横浜FM坪倉進弥ADと考える「激変するU-12の育成」(後編):Z世代のサッカーインテリジェンスを高める方法
デジタルネイティブへの最適解はストリートサッカー?
変化するZ世代の育成論#3
近年のバルセロナでは10代でスターダムを駆け上がったペドリ、ガビに続き、ラミン・ヤマルがクラブ史上最年少となる15歳9カ月でトップデビューを飾った。欧州の最前線では明らかに育成の「早回し化」が進んでいる。Z世代の育成論にサイエンスの視点から光を当てると同時に、「今のティーンエージャーは、集中力の持続時間がほとんどゼロに近いところまで下がっている」(アレッサンドロ・フォルミサーノ)というデジタルネイティブ世代に求められる新しい指導アプローチについても考察してみたい。
今回は、U-11のマンチェスター・シティ遠征を通して「シティアカデミーの実態」を見てきた横浜F・マリノスの坪倉進弥アカデミーダイレクターに、U-12年代のスカウティングや育成方針について聞いた。後編では、7年前と明らかに変わった欧州U-11世代のサッカーインテリジェンスの進化、そしてデジタルネイティブであるZ世代にどうアプローチすべきかを考えてみた。
7年間で激変。欧州U-11世代の進化とは?
――7年前に坪倉さんがアンデルレヒトで働かれていた頃と比べて、今のアンデルレヒトやシティのU-11のレベルがすごく上がっているというお話をしていただきましたが、その理由は何だと思いますか?
「今のトップレベルの傾向から落とし込まれた指導がされていると感じましたし、逆に5年後10年後を見据えて今後のフットボールはこうなるだろうというのも含めて、今のうちから10代前半の選手に対して、どういうアプローチを取っていくかを考えているからでしょうね」
――今の時代、インターネットを通して情報を取ろうと思えば、いくらでもできますからね。
「おっしゃるように、指導者間での情報の共有化もあると思います。例えば、戦術をどの年代から落とし込むかいろいろ議論されていますよね。僕個人としては、戦術的な要素は後からは身につけるのは簡単ではないと考えています。サッカーの試合をする上で、戦術というのは外せない要素だと思うんですよね。低い年代から技術、フィジカルを高めつつ、戦術の理解も進めていく必要があります。ただ低年齢になるとチーム戦術となるとハードルが高くなるので、個人戦術から始まって数人のグループ戦術、そしてチーム戦術へとつなげていく。
シティのコーチは教え方も工夫していて、アナリストグループのリーダーにも話を聞いたんですけれども、例えばU-11の選手に対しての映像を使ったフィードバックをクイズ形式にしたりしています。シュートシーンの映像を使って、パッと一時停止して『はい、ここからこの選手はどうやって点を決めるでしょう?』と三択で聞いたり、自分で体験したプレーだけではなく、他の選手の映像からも自由に学ばせる」
――面白いですね。「戦術を教えるべきか問題」は誤解もあるのかなと思っていて、指導者が『こうやれ』と言ったことをそのままやらせると誤解されているんじゃないでしょうか。戦術って3人がこういう関係性の時はこう動いた方がいい、ここにパスをした方がいいという定石も含めての戦術だと思うので、それは普遍的なものですよね。逆にそれを知らないと、上手くサッカーができないと思うので。
「U-11、12の年代でも選手の頭の中が止まらないところが、僕がアンデルレヒトにいた7年前と比べると明らかに変わったなと。プレー中の集中力、戦術的な集中力が途切れない。以前は良い時は良いけどダメになる時は全然プレーの思考が止まっている子が多かったんです。ポテンシャルはすごく高いけど、1試合の中での波が大きかった。逆に、集中力の維持というのは日本人のストロングポイントだと思っているんですけど、ただそれがもうそうじゃなくなってきているなと今回感じましたね。欧州の子たちも同じようになってきているから」
――昔、波があった国もそれがなくなってきている。おそらく、それこそが幼少期からの育成の賜物なんでしょうね。
「特に戦術理解度に関していえば、向こうの子たちの方が自然と体現できると感じました。そういった意味で7年前と比べると、僕個人の印象ですけど、向こうはだいぶ急ピッチに進んでいるなと感じてしまいましたね。U-16の遠征よりも今回のU-11の大会の方が衝撃でした。このままじゃヤバいぞと、差が開く一方だぞ、という危惧はありますね」
――今のサッカーはサッカーインテリジェンスが求められるとよく言われますが、自分で判断できたり自分で考えてプレーできることに関して、シティ出身者はかなり優れている印象があります。
「その代表例がフィル・フォデンやリコ・ルイスですよね。彼らの育成に携わったコーチたちにどう育ったのかというのも聞きました。『別に特別なことはしてないよ。彼らは学ぶ意欲と向上心がずっと継続的に発揮できていた選手だった』と。例えばフォデンはEDSに昇格した後、トップチームと行ったり来たりしていた。その前にもU-18に行ってEDSに戻ってとかもあったそうです。1度飛び級すると、『俺はもう上でやっているから』と戻った時の振る舞いがだいぶ変わっちゃう選手がいます。ただ、フォデンやリコ・ルイスは一切そういうことがなかったと。学ぶ意欲がすごく高く、なおかつ謙虚。どういった環境であろうとその環境の中で最大限力を発揮する、成長しようとする意欲が継続して発揮できていたと評価していました。結局、上に行くのはそういう選手で、小さい頃からのサッカーに向き合う姿勢だったり、人としての在り方ですよね。そういう部分を低年齢から指導しているから、こうやってU-12から多くの選手がEDSにたどり着いているんだと胸を張っていました。それを体現しているフォデンやリコ・ルイスといったロールモデルもいますし、説得力はありますよね」
――コール・パーマー(現チェルシー)もそうですよね。彼らは8歳とか9歳の時からのシティ生え抜きですからね。地元マンチェスター生まれの選手が世界のトッププレーヤーになっているのは、すごいことだなと。
「本当にそうですよね」
映像とデータによる「成長の可視化」
――移籍の低年齢化が進んでいますが、アカデミーの選手に代理人をつけるタイミングはどんな感じなんでしょう?……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。