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「反・戦ピリ」のもう1つの未来。エコロジカル・トレーニングの可能性

2020.06.06

 モウリーニョの成功以降、戦術的ピリオダイゼーションは現代サッカーに大きなインパクトを与え続けてきた。その影響は単なるピッチ内のトレーニングのみにとどまらず、補強戦略やクラブ運営の分野まで広範囲に及んだ。その一方、ここ数年で成功を収めているのは、戦術的ピリオダイゼーションの考え方とは真逆のコンセプトを持つチームだということも、疑いようのない事実である。

 去年のCLで大躍進したトッテナム、CL3連覇を果たしたジダン監督のレアル・マドリー、そしてロシアW杯で優勝したフランス代表……。彼らには、ゲームモデルが「ない」のだ。何をやらせても素でできてしまう高い能力と並外れた戦術力を持った選手たちが、その時その状況に合わせてカメレオンのように色を変えて戦っていく。昨年CL優勝を飾り、現在プレミアリーグを無敗で独走しているリバプールも、カウンター主体のゲームモデルからポジショナルプレーを取り入れ、両刀を駆使して「いざとなったら何でもできる」チームになったのが、ここまで成長した大きな理由の1つだろう。

 スターの原石たちによる「モナコの下剋上」こうした欧州サッカーの流れの中、そういった方向にいち早く舵を切ろうとしていたトレーニング理論がある。エコロジカル・トレーニングだ。これは、戦術的ピリオダイゼーションとはまったく方向性が異なる、サッカーを生態系にたとえ、良い関係性、良い生態系を作ることこそが良いチームを作ることだ、という考え方だ。言うなれば、ゲームモデルという建築物を人工的に作るのではなく、アメリカやアフリカの壮大な国立公園のように、生態系を作りバランスを維持する手助けをし、各々が生き生きと自然の中でプレーしていくことを目指しているのだ。……

Profile

林 舞輝

1994年12月11日生まれ。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻し、首席で卒業。在学中、チャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部の大学院に進学。同時にポルトガル1部リーグに所属するボアビスタのBチームのアシスタントコーチを務める。モウリーニョが責任者・講師を務める指導者養成コースで学び、わずか23歳でJFLに所属する奈良クラブのGMに就任。2020年より同クラブの監督を務める。