
【特集】元欧州組の影響力#5
中山雄太(FC町田ゼルビア)
J1連覇を成し遂げたヴィッセル神戸の成功でクローズアップされているのは、大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳などの「元欧州組」の存在だ。日本代表の経験を持つエリートだけでなく、若手も含めた海外進出が加速している今だからこそ、今後は戻って来るケースもさらに増えていくだろう。世界を経験した選手たちがJクラブにどのような影響を及ぼし、何をもたらしているのか――それぞれのケーススタディについて掘り下げてみたい。
第○回は、オランダリーグのズウォレで3シーズン半、イングランド2部のハダースフィールドで2シーズンの計5シーズン半にわたり海外リーグでプレーした後、24年夏にFC町田ゼルビアへ加入した中山雄太。イングランドでの自身の経験を基に「チームの基準を変えたい」とゼルビアのレベルアップに意欲を見せる日本代表DFは、チームの枠を超えリーグ全体の「基準」を引き上げようともしているという。その胸中に滾る想いを、ゼルビアを追い続けているライターの郡司聡氏が綴る。
「自分が成長する上で求めるものが町田というクラブにあった」
ゴールへの道筋は、すでに描けていた。
0-0で試合が推移し、“1点勝負”の様相を呈していた第2節FC東京戦の82分。昌子源からのスルーパスに反応した中山雄太は「どうしても単調になりがちな時間帯にちょっと面白いと思えるタイミング」でゴール前へグラウンダーのクロスを入れた。こうして「触るだけだった」西村拓真のシュートがFC東京ゴールに決まると、その先に今季初勝利の瞬間が待っていた。
ベンチで決勝点の一部始終を見ていた白崎凌兵が「面白いタイミング」と目を細めた中山のアシストシーン。戦況を把握し、最も効果的なプレーを選択する中山の目利きとスキルなくして、決勝点は入らなかったに違いない。
昨夏、町田がJ1初年度のシーズンで首位を快走している頃、中山はゼルビア・ブルーのユニフォームに袖を通した。ハダースフィールドとの契約が満了し、ギリギリまで海外でプレーし続けられるオファーを待ったが、自身が設定した期限を過ぎると、オファーのリストの中からFC町田ゼルビアを選択した。チームに合流した8月中旬、初の全体練習後の取材に応じた中山は、町田加入の決め手について、こう語っていた。
「町田への移籍を決めた要因は、ここまで積み上げてきたものを一度取っ払って日本で勝負したいという気持ちがあったから。それをどこで始めるか。まったく自分になかったものがあるチームに移ることはイコール自分の成長に繋がる。その中で自分が成長する上で求めるものが町田というクラブにあったということです」
ハダースフィールドではマッチアップした選手に手こずり、局面で勝ち切れない自分にもどかしさを覚えていたという。「そんな自分のイメージを根底から覆したい」と局面でのインテンシティ向上に目を向けた中山は、24年のJ1で強度特化型チームの最先端として、トップカテゴリーを席巻していた町田に目を向けた。……

Profile
郡司 聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。