「らしさ」の言語化。ガンバアカデミーメソッドの構築(坪倉進弥インタビュー後編)
【ガンバ大阪、アカデミー改革の時 #3】
2020年シーズン、ガンバ大阪のアカデミー部門を統括する「アカデミー・ヘッド・オブ・コーチング」に就任した坪倉進弥氏。後編では指導の指針となるアカデミーのビジョンやゲームモデル作成の経緯や指導実践にむけた見解について話してもらった。
フットボールの強化と生産性
――アンデルレヒトから戻り、指導のうえで日本の選手たちに伝えたいと感じていたことはありますか?
「トレーニングにおいてはなぜこういうルール、コートサイズなのか、常に自分で考えてもらいたいです。それプラス、このルールならこうした方がいい、これはあんまり良くない、というふうに自分で考えたこと、やりたいことにどんどんチャレンジしてもらいたい。言われたメニューをこなすだけじゃなく、なぜこのメニューなのか。その中で自分がどうすればいいのか、常に考えてもらいたいですね。あとは自分を表現すること。自分がこう思っているけど、チームメートに言いにくい、コーチに言いにくい、じゃなく、考えてもわからないなら言うべきだし、あるいはこの状況ならこうしたい、という主張があるならば、事前に要求すべき。その辺の自己表現力の強さというのは必要だと思います」
――その点は個の育成を重視するガンバでやっていきたいことに繋がりますか?
「そうですね、アカデミーは個の育成ですからね。私もずっと自身の中では心がけて指導してきたものの、実際その具体性やクラブ内での計画性などは、おぼろげなままベルギーに行きました。そこで痛感したのは、コーチングの統一性、クラブ全体でどういった指導をするのか、なんのために、どういった選手を育てたいのかが明確にあるかないかで、選手個々の成長が大きく変わってくるということでした。私はJJP(JFA/Jリーグ協働プログラム)のプロジェクトの中でアンデルレヒトへ行かせてもらったのですが、帰ってきた後に『フットパス』という、フットボールクラブを評価するシステムが出した結果を見ました。2015、16年あたりに、フットボールクラブのアカデミーとしてどうなのか、という査定をされたんです。経営方針、運営、5つぐらい大きな項目があった中で、『フットボールの強化』と『生産性』、この2つが日本の大きな課題だという結果が出たんです」
――フットボールの強化と生産性ですか。もう少し、詳しく教えていただけますか?
「強化というのは、各クラブにフットボールの哲学がしっかり構築されているか、それを基に計画的に実行されているかという評価軸です。その結果では、Jクラブの練習は1回の平均が113分くらいだったと記憶しています。そのうち、選手が止まっている時間が確か35分くらいだったんですが、このボールに関与していない、選手が止まっている時間が長過ぎると。シュート練習の順番待ち、練習と練習の間などで、113分のうち35分ぐらいは止まっていて、動いているのは約80分。その80分の中で、やっていることのうち40~45%がゲームです。ただ、ゲームをやるのはかまわないけど、そのゲームにリアリティがない。そのゲームオーガナイズを105m×68mのフルコートゲームの中に置き換えると、1人ひとりのプレーエリア、ボール関与の種類、移動距離内のインテンシティといった部分のリアリティに欠ける、というデータが出ていました。
こうしたことは帰ってきてから知ったんですけど、確かにアンデルレヒトの練習では常に動いていました。練習の最後にやるゲームも、人数対サイズで考えるとコートサイズよりもかなり広くて。そのサイズでゲームやるのはどうなんだろうと思っていたんですけど、実際は試合のフルコートのサイズから逆算されていて、試合を観ると練習でやったことがしっかりと出ているんです。もちろん、日本では使用できるコートのエリア、サイズ、時間などに限りがあります。ヨーロッパだと裕福に土地がありグラウンドもあるので、同じようにできるわけではありませんけど。でも、工夫はできると思います。生産性というのは、内部昇格だけではなくアカデミーの選手をいかにビジネスとして売れるか。そこの部分に関しては、やっぱり(日本の)評価が低い。育成をビジネスとして捉える意識が、向こうと比べると日本ではかなり希薄なのでそういう結果になるんだろうなと。このように学んできたことを通じて、フットボールの強化、育成の生産性を上げたいです。コーチングの統一性と計画性を構築した中で、各コーチの情熱とスキルを存分に発揮して、個の育成をより高めていきたいと考えています」
7項目のゲームモデルと11項目のプレーヤープロファイル
――コーチングの統一というのは、クラブのサッカースタイルの構築と繋がると思います。ガンバが目指すスタイルは、もうある程度言葉にできるのでしょうか?……
【特集】ガンバ大阪、アカデミー改革の時
Profile
金川 誉(スポーツ報知)
1981年、兵庫県加古川市出身。大阪教育大サッカー部では関西2部リーグでプレー(主にベンチ)し、2005年に報知新聞大阪入社。野球担当などを経て、2011年からサッカー担当としてガンバ大阪を中心に取材。スクープ重視というスポーツ新聞のスタイルを貫きつつ、少しでもサッカーの魅力を発信できる取材、執筆を目指している。