
輝く新戦力の理由#4
榊原彗悟(大分トリニータ)
2月に開幕した2025シーズンも約2カ月が終わり、新たな勢力図が見えてきつつあるJリーグ。各Jクラブの浮沈に影響を与えているのは、新加入選手たちのパフォーマンスだろう。大卒ルーキーからベテランまで輝きを放つ新戦力にスポットライトを当て、その理由を掘り下げてみたい。
第4回は、大分トリニータで攻守に躍動する榊原彗悟。技術のあるボランチだが、細身で小柄な体ゆえにフィジカル面を不安視され出世を阻まれてきた。今季の大分では主力として定着し、無尽蔵の運動量で存在感を放っている。覚醒の予感を漂わせる24歳の現在地と課題をひぐらしひなつがレポートする。
[3-4-2-1]のダブルボランチの一角、あるいは[3-5-2]のインサイドハーフで開幕以来リーグ戦8試合にフル出場。ここまでストライカー・有馬幸太郎の15本を上回る17本のシュートを放ち、ラストパスやフィニッシュにつながる起点となるプレーを繰り出している。何よりも試合開始から終了まで勢いを落とさず走って攻守に絡み続ける姿が印象的だ。170cm/60kgという、周囲と比べてひときわ細い体で休みなく広範囲に顔を出し、その結果、こぼれ球奪取総数リーグ4位タイというデータも叩き出している。
今季、守備戦術の整理からスタートしたチームは最近になってようやく攻撃面でも向上の兆しを見せ始めたが、一時はチャンスクリエイト数やシュート数が伸び悩んでいた。ミドルブロックを構えることで守備は安定するものの、攻撃はそこからのカウンターばかりで意図的に崩すことが少ない。そんな時期には、榊原によるインターセプトから攻撃への切り替えがチャンスのきっかけの大半になっていた。

マリノスユース、JFL青森、マリノス復帰、そして大分へ
90分間を通して勢いを落とさないスタミナには驚かされるが、その細い体のイメージに違わず中学時代までは食べることが苦手で、フルーツばかり摂っていた少年だった。少年団から地元の街クラブへ、そして横浜F・マリノスのジュニアユースへと進む中で、サッカーは元気にできていたが、周囲からも「もっとしっかり食え」と求められ続けるため、食事そのものを苦痛に感じていた。食べられるようになったのはユースに上がってから。現在は好き嫌いもなく、逆に太らないので揚げ物も避けないという。
小学生の頃はメッシに憧れるドリブラーの点取り屋だったが、ジュニアユースに入る頃からドリブルが通用しなくなり、現在のプレースタイルに近づくとともに、憧れの対象もモドリッチへと変わった。マリノスユース最後のシーズンだった2018年には背番号10をつけてチームの中心で躍動し、チームを8年ぶりのJユースカップ優勝に導くと大会MVPにも選出される。
にもかかわらず、夢に描いたマリノスでのトップチーム昇格は叶わず。高校卒業後の進路はなかなか決まらないまま、4月になってようやく、当時JFLだったラインメール青森へと加入することになったが、ルーキーイヤーには出場機会は得られず、初めて公式戦出場を果たしたのは翌年の7月だった。青森での3年目は主力となり24試合出場2得点。それが認められてか2022年には古巣・マリノスへと加入して期限付き移籍という形で青森での4年目を過ごし29試合出場1得点。ついに2023年、晴れてマリノスの選手となりカップ戦やACLに出場したが、リーグ戦での出場機会は満足には得られず、昨季限りで契約満了となって、大分トリニータへとやってきた。
Welcome “BACK” to Yokohama!@s_keigo10 #fmarinos #榊原彗悟 pic.twitter.com/GLjcN3ncm3
— 横浜F・マリノス【公式𝕏】 (@prompt_fmarinos) December 26, 2022
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg