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広島のニュースター・中村草太が直面する「壁」。裏のスペースを消された時、何ができるか?

2025.04.09

輝く新戦力の理由#2
中村草太(サンフレッチェ広島)

2月に開幕した2025シーズンも2カ月が終わり、新たな勢力図が見えてきつつあるJリーグ。各Jクラブの浮沈に影響を与えているのは、新加入選手たちのパフォーマンスだろう。大卒ルーキーからベテランまで輝きを放つ新戦力にスポットライトを当て、その理由を掘り下げてみたい。

第2回は、今季の公式戦で早くも6ゴールを奪い、今のJリーグで最もインパクトを残している新戦力であるサンフレッチェ広島の中村草太。圧倒的なスピードというわかりやすい武器があり、シュートもうまい。しかし、それゆえに対策も進み、今一つの壁にぶつかっている。22歳のルーキーが直面している現状を中野和也がレポートする。

 中村草太は今、一つの壁にぶつかっている。

 2月12日、ACL2のナムディンFC戦(ベトナム)でゴールを決めて以来、開幕戦の町田FC戦での決勝点などを含めて公式戦6ゴール(12試合)。得点を決めた試合は全て勝利しており、特にJリーグでの2つの得点はともに試合を決める大きな意味のあるゴールだった。

 しかし、3月5日のACL2で没収試合となったライオン・シティ・セーラーズ戦(シンガポール)で得点を決めて以降、公式戦で4試合得点なし。京都戦・鹿島戦・C大阪戦と直近の3試合では先発から外れ、ミヒャエル・スキッベ監督の起用における優先順位も下がっている。

 それは何が原因なのか。

 1つは、相手がゾーンを低くして守っているからか。

 「スペースがないと、やはり中村選手の力は生きないんですかね」

 指揮官はこの質問を一笑にふした。

 「スペースがなければ、どんなストライカーでも難しい状況になるよ」

 なるほど、真理だ。そして指揮官は、中村が決してパフォーマンスを落としたとは思っていない。どんな試合であっても常に、彼を投入するチャンスを狙っているように見える。ただ、今はFWの選択肢が増えたから、中村に対する優先順位が下がっているように見えるだけなのかもしれない。

 そもそも、彼がここまでに残した実績は、強烈だ。12試合6得点のうち、途中出場で2得点。ACL2のナムディン(ベトナム)戦では守備を固める相手から一気に裏を取ってゴールを決め、町田戦では逆転弾。横浜FC戦の先制点も含め、チームを勝利に導く得点を重ねている。

 決してシュートをたくさん打つ選手ではない。Jリーグでは出場時間271分で4本、90分換算にすれば1.33本という記録が残っている。チーム最多となるジャーメイン良の3.16本/90分という数字からすれば、3分の1だ。だが、シュート精度が高い。枠内シュートは2本で、その2本ともゴールとなっているのである。

 この数字をどう受け止めるべきか。

 シュート精度が高いのか。それとも、決められるシュートしか打っていないのか。いや、その結論はどうか。町田戦と横浜FC戦のゴールについていえば、シュート以外の選択肢がなかった状況での選択であり、ゴール。そしてこの他には2本しか、彼はシュートを打っていないのだ。

キャンプ中の助言に込められた新井直人の意図

 中村草太が意識しているのは「裏」である。トップスピード時速34.3kmは藤井智也(湘南)と並びリーグ7位、もちろんチームではナンバー1だ。キャンプの頃はタッチライン際を上下動したり、ポケットを取ることにこだわったりで、なかなか「ゴール」に直結するプレーが出てこなかった。それを危惧した新井直人から「もっとゴールに向かった動きをした方がいい」というアドバイスを受けて改善したことは、かつて『3連勝スタートのサンフレッチェ広島、「つなぐ」ことを重視する新スタイルへの挑戦』でもご紹介した。

 新井は中村について、こんなことも語ってくれた。……

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Profile

中野 和也

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。

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