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「なぜもっと上を目指そうとしないんだ!」ミシャの7年、札幌のマインドを一変させた求心力の源泉

2024.12.23

【特集】去り行く監督たちのレガシー #1
ミハイロ・ペトロヴィッチ(北海道コンサドーレ札幌)

2024シーズンのJリーグが終わり、惜しまれつつチームから去っていく監督たちがいる。長期政権でチームの黄金期を作り上げた者、独自のスタイルでファンを魅了した者、困難なミッションから逃げず正面から向き合い続けた者……リスペクトすべき去り行く監督たちがそれぞれのクラブに残したレガシーを、彼らの挑戦を見守ってきた番記者が振り返る。

第1回は、サンフレッチェ広島(2006-11)、浦和レッズ(2012-17)を経て、2018年から北海道コンサドーレ札幌でクラブ史上最長となる7シーズンを指揮したミハイロ・ペトロヴィッチ。最後はJ2降格(19位)という結果に終わっても、人々から拍手で送り出された67歳のカリスマ監督が果たした功績とは。

クラブ、サポーター、報道陣…みんなが「Danke, Mischa

 12月8日の今季最終節。大和ハウス プレミストドームに柏レイソルを迎え1-0で勝利した試合後の会見を終えると、ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督は報道陣に向かって「この7年間、みなさんと一緒に過ごしてきた中で、ともに仕事ができたことは非常に幸せだったと思うし、私にとっての誇りだと思っている」と伝えた。報道陣からは自然と拍手が送られ、ミシャは笑顔で会見場を後に。ミシャの北海道コンサドーレ札幌における7年間の戦いがこの日、終わった。

 この最終節では「Danke, Mischa」(ありがとう、ミシャ)の文字が記されたタオルが来場者に配布され、スタンドには7年間の指揮に対する感謝の気持ちを込めた横断幕などが多数。ミシャの札幌でのラストゲームをより盛り上げ、いい形で送り出そうというクラブ、サポーターの思いが強く感じ取れた。試合後のセレモニーでもミシャに盛大な拍手が届けられ、当人もスタンドのあらゆる場所に向けてお辞儀をして応え、そうやって気持ちを伝え合う光景は素晴らしいものだった。

 その翌日には札幌市内のホテルであらためて正式に退任会見が行われ、そこでも再びミシャが様々な想いを口にし、最後は同じく退任となる杉浦大輔通訳とともに報道陣から花束を受け取り、何度も「アリガトウ!」を言葉にした。

 筆者の情報不足かもしれないが、クラブチームの監督の退任会見が行われるというのはあまり多くはないはずだ。厳しいプロサッカーの世界では就任時こそ盛大に迎えられても、チームを去る時は成績不振などで解任といったケースが大半であり、しっかりと会場が用意されての退任会見というのはなかなかないと思う。しかも拍手を浴び、花束を贈られるほどの前向きなそれは皆無に近いかもしれない。さらに言えば、ミシャは今季、札幌をJ1からJ2へと降格させてしまった監督である。それも加味すれば、世界的に見ても非常にレアな場面だったのかもしれない。

最終節後のセレモニーでスタジアムの大型ビジョンに流された感謝のムービー

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Profile

斉藤 宏則

北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。