
【特集】「セットプレー革命」の内実 #4
ワンチャンスをモノにするフリーキックやコーナーキックなどのセットプレー。プレミアリーグでも専門コーチの存在が脚光を浴びているように、トップレベルの拮抗した試合でも「違い」を作る“飛び道具”に注目が集まっている。その戦術と攻防の最新トレンドから浮かび上がる「革命」の内実とは?
第4回は、前回のレポートから3年、イングランドにおいてますます需要が高まるセットプレーコーチの最新事情、プレミアを盛り上げる“陰の功労者”たちを紹介しよう。
今や「セットプレー」は指導者キャリアパスのキーワードに
引いて守るチームの限られた反撃手段から、ボールを持って攻めるチームの頭脳的なオプションへ。セットプレーに対するイメージは、この数年間で変わった。攻撃的な強豪同士の対決において、CKやFKからの得点が、内容の上でもハイライトとなる事例が増えてもいる。
その1つが、今年2月のプレミアリーグ第26節マンチェスター・シティ戦で、リバプールが奪った先制点だ。CKを蹴るアレクシス・マカリステルは、グラウンダーのパスをニアポストへ。呼応したドミニク・ソボスライが、相手選手2人の死角を突いて受けに出る。そして、ワンタッチでマイナスに折り返されたボールに、モハメド・サラーが回り込むようにゴール正面へと移動して合わせた。左足シュートはナタン・アケに当たってから入るのだが、そこに相手CBがいたからではなく、自軍練習場での仕込みがあればこそ、アウェイゲーム勝利(0-2)への狼煙(のろし)が上げられた。
A well-worked opener at the Etihad
pic.twitter.com/ThczCebmyQ
— Liverpool FC (@LFC) February 23, 2025
リバプールは、セットプレーから1年前の借りを返したとも言える。昨季第28節(1-1)、ホームでCKからシティに先制されていたのだ。自軍左サイドのコーナーに向かった相手選手は、ケビン・デ・ブルイネ。リバプールの選手たちは、右利きのキッカーによる外巻きのクロスに備え、ゴールエリア内から外へと位置を変える。1人だけ中に残ったマカリステルも、自らがマークについたはずのアケに押し出されるように、ゴール至近距離の持ち場を空けることに。そのニアサイドのスペースに、デ・ブルイネが低弾道のクロスを届け、走り込んだジョン・ストーンズが押し込んだ。
.@KevinDeBruyne and John Stones' set piece special is your @Sure Move of the Match
pic.twitter.com/Tpe3ndjast
— Manchester City (@ManCity) March 11, 2024
当初、リバプールが左利きのキッカーによる内巻きのクロスを予想していた事実には、プレミアの「セットプレー・キング」による影響もうかがえる。一般的に主流となってもいるが、内巻きのCKは、セットプレーから昨季リーグ最多の20得点を記録したアーセナルの定番だ。
このシティによる昨季の名作は、カルロス・ビセンスとジャック・ウィルソンが陰の功労者として認識されている。セットプレーを得意分野とする前者は、アカデミーの指導者から1軍助監督へと内部で昇格している人物。当時アナリストだった後者は、今季開幕を前にセットプレーコーチとして、ウォルバーハンプトンに招かれる運びとなった。指導者として上を目指す者にとって、「セットプレー」は、キャリアパスにおけるキーワードにもなりつつある。
Carlos Vicens
Enzo Maresca
Carles Planchart
Edu MauriEl @PepTeam segueix sumant Premiers!
pic.twitter.com/iCHvyupLEi
— Manchester City (@ManCityCatala) May 22, 2023
……

Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。