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ドンナルンマは世界最強GKになれるか。 「ブッフォン育ての親」が徹底分析

2017.07.06

「ボールをアタックする」という新しいコンセプトを掲げてブッフォンをワールドクラスのGKへと育て上げたフルゴーニ。セリエAを渡り歩いた名伯楽の目に“後継者”はどう映っているのか? 現代GKのトレンドを解説しつつ、ドンナルンマの未来を占う。

新トレンドへの疑問

スペースと時間がない状況で足でのプレーを要求するのは戦術自体が間違っている

──イタリア代表でポジションを争うブッフォンとドンナルンマは21歳の年齢差があります。この20年で、サッカーの戦術におけるGKというポジションに求められるクオリティや資質にはどんな変化があったのでしょうか?

 「本質的なところでは何も変わっていないと言っていい。というよりも、変化をもたらしたのはブッフォンであり、彼以降はそれがスタンダードになっていったからだ。私が彼を育てる時に伝えた『ボールをアタックする』というコンセプトは、当時はほとんど誰にも理解されなかった。実際ブッフォン自身があるインタビューの中で、はっきりとこう言っている。『今ではどんなGKも当たり前のように教えられているけれど、自分が教わった時には本当に革新的な考え方だった、あれが今の自分を作っている』とね」

──そのインタビューは僕も手元に持っています。GKはそれまでシュートを待ってそれに反応するだけ、自分の身に起こったことを受動的に「被る」だけだった、主体的、能動的にボールやスペースをアタックするという考え方は革新的で新しかったし、当時その考え方を取り入れることは非常に勇気のいることだった、という話ですよね。

 「ボールをアタックするというのは、飛んできたボールに反応して横に飛ぶのではなく、こちらから斜め前方にアタックしに行くということだ。シュートが非常に速くて反応するのが精一杯という場合には、横方向どころか斜め後ろ方向に飛ばないと届かないかもしれない。しかしほとんどのシュートはこちらが反応するのに十分な時間を与えてくれる。その場合はその場ではなく2m前に出てキャッチすることもできる。GKがボールをキャッチすればそこでプレーは切れる。もし2m前でキャッチすれば、その2m分のリスクを最初から回避することができるんだ。こちらからアタックすることができないほど速いボールは、横に飛んでデフレクトするだけで精一杯だし、もし届けばそれだけで上出来だ。しかし速くないボールには積極的にアタックするべきだ」

1999-2000シーズン、パルマ時代のブッフォン。フルゴーニに見出され13歳でパルマの門を叩き、名伯楽の下で最高のGKへと登り詰めた


──体格を含めたフィジカル能力、チーム戦術の中で担う機能とそのために求められるクオリティといった観点から見るとどうでしょうか? 20年前、GKの標準的な身長は180cm台後半でしたが、今は190cmないと小柄だと言われるようになりました。

 「2mを超えるとさすがにクイックな動きが苦しくなるね。手足の長さや重さ、それを支える筋肉、求められる動きの軌道、歩幅と足運びのスピードといったいろいろな要素のバランスが取れなくなってしまうんだろう。私もパルマで203cmのGKを見ていたのだが、やはりほんの少しずつ、コンマいくつか遅い感じがあった。最近はコーディネーショントレーニングが発達してきて、その点もかなりのレベルまで高めることができるようになってきたから以前ほどではないのだけれど、不思議なことに大柄なGKはハイボールに強くないケースが多いんだ。小柄なGKが否応なく身につけざるを得ない勇気や思い切りの良さ、大胆さを持っていないからかもしれない。結果的に、大柄なGKにはゴールからあまり出ず受動的に守るタイプが多くなる。そういう意味で、ハイボールへの飛び出しやクイックネス、アジリティといった側面も含めて、全体的なバランスが取れているGKとなると、195-6cmが一つの上限のような気がするね」

──ドンナルンマは197cmあります。彼はハイボールの飛び出しにも積極的ですし、体格の割にはクイックネスもアジリティも高い。あれだけの体格だとゴールの枠をカバーする存在感も抜群です。

 「もちろん、一定のスピード、クイックネス、アジリティ、反応性が確保されているのであれば、体格は大きいに越したことはない。195-6cmが上限というのはその話なのだけれど、ドンナルンマはしっかりそのこちら側に収まっている。いいGKは攻撃側から見るとゴールの枠を『満たしている』『塞いでいる』ように見えるものだ。その点でドンナルンマは申し分ないよ。ただ、技術/戦術的な側面から見ると、まだまだ未完成だし修正して伸ばすべきところが多い。現時点では体格を含めたフィジカル能力の高さ、そして強いパーソナリティをはじめとする傑出したメンタル能力がそのパフォーマンスを支えている」

──フィジカル能力ということで言うと、ゴールエリア内のセービングではなく、DFラインの背後に入ってきたボールに対応するための飛び出しには、ステップワークや2、3歩のクイックネスだけでなく純粋なスピードも必要とされるように思うのですが。

 「もちろん速いに越したことはない。だが結局は読みも含めた初動の速さ、スペースと時間のマネージメント能力の問題だ。もしチームが最終ラインを常に高く押し上げて戦う戦術を採用している場合には、初動が早く足も速いGKの存在は非常に重要だ。バイエルンはエリア外への飛び出しに関しては世界一のエキスパートであるノイアーがいるから、不安なくラインを上げられる。グアルディオラが監督の頃は本当にかつてのリベロのように機能していた。ドイツ代表でもね。ブッフォンも少なくとも30歳くらいまでは十分にエリアの外に飛び出していける能力があったよ。私が教えていたプリマベーラの頃には当たり前のようにそうしていたしね。ドンナルンマもおそらく高い最終ラインにもある程度対応できると思う。体格の割にスピードもクイックネスもあるからね。

 ただし、最終ラインを高く押し上げて、その背後をGKに任せるのはほとんどのチームにとってはアドバンテージよりもリスクの方が大きい。不用意なパスミスやトラップミス一つでボールを失っただけで、大きな失点の危機に繋がる可能性があるんだから。最近の戦術トレンドということで言うと、それと同じくらい馬鹿げていると思うのが、相手が前線からハイプレスに来ているにもかかわらず、GKも加えて最終ラインからパスを繋いで組み立てようとする傾向だ。ミハイロビッチもモンテッラもそれにこだわって、ドンナルンマを困難な状況に陥れている」

──ドンナルンマだけじゃなくCBもそうですよね。GKからパスをもらってもプレッシャーがかかっているからGKに戻すしか選択肢がないこともよくあります。

 「敵がペナルティエリアの高さまでハイプレスに出て来ている場合、無理をして後ろから繋ぐことに意味はない。ロングボールを蹴ってチームを押し上げれば済む話だ。たとえGKがいかに足下のテクニックに優れていたとしても、パスの出しどころすべてにプレッシャーがかかっていればそこにはリスクしかない。皮肉な話だが、ドンナルンマがデビューするきっかけになったのも、こうした状況でディエゴ・ロペスが犯したミスだった。ドンナルンマのクオリティと将来性に疑問の余地はないが、D.ロペスにとっては理不尽な状況だったと思う」

──いずれにしても、ビルドアップにGKが関与する頻度が高まっていることは確かです。だとするとGKに足下のテクニック、つまりボールを止める技術、左右両足の正確なパスワーク、そしてとりわけロングキックの精度がより高いレベルで求められます。

 「もちろんだ。それは私がブッフォンを教えていた当時から常に強調してきたことでもある。特にロングキックの精度だ。サッカーの本質はどこにあるか。それはゴールを決めることだ。その究極はパス1本、シュート、ゴールと最短距離でフィニッシュすることにある。シュートを打つまでにパスを10本繋がなければならないとルールブックに書いてあるわけではないのだからね。私はかつて、まだブッフォンがデビューする前のパルマで、GKのタファレルが敵のペナルティエリアに届こうかというロングキックを蹴り出し、最終ラインの裏に抜け出してDFをぶっちぎったアスプリージャがそれをボレーでそのままゴールに叩き込んだ場面を見たことがある。私にとってはあれが究極のゴール、サッカーの本質だね。パスは目的ではなく単なる手段に過ぎないのだから。

 パスワークへの参加に関しては、GKのテクニックがどんなに優れていたとしても、シーズン50試合を通してハイプレスを受けてボールを失う場面が一度もないということはあり得ない。テア・シュテーゲンだって1度や2度はミスをするだろう。世界で最もボールを奪われにくいMFだったピルロですらシーズンに何度かはパスミスをしていたんだから。問題は、GKの場合そこでボールを奪われたら失点に直結するということだ。だからGKがオープンプレーに関わるのはスペースと時間がある時だけ、というのが大原則だと思う。スペースと時間がない状況でGKに足でのプレーを要求するのは、戦術自体が間違っている。結局得られるものよりも失うものの方が大きいから、今の流行も遠からず廃れると思うね」

ブッフォンとともに代表に選ばれ「彼の弟子になれた」というドンナルンマ。21歳上の名手からは技術面よりも心の持ちようなど精神的なアドバイスをもらっていることをインタビューで明かしている

才能豊かな17歳の現在地

長所はパーソナリティの強さ、短所はポジショニングと状況判断

──ドンナルンマも、プレッシャーを受けている状況ではなく時間とスペースがある状況では、左右両足のテクニックは安定していますよね。そういう意味で不足があるようには見えない。

 「特に優れているわけではないが、必要十分なラインはまったく問題なくクリアしている。それはミハイロビッチやモンテッラのように、組み立てにGKの参加を要求する監督が彼を抜擢し起用し続けているという事実からも明らかだ」

──ステップワーク、ダイビング、キャッチング、デフレクティングといったGKとしてのテクニックに関してはどうでしょう?

 「傑出して優れているとまでは言えないにしても、総じて高いレベルにある。基本技術は非常にしっかりしているよ」

──最初に体格の話をした時に触れたハイボールへの飛び出しに関しても、彼は大柄な体格にもかかわらず積極的ですよね。

 「体格と大胆さにものを言わせて、かなり難易度の高いボールにも思い切り良く飛び出していく。結果的にミスする可能性もあるが、それでも飛び出しに消極的なGKよりはずっとずっといい。それにドンナルンマは、たとえ一度ミスしたとしてもそれを気にせず次の機会にも平然と飛び出していくパーソナリティの強さを持っている。これは大きな長所であり武器だ」

──ポジショニングやプレー展開の読み、状況判断、タイミングの感覚といった戦術的な側面はどうですか?

 「ポジショニングにはまだ明らかに難がある。ボールとゴールポストを結ぶコーン(円錐形。ここでは三角形の二辺を指す)の中心にきちんとポジションを取れないんだ。ズレているケースがしばしばある。例えば先週のローマ戦でナインゴランに決められたミドルシュートだって、あれはドンナルンマクラスのGKなら止めて然るべきだ。シュートは強力だったが高さは中くらいで一番届きやすいし、コースもファーポストから1m50cmは内側に入っていた。あれに届かないのはポジショニングがニア側にズレていたからだ」

──ナインゴランが内に持ち込むのに合わせてポジショを中央寄りに細かく修正していれば防げたということですね。いわゆる“ゴールを背中で感じる”感覚がまだ不十分だということでしょうか?

 「そういうことだ。GKは常にゴールを背中に背負っている感覚を持ちながら、ボールと2本のポストを結ぶコーンの中央、できる限り前めにポジションを取らなければならない。もちろん、その上でさらに敵味方の位置を把握してポジションを微調整することが必要だ。しかしまず何よりも“ゴールを背中で感じ”て、コーンの中心線上にポジションを取る能力が必要だ」

──プレーの展開を読む力については?

 「ドンナルンマは代表でも、これまでフランス、ドイツとの親善試合にそれぞれ後半からブッフォンと交代で出場しているのだが、それぞれ一度ずつかなり大きなミスを犯している。フランス戦では、左サイドからペナルティエリアの深い位置に入り込んだクルザワに、ゴールラインから1mもないところから自分とニアポストの間にシュートを決められた。中央にクロスを折り返すだろうとヤマをかけて、重心をポストと反対側にずらしたからだ。ドイツ戦では右サイドの深いところから入ってきたグラウンダーのクロスに対して、ポスト際から前に出ずにボールを処理しようとして、走り込んできた敵FWに前を取られて脇下を抜かれている。ボールがサイド深くまで入ってきて、自分とボールホルダーの間に誰もいない場合、GKは前に出てスペースを狭め、可能ならボールをアタックするべきだし、さらに言えば敵味方がゴール前でどんな位置関係になっているかを把握して、それに合わせて次のプレーを予測し備えておくべきだ。フランス戦でそうしていれば、ドンナルンマは2歩前に出てボールに詰め、クルザワはシュート、クロスのいずれを選んだとしてもGKに当てるしかなくなっていたし、ドイツ戦でも走り込んできたFWを横目で見ていれば、やはり2歩前に出てボールを処理できていた。どちらもその場で受動的に振る舞ったこと、ボールをアタックすべき状況だったにもかかわらずそれを的確に読み取って反応できなかったことが原因だ」

──ミスの多くがポジショニングや判断など戦術的なものだということですね。

 「そう。はっきり言って、本来ならば防げた失点をドンナルンマのミスで喫したケースは、今シーズンに入ってからもいくつかある。ゴールポストよりも2mは内側に飛んできた直接FKに触れなかったこともあったし、最終ラインの裏に入ってきたクロスに飛び出したのはいいが、キャッチできずにデフレクトし、しかもそのボールをゴール正面に詰めてきた敵FWの足下にプレゼントしたこともあった。あのボールはキャッチすべきボールだし、弾くならば敵のいないサイドのスペースに弾き出すべきだ。あれは初歩的なミスだと言わざるを得ない。もちろん、ドンナルンマが偉大なGKになり得るタレントの持ち主であることに疑いの余地はない。まだ17歳なんだから当然と言えば当然のことだよ。ブッフォンは17歳ですでに完成されていたが、あれは例外だ。

 しかし、それらは経験とトレーニングによって改善できる部分だ。ドンナルンマの強みは体格に加えて、強靭なメンタルにある。ミランが素晴らしいのは、ミスを咎めたりあげつらったりする雰囲気を作らせないことだ。ミスをしてもそこから学びながら成長することができている。例えばインテルやローマだったら絶対にそうはいかないだろう」

──個人のパーソナリティだけでなく、ミランという環境もミスから学ぶことを後押ししているわけですね。

 「ああ。でも最も大きいのは本人が持っている生まれつきの資質だ。ドンナルンマはミスをした後も落胆したり考え込んだりするような素振りはまったく見せないし、次の守備機会には何事もなかったように質の高いプレーを見せる。ミスを犯した時はもちろん、スーパーセーブをした時にも感情を過度に昂ぶらせたりすることなく、落ち着きと冷静さを保ってプレーするというのは、GKに最も必要とされる資質の一つだ。ミスをしてもそこで試合が終わるわけではないのだから、そこで切り替えられるかどうかは、その後のパフォーマンスに決定的な影響を及ぼす。ミスを引きずってその後のプレーの質が下がるというのは致命的だ」

──こうして総合的に見ると、体格を含めたフィジカル能力はほぼ申し分なし、技術的にも高い水準にあって、足りないのは「ボールをアタックする」感覚くらい、メンタル的にも非常にGK向きの強いパーソナリティを持っている、戦術的には読みと状況判断について未熟なところがあるけれど、そこは経験とトレーニングを通して解決できる「伸びしろ」と捉えることが可能、ということになります。器としては十分ワールドクラスに成長し得るタレントだと言い切って良さそうですね。

 「それは間違いない。イタリア代表ではブッフォンが引退を決心した時からその後を継ぐことになるだろうし、順調に成長すれば数年後にはヨーロッパでもトップ10に入るGKになれると思う。ただ、17歳というのはまだ肉体的な成長も完全には終わっていない年齢だし、精神的にも成熟しているとは言えない。ミランは今欧州カップに出ていないから、国内の舞台だけで週1回ペースでプレーしながら、巨大なプレッシャーにさらされることなく育っていける環境にある。しかし今後そこからミランがまた強くなって、あるいはよりレベルの高いクラブに移籍して、国際舞台の最前線で週2試合ペースでプレーするようになった時に、その環境がもたらす様々な困難に対応できるかどうかは、未知数の部分もある。今のプレーを見る限り、大きな心配はないように思えるけれどね」

プロフィール
Ermes FULGONI
エルメス・フルゴーニ

(パルマGKコーチ)
1948.2.3(70歳)ITALY

パルマ生まれ。高校で機械工学の教鞭を取る傍ら、アマチュアクラブのGKとしてプレーする。現役引退後はパルマのGK育成コーチとなり、ブッフォンを発掘・育成する。その後02‒03シーズンのエラス・ベローナを皮切りに、レッジーナ、アンコーナ、モデナ、チェゼーナ、カリアリのGKコーチを歴任。フィッカデンティ時代のFC東京ではGKテクニカルアドバイザーも務めた。現在はセリエDから再スタートを切った地元パルマに復帰。教え子にはブッフォンをはじめ、シリグ(セビージャ)、ペーゴロ(サッスオーロ)、アガッツィ(チェゼーナ)などがいる。日本代表GK川島永嗣の恩師でもある。

Photos: Getty Images

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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