「人、仲間、家族を大事にする」長谷部茂利がアビスパ福岡で深い信頼を寄せられた理由
去り行く監督たちのレガシー#3
長谷部茂利(アビスパ福岡)
2024シーズンのJリーグが終わり、惜しまれつつチームから去っていく監督たちがいる。長期政権でチームの黄金期を作り上げた者、独自のスタイルでファンを魅了した者、困難なミッションから逃げず正面から向き合い続けた者……リスペクトすべき去り行く監督たちがそれぞれのクラブに残したレガシーを、彼らの挑戦を見守ってきた番記者が振り返る。
第3回は、2020年にアビスパ福岡の監督に就任し、J1昇格と定着、ルヴァンカップのタイトルをクラブにもたらした大功労者、長谷部茂利。在任5シーズンの間でクラブのステータスを上げ続けた指揮官が残したものを、福岡を拠点に活動するサッカーリポーターの森田みきさんが振り返る。
ネイビーのユニフォームに刻まれた輝く星。
それは、アビスパ福岡がクラブ史上初のタイトルを手にした証である。
「自分が生きているうちに胸に星が入るとは思ってなかった」と誇らしげに話すサポーターの声をよく聞く。アビスパの長い歴史の中で、サポーターや選手たちは、過去どれほどの悔しさを噛み締め、どれほどの涙を流してきただろう。エレベータークラブと言われる昇降格を繰り返し、クラブの資金難から胸スポンサーがついていない時代も経験している。2019年にはJ3降格の危機にも直面した。
そんな中、2020年に就任したのが長谷部茂利監督だった。
1年でチームを立て直し、就任初年度にJ1昇格、その後もチームを安定させ、5年連続J1残留。数々のクラブ記録を更新し、2023シーズンのJリーグYBCルヴァンカップではクラブ史上初のタイトル獲得という新たな歴史を築いた。
長谷部監督がアビスパ福岡を率いた5年間は、まさに「革命と安定」の時代だった。その全てが、この星に凝縮されているのだ。それにより、クラブの価値は間違いなく上がったに違いない。
長谷部アビスパのサッカースタイルは、守備からリズムを作る現実的な形を徹底。Jリーグ屈指の守備力としてリーグ全体に知られるようになった。華やかさよりも確実性を選ぶ戦術で、選手たちに明確な役割を与え、結果的にチーム全体の団結力を生み出す堅実なスタイルは「アビスパ福岡」のフィロソフィとしてクラブ全体に染み渡った。
勝利を追求も、その先にある「人としての在り方」を伝える
長谷部監督がアビスパに残したものは、サッカーの戦術だけではない。ピッチ内外で見せる人間性の素晴らしさは、選手たちに深い信頼を抱かせた。
塚本GKコーチによれば常日頃、監督が選手たちに伝えていた言葉があるという。……
Profile
森田 みき
福岡県出身。サッカーの仕事に魅力され、1998年にマネージメント会社社員からフリーアナウンサーに転身。Jリーグ公式映像中継リポーターとして「DAZN」「スカパー!」などで九州各チームを担当。多くの昇格降格という節目の中継に関わる。現在は大学非常勤講師・企業スピーチ研修、Jリーグチームの選手スピーチ研修などを担当。