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マンチェスター・シティを迎え撃つ日本代表・畠中槙之輔が語る未来像

2019.07.16

畠中槙之輔は決して言葉を巧みに操り雄弁に語るタイプではない。自身でも自らを「人見知り」だと評する。だが、取材者に対しては真摯に向き合って対応してくれる。そして、言葉少ない中から負けん気と芯の強さを感じさせる。取材日は代表戦の翌日であったにもかかわらずロングインタビューに応じてくれたことへの感謝を込めて、長文になってしまったがなるべく削らない形でお届けしたい。

マリノス好調の要因


――新加入選手がすぐにフィットする理由はシティ・フットボール・グループのスカウティング力が影響しているのでしょうか? 畠中選手もマリノスのサッカーに合うだろうとスカウトが目をつけて獲得に至ったと思うのですが。マリノスは馴染みやすかったですか?

 「僕が来た時、3バックをやっていたのですが、あの時は普通の3バックではなかったので訳がわからなくて。『なるようになる』くらいに思っていました。ただ、状況状況で思い切ってプレーすることを心がけました。3バックですが、CBの両脇がどんどん前に絡みに行って、何ならボランチの隣にポジションを取ったり。(マリノス)デビュー戦は天皇杯の仙台戦だったのですが、ペナの近くまでオーバーラップもしましたし、とにかく攻撃的でしたね。もうリスクしか侵さないみたいな(笑)。『これ上がって大丈夫なのか?』というのはすごくありましたよ」


――そのサッカーをやっていた時は『今後どういう選手になるのかな?』みたいな不安はありましたか?

 「ありましたよ。CBでも攻撃参加をすごく求められますし、僕にとって攻撃は楽しいから良かったですけど。良い意味でのカルチャーショックではありました」


――今年は4バックで固定され、現在はレギュラーをつかんでいます。非常に順調ですが、このようなイメージはシーズン前から描けていましたか

 「今年の始めはケガで出遅れて、キャンプまではサブ組だったので、開幕戦のスタメンを取れるとは思ってなかったですし、出続けられるとも思えませんでした。ましてや代表なんてまったく想像していませんでした」


――今季、チームの好調の要因はどこにあると思いますか

 「点を取る時の圧力が、去年よりも増しているなと思います。しっかり点を取るべき選手が取ってくれているのが大きいですね。チーム全体でゴールを奪う意識が以前よりも増しています。例えば、クロスに対しても人数をかけられていない時は点を取れていないですが、点が取れている時は2人、3人とペナの中に入っています。その辺りが良くなっていると思いますね」


――去年から多少メンバーは変わりましたが、そのあたりの難しさはなかったですか?

 「フォーメーションやメンバーは変わりましたが、誰が出てもやることも変わらないですし、そんなに大変さは感じないですね」


――マリノスのサッカーはGKがポイントだと思いますが朴一圭(パク・イルギュ)選手が加入しての変化を感じたことはありますか?

 「そんなに感じていないですね。(飯倉)大樹くんもパギ(朴)くんもどちらもシュートストップが巧いですし、足下もどちらも巧いから。僕はどっちが出てもプレーを変えることはないですし、2人ともに信頼していますね」


――前所属の東京ヴェルディ(以下ヴェルディ)とマリノスの違いはどのようなところに感じていますか?

 「選手の質もありますが、やっぱりマリノスの勝利に拘る姿勢というか、勝ちたいという気持ちはより強いと感じます。ヴェルディが決して弱いというわけではないですが、J1で長年やってきているだけのものがあるなと思います。経験豊富な選手も多いですし、戦い方一つとっても、時間の使い方、ボールの回し方とか、要所要所で差を感じましたね」


――今マリノスだと、誰と仲が良いんですか?

 「朴くんと(広瀬)陸斗と、あと(扇原)貴くんとか(大津)祐樹くんとかですかね。でもチーム全体として本当に仲良いですよ」


――チームメイトとはけっこうサッカーの話をしますか?

 「サッカーの話もしますが、普段はゲームの話とか。みんなスマブラやっています(笑)。あとはどこかに買い物行こうとか、そんな話をしますね。やっぱり歳が近い人と一緒にいることが多いです。陸斗は同い年ですし。今は(中川)風希もいますけど、来た時最初は同期がいなかったので。同い年が来てくれたので、今はよく一緒にいますね」

プロになって試合を見るようになった


――海外サッカーはどれぐらいご覧になりますか?

 「海外サッカーは週1で見ていますね。チームはリバプールとか、(マンチェスター・)シティを見ることが多いですね。シティの攻撃サッカーはマリノスと通ずるところもあるので、見るようにしています。ただ、プロになるまでは海外サッカーどころかJリーグも含めてサッカー自体まったく見ていませんでした。ある意味自分の仕事に活かすために見始めたというか、勉強にもなりますし、見なきゃまずいなって(笑)。見ているとやっぱり自分がここに立ったらどういうプレーをするのだろうと考えるようになりました」


――やはりCBを中心に見ますか?

 「そうなりますね。選手でいうとシティのエメリク・ラポルト選手です。ラポルト選手は左CBで左利き、僕は右利きですけど、プレースタイル的にも近い部分があるので、参考にしています。CBでも足下の技術が高いから、取られないし運べるし、相手の嫌なところにパスを通せる。守備面でも相手のスピードに乗った選手でもしっかり対応できるし、カバーエリアも広いし、競り合いも強いですよね」


――CBをやり始めたのはいつからですか?

 「CBをやり始めたのは小5です。ヴェルディジュニアに入ってから。最初CBって言われた時は正直嫌でした(笑)。サッカーは点を取ってナンボだと思っていたので。前のチームではFWとか、点を取ることばっかりやっていました。小学生の割には身長が高かったので、それでCBをやらされました。背が高い分、いろいろと有利なところがあったので、CBは最初からすんなりとできていたと思います。小6の終わりくらいから、CBで後ろにいるだけではつまらないと思って、ドリブルで前線まで行くようなことが増えていきました。そこから『CBでも攻めていいじゃん』と考えるようになりました。最初はCBの右をやっていたのですが、左をやり始めたのは、左の方が当時は前に運べるスペースが空いていたので。だから左をやりたいって言って志願しました。それからドリブルするCBになりました」


――ご自身の性格をどう思っていますか?

 「人見知りですよ(笑)。人と打ち解けるのに少し時間がかかる時もあります。ただ、最近は少しずつ自分を変えていきたくて、なるべく自分から打ち解けようとしています。もっと楽しく過ごそうと思って(笑)。少しずつ改善しているとは思います。最近よく自分で人見知りって言うと『そんなことないじゃん』と言われるようになってきました。ほんとここ最近ですが。代表でも初招集のときよりも2回目の方が周囲と良いコミュニケーションを取れていたと思います」

マンチェスター・シティの試合を見て参考にすることも(Photo: ©Y.F.M)

チアゴ・マルチンスの存在


――今、Jリーグを見ていて1番すごい選手はチアゴ・マルチンス選手ではないかと思っているのですが。

 「僕もそう思いますね。あのスピードはハンパないです。あれずるいですよ、本当。スピードがあればなんでも許されますからね。チアゴはちょっと異次元過ぎる(笑)。あいつのスピードには敵わないから、自分はまずポジショニングを取って、相手より優位な状態でスタートすることを普段は考えていますね。チアゴが隣にいるのは心強いですよ。やりやすいというか、カバーしてもらってばっかりなので、感謝しています」


――今まで一緒にやった中でも特別な選手ですか?

 「そうですね。代表でもヴェルディでもいろんな選手と組んできましたけど、チアゴはすごく心強いですね。ずっとあいつと組んでいたいですよ」


――良い選手と組むと自分も成長できるものですか?

 「はい。信頼できる分、僕も思い切って勝負にいけるというのがありますね」


――畠中選手がもう一段上に行くために取り組んでいるところを教えてください。

 「持ち味の縦パスはもっと磨かなきゃいけないと思っています。加えてもう少し守備でも持ち味と言えるような武器を作りたいので、今努力しているところですね。普段のトレーニングで言えば、体幹や体のブレをなくすためのトレーニングをしています。あとは自分のプレースタイルに近い選手のプレーをよく見ることは大事だなと」


――自分のプレースタイルに近い選手というのは、具体的に言うと? 

 「シティのラポルト選手や、Jリーグではフロンターレの谷口彰悟選手を見ますね。谷口選手は自分がヴェルディの時から見ています。谷口選手も左足も右足も蹴れる。繋ぎも巧いし持ち上がれるし、ディフェンスも強い」


――谷口選手ではなく、ご自身が代表に選ばれたというのはどんなところにあると思いますか?

 「正直に言うとわからないですけど、強いて言うならまだ若いというくらいじゃないですかね」


――森保一監督からも今後の成長の期待を感じてはいますか?

 「そうだと思っています」

日本代表での刺激


――今回あらためて日本代表に入って感じたことを教えてください。

 「前回同様、レベルの高い選手がたくさん集まっていて、練習からレベルが高いです。やらなきゃいけないというか、足りていない部分をすごく感じました。2回目の代表招集だったのですが、まだ慣れないところもありました。ただ、前回よりは最終的には慣れたというか、いろんな人と話せるようになったので、少し気は楽になりました。3月に呼ばれた最初の時はめっちゃ緊張しました(笑)。初日から解散の日までずっと緊張しっぱなしで。最初の代表では安西幸輝とヴェルディ時代の同期なのでずっと一緒にいました。あと(中島)翔哉くんも。2人には本当に助けられました。正直、自分が代表に選ばれるとも思ってなかったですし、びっくりしましたね。行った時に『香川真司がいる!』ってなりましたよ(笑)。

 日本代表はやっぱり凄いメンバーなので会うだけで緊張すると言うか。マリノスのユニフォームも誇りもあるし重みを感じましたけど、それ以上に日の丸のユニフォームは重たかった。やっぱり見られているっていうプレッシャーと、自分が選ばれている意味を証明しなきゃいけないっていうプレッシャーはすごくありました。日本代表に選ばれたことはうれしかったですが、自分の将来設計じゃないですけど、イメージとしては今年中には選ばれたいと思っていて、まさか3月の段階で選ばれるとは思っていませんでした」


――2回目の日本代表では誰とよく話しましたか?

 「今回は(川島)永嗣さんとか(香川)真司くんとも喋りましたし、(原口)元気くんとか(昌子)源くんとか。あと翔哉くんとかトミ(冨安健洋)とか、モリ(守田英正)くん、ダン(シュミット・ダニエル)くんとけっこう話しましたね」


――ご自身の中でこの選手と気が合ったなみたいなのってありますか?

 「やっぱり同い年なんで、モリとはけっこう喋りましたね。あいつは関西人って感じです(笑)」


――守田選手はJリーグ1年目で代表に選ばれました。プレースタイルも独特ですよね。

 「プレースピードが遅いように見えますけど、判断も早いですし、動きが的確ですよね。良いところにいつもいます。ターンも巧いし、パスも巧いし、散らせるし、めっちゃ良い選手ですよ」


――CBからボールを引き出すのがうまいと思うんですが、ああいう選手がいるとCBとしても助かりますか?

 「助かりますね。ポゼッションの面でも信頼して預けられますし、競り合いのセカンドもアバウトに落としたとしても拾ってくれるという信頼もあります。今回も一緒に試合をやってみてやりやすかったですね。ずっとさばいてくれるので。見事ですよ。フロンターレ仕込みだけはありますよね」


――今回の試合前は緊張しましたか?

 「めっちゃ緊張していましたね(笑)。まずトヨタはサッカー専用スタジアムで(観客席との)距離も近いですし、雰囲気がすごかったです。メンバーも隣に長友さんがいるし、昌子(源)くんとやるのも初めてだったし。(柴崎)岳くんもいて、迫くん(大迫勇也)も前にいるし。すごいメンバーじゃないですか」


――誰か緊張を和らげてくれるような人はいましたか?

 「(長友)佑都くんが『緊張せず楽しめばいいよ』って言ってくれて、試合中もずっと声をかけてくれましたし、やりやすかったですね」


――試合中のプレーからはあまり緊張を感じませんでしたが。

 「いざ笛が鳴ったら大丈夫でした。最初のプレーで、パスをある程度前にもつけられましたし、守備の部分でもガツンといけたので、それでしっかり試合に入れたかなと思いますね」


――代表の経験が浅いとファーストプレーは本当に難しいところがあると思うのですが。

 「僕、今年がJ1初挑戦って言ってもいいくらいなのですが、開幕戦も試合に入るとそんなに緊張しなかったですね。普段のリーグ戦でそんなに緊張しないことが、今回代表で良い方向に出たと思います」


――あらためて代表戦の2試合を振り返っていただきたいのですが。

 「最初の試合(トリニダード・トバゴ戦)より2試合目(エルサルバドル戦)の方が持ち出しの部分は意識的にできましたし、攻撃的なパスも1試合目よりは増えたのかなと思いますね。代表戦はこれで3試合に出場しましたが、全部無失点で勝っているのでそこは自信にはなります。今回初めての3バックでも2試合ともゼロで抑えられたことは評価できると思います。個人的な欲を言えば、自分はもっとマリノスみたいな3バックで超攻撃的なサッカーをやりたかったですけど、そこはチームの都合もあったので、不完全燃焼なところはありました」


――でも随所に持ち上がろうという意図を感じました。

 「そうですね。何なら逆サイドにボールがある時でもボランチのところまで入っていってボールを受けるプレーもしたかったですけどね。いかんせん相手の3トップが前に残っていて、守備をやらざるを得なかったので割り切っていましたね」


――日本代表でもレギュラーが近づいているという手応えは感じてますか?

 「まだまだです。足りないところがたくさんあります。今は4バックになったら自分が外される序列ではないかと思っています」


――代表でレギュラーを取るとなるライバルは強力ですが。

 「強大ですけど、サッカーやっている醍醐味はそこにあると思うので、絶対にスタメンを奪ってやろうという気持ちはありますね」


――同じポジションでは昌子選手、冨安選手、吉田選手などすごい選手がいますが。

 「今の段階では圧倒的に負けているので、まずは彼らに追い付くところから。もっと伸ばさなきゃいけないところもありますし、経験をさらに積んでいきたいですね」


――どんなところが負けていると感じますか?

 「監督の信頼を得るためのまず守備の部分ですね。対人プレーになった時の迫力というか、絶対にこいつ抜かれないだろうなという雰囲気がまだ自分には全然ないので、そういう部分ですね。雰囲気は大事ですね。オーラです。やっぱり相手のFWが嫌がるプレーヤーにならないといけない」


――この選手オーラあるなと感じたCBっていらっしゃいますか?

 「チアゴです。隣で見ていて、すごいですよ。チアゴを嫌がって僕のサイドに流れてくる相手選手には燃えます。『絶対に止めてやる』と思っています。僕は相手のFWが途中交代したら勝ちだと思っています。そこは一つ、1試合1試合の目標です」

日本代表でも経験を積み、さらになる成長へつなげる(Photo: ©Y.F.M)

まずはマリノスでタイトルを


――7月27日にシティとの試合が控えています。どんな心境ですか?

 「楽しみですし、ケガしていても絶対出たいですね(笑)」


――フレンドリーマッチだとしてもそれくらいのモチベーションなんですね。

 「シティと試合できるなんて考えもしないじゃないですか。それもマリノスの環境のおかげだなと思います。世界のトップオブトップと試合ができる、相手が全力でくるとは限らないですけど、その中でも一つひとつのプレーのレベルの高さも感じられると思いますし、勉強になるところはたくさんあるはずです」


――試合が決まった際は選手間で盛り上がりましたか?

 「正式発表される前にチラッと聞いたんですけど『マジで?』と思って、最初嘘だと思っていました。そしたら本当に決まって、みんな『めっちゃ試合に出たい』って言ってますよ」


――シティの迫力はすごいと思うんですけど、そこでご自身の得意なプレーである持ち上がりを見せたいところですね。

 「そうですね。一生に一度あるかないかの試合だと思うので、そこでミスしてもいいから自分のプレーをやり続けたいなと思いますね」


――試合の具体的なイメージはできていますか?

 「できています。プレッシャーのかけ方もこうくるだろうなというイメージがあるのですが、そこを剥がせたらめちゃくちゃ気持ち良くないですか」


――そういうことを考えている今の時間も非常に幸せな時間でもありますよね。

 「幸せですね。今は試合に出られているからこそですけど、その試合までに出られなくなっている可能性もあるので、まずは目の前の1試合1試合に集中しなきゃいけないと思います」


――シティ相手に活躍できたら海外移籍への道も開かれていくと思うのですが、海外移籍について考えることはありますか?

 「代表に入ってからすごく考えるようになりましたね。食事の席とかでもみんな話すことが海外の話ばっかりだから、サッカーにしろ生活にしろ。憧れじゃないですけど、自分もそこに入っていきたいなって思いますね」


――この成長カーブでいくと、すぐにでも海外に行ってしまいそうな感じもするのですが、オファーが来たら考えますか?

 「そうですね。前向きには考えますけど、今はマリノスでタイトルが欲しいです。可能性があっても、まずはマリノスでタイトルを獲りたいいう気持ちが強いです」


――海外生活は適応できそうなタイプだと思いますか?

 「できると思います。ホームシックとかにはならないと思うのですが、結構寂しがり屋な部分もあるので、寂しさは感じるかもしれませんね(笑)」

Shinnosuke HATANAKA
畠中 槙之輔

神奈川県横浜市生まれ。東京ヴェルディの育成組織を駆け上がり、18歳でプロ契約を勝ち取る。頭角を現したのは2016シーズン。レンタル移籍した町田ゼルビアで定位置をつかみリーグ戦29試合出場を記録すると、ヴェルディに復帰した翌2017シーズンも不動のCBとして活躍した。そして2018年8月、横浜F・マリノスの一員となりJ1の舞台を初経験。2019シーズンはレギュラーとしてマリノスを支えるとともに、日本代表にも名を連ねている。


Photos: Nahoko Suzuki

Profile

池田 タツ

1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。