略、ブランディング、データ……独自の視点で名門復活に迫る!
今回は、好評発売中の『リバプールのすべて』でクラブが秘めるポテンシャルとして「SNS」を挙げたイタツ氏に、その戦略を振り返ってもらった。
【リバプール優勝記念出版】
7試合を残して史上最速優勝を果たしたリバプールだが、圧倒的な強さを誇っていたのはプレミアリーグの舞台だけではない。『Deportes&Finanzas』によれば、今年に入ってから4カ月の間にリバプールがInstagram、Twitter、Facebook、YouTube、TikTokで獲得した総エンゲージメント数は、4億9900万にも上っている。世界中のフットボールチームの中で、リバプールは最大の数字を記録しているのだ。
今や全世界で38億人のアクティブユーザーがいるとされるSNS。半数以上のスポーツファンが1日に1回以上SNSに触れるというデータもあり、世界中のスポーツチームがエンゲージメント稼ぎに躍起になっている。そんな中、リバプールはいち早くSNS戦略を打ち出していたパイオニアだった。現在プレミアリーグのみならず、SNSでも王者に輝いているのは決して偶然ではないのだ。
Twitterを始めたのは○○年前!
フットボールにまつわるSNSアカウントの中でも、そのユニークさで話題になっているのはローマ公式Twitterの英語版だ。その「中の人」であるポール・ロジャーズは、リバプールの国際デジタル開発部門で働いていた過去を持つ。
リバプールのTwitterアカウントのプロフィールを見てみると、SNS黎明期である2009年1月(今から11年半も前!)が登録日となっているが、それを立ち上げたのがこのロジャーズであった。翌年1月に『Digital Sport』が公開した彼の言葉を読み返してみると、すでに彼がSNSの可能性に気づいていたことがうかがえる。
「初日から、私たちはTwitterをあるべき使い方――ファンとコミュニケーションを取り続けられる1つの楽しい方法で利用してきました。リバプールでの生活について話したり、私たちの意見や選手、舞台裏で働くスタッフからの知見を共有したりしていますが、最も重要なのはフォロワーのみなさんの声に耳を傾け、可能な限り返信することです。すべてのツイートやメッセージに反応することはできませんが、多くの方に返信しています」
SNSのメリットは、従来のテレビCMのような一方通行に終わるコミュニケーションと異なり、あらゆるユーザーに対して1対1の「双方向のコミュニケーション」を取れることだ。そうして繋がりを強め、消費者を「ファン」へと昇華することで売り上げに寄与する。今でこそ企業レベルで常識となっているこの見地を、リバプールは10年以上前から理解していたのだ。
当時のTwitter運用を振り返っても、オンラインストアや公式サイトに関する質問への回答、ファン同士の意見交換を促すハッシュタグの作成、選手と交流できる投稿をリバプールは早くから行っていた。
また、2012年には公式YouTubeチャンネルで、モノマネタレントのダレン・ファーレイがジェイミー・キャラガーに扮してジョーダン・ヘンダーソンにインタビューする動画を公開。クラブ自らあえて「シュールなコンテンツ」を配信し、ファンのリアクションを誘発する手法を確立し始めた。
こうした「双方向のコミュニケーション」を世界中で促すべく、リバプールはTwitterからグローバル進出を行っていく。アラビア語、スペイン語、フランス語、インドネシア語、マレーシア語、タイ語、ポルトガル語、トルコ語、バングラデシュ語に対応するため、2013年春の時点で12もの公式Twitterアカウントを展開していたのだ。
「英語がわかれば素晴らしいですが、そうでなければ素晴らしさがわからなくなってしまう。私たちが調べたところ、何百万ものサポーターが後者に当てはまっていたのです」(ポール・ロジャーズ)
SNSを通じてより多くのファンにリーチできるようになったリバプールは、「世界中のどこにいようと、どんな言葉を話そうとサポートできるクラブ」へと変わっていったのだ。
巧みな“ノーマルワン”活用術
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ファンと振り返るリバプール優勝5つの理由
Profile
イタツ
2006年ドイツW杯でジェラードにときめいたことがリバプールファンとなるきっかけ。2011年に初めて訪れたアンフィールドで人々の温かさに触れ、クラブと街そのものに一層強い愛着が芽生える。2017年にLFCラボライター、2018年にサポーターズクラブのSNS担当として活動を開始。現地観戦記事を中心に執筆。