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カオスとフラクタル、モルフォサイクルって何? 戦術的ピリオダイゼーション用語辞典

2020.06.02

様々な学問分野がベースになっているため、難解な専門用語が並ぶ戦術的ピリオダイゼーション。理解への第一歩は、言葉の意味を知ることだ。関連するテキストを読み解く材料として、初の著書『「サッカー」とは何か 戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論』を上梓した林舞輝氏による、この用語辞典を活用してほしい。

【ゲームモデル】(げーむもでる)

チームが目指す、試合の模型。「どうプレーしていくか」というチームのガイドであり、全員が頭の中で共有しておかなければならない地図。

【プレー原則】(ぷれーげんそく)

ゲームモデルに基づいた、各局面でのプレーの行動規範。主原則、準原則、準々原則……というように、主原則からさらに原則を細分化し、共有していく。

【カオス】(かおす)

初期値の微小なずれが拡大していき、最終的に無視できない影響を与え、結果がまったく異なるものになってしまうという理論。理論的には初期状態がわかれば自ずとその後すべての変化が決定され予測できるはずだが、現実の世界では、様々な要素が複雑に絡み合っているために初めのほんの少しの違いによって最後の結果が大きく変わってしまうため予測することは不可能であるというもの。

【フラクタル】(ふらくたる)

フランスの数学者マンデルブロが提唱した幾何学の概念。ある図形の部分が全体の自己相似になっている構造を指す。雪の結晶のように、顕微鏡で拡大してみても、全体の構造とそれを構成する構造が変わらない。ある全体の構造がその構造を形成する細部の構造と同じ形を持つことをフラクタルと呼ぶ。

【チーム単位】(ちーむたんい)

「チーム」「インターセクトリアル」「セクトリアル」「グループ」「個」という戦術的ピリオダイゼーションにおけるチームの単位分け。サッカーはフラクタルであるので、11対11も7対7も3対3も、その構造は同様であり、このフラクタル構造の中でどこに練習で改善の余地があるのかを明確にする。

【チーム】(ちーむ)

戦術的ピリオダイゼーションにおけるチームの単位分けの中で、最大の単位。選手11 人全員が含まれるフラクタル構造であり、「インターセクトリアル」「セクトリアル」「グループ」「個」が構成要素になる。

【インターセクトリアル】 (いんたーせくとりある)

戦術的ピリオダイゼーションにおけるチームの単位分けの中で、上から2番目。ポジションは別だが、相互関連性の深いポジションを交差する組み合わせ。右CBと右SB、左SBと左ウイング、トップ下とFWなど。

【セクトリアル】 (せくとりある)

チームの単位分けの中で中間に位置する単位。簡単に言えば、ポジション別。DF陣、MF陣、FW陣など。「グループ」と「個」が構成要素になる。

【グループ】(ぐるーぷ)

チームの単位分けの中の1つで、「個」の次に小さい単位。ポジションやピッチのエリアによらない、局面での2対2や3対3のこと。

【個】 (こ)

戦術的ピリオダイゼーションの単位分けの中で、最小の単位。言葉の通り、個々の選手のこと。

【戦術】(せんじゅつ)

戦術的ピリオダイゼーションにおいては[4-4-2]といったシステムの話やトリックプレーのような「作戦」ではなく、判断や頭を使う能力のことを言う。戦術力のある選手とは、判断力に優れ頭の良い選手のことを指す。

【インテンシティ】(いんてんしてぃ)

戦術的ピリオダイゼーションではフィジカル面だけではなく、頭や心の面での密度のことも指し、これらは切り離すことはできないとしている。「インテンシティの高い練習」とは、強いメンタルが問われ、高い集中力が必要とされ、プレー原則がたくさん含まれているような練習のことを言う。

【モルフォサイクル】(もるふぉさいくる)

週末に試合があるとした時の1週間の期分けのサイクルのこと。Morphocycleの語源はギリシャ語の「Morph」という「形」を意味する言葉とCycleを合わせた造語である。戦術的ピリオダイゼーションはこの「モルフォサイクル」を基にシーズンの期分けを行う。

【ストレングス】(すとれんぐす)

何か働きかけてくる力に対して耐える強さのこと。自分にぶつかってきた相手に対して倒れないようにバランスを維持し耐える強さであり、猛スピードで走っている時に急に止まる時の力。筋収縮では伸張性収縮(エキセントリック収縮)という種類になる。

【インデュアランス】(いんでゅあらんす)

持久力。いわゆる筋持久力と呼ばれるもので、筋肉を長時間動かし続けるために、繰り返し、または持続的に筋収縮を繰り返すための力。

【パワー】(ぱわー)

何かに対して自ら働きかけて動かす力。相手にぶつかっていく時の強さであり、止まっている状態から猛スピードで走り出すための力。筋収縮の部類では、短縮性収縮(コンセントリック収縮)と呼ばれている。

【アクティブ・リカバリー】(あくてぃぶ・りかばりー)

疲労から回復するために行う、非常に軽い負荷のトレーニング。有酸素運動やダイナミック・ストレッチなどで軽く体を動かすことが回復を促すとされている。

【ピリオダイゼーション】(ぴりおだいぜーしょん)

旧ソ連のマトベーエフによる提唱から始まった、コンディショニングの基礎理論。負荷、刺激、疲労、回復、適応(成長)のレベルを期分けして練習を組む。スポーツの特性によって、「線形ピリオダイゼーション」「非線形~」「ブロック~」「リバース~」「波状~」など様々な種類がある。

【マクロサイクル】(まくろさいくる)

ピリオダイゼーションにおける、一番大きな期間分けの単位、サイクル。1年、1シーズン、大会によっては半年間(2ステージ制などの場合)などの大きな期間。

【メゾサイクル】(めぞさいくる)

ピリオダイゼーションにおける、中期的な期間を指す。1カ月や2カ月(4~8週間)、サッカーの場合は季節など(夏と冬ではトレーニングの負担が変わってくるため)で分けるサイクル。

【マイクロサイクル】(まいくろさいくる)

ピリオダイゼーションにおける、1週間単位の期間分けとサイクルのこと。戦術的ピリオダイゼーションの場合は、モルフォサイクルという専門用語を使う。

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Photo: Getty Images

Profile

林 舞輝

1994年12月11日生まれ。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻し、首席で卒業。在学中、チャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部の大学院に進学。同時にポルトガル1部リーグに所属するボアビスタのBチームのアシスタントコーチを務める。モウリーニョが責任者・講師を務める指導者養成コースで学び、わずか23歳でJFLに所属する奈良クラブのGMに就任。2020年より同クラブの監督を務める。