言葉と心でJ2昇格へ導いた今治の救世主。衰え知らずの37歳、三門雄大が発揮する混じり気のないキャプテンシー
【特集】チームリーダーの在り方#7
三門雄大(FC今治)
サッカーチームが一つの集団としてまとまるには監督の力はもちろん、選手たちの中にもリーダーが必要だ。カリスマ性、コミュニケーション力、人格、仲間からの信頼、経験や実績……チームリーダーには様々なものが求められ、様々なタイプがいる。Jクラブのキャプテンたちの実情を探ることで、複雑性の高いサッカーというスポーツのリーダーシップの在り方について考えてみたい。
第7回は、言葉と心でFC今治をJ2昇格に導いた三門雄大をピックアップ。衰え知らずの37歳が発揮する混じり気のないキャプテンシーに迫る。
持って生まれたキャプテンシー。アルビレックス新潟、横浜F・マリノス、アビスパ福岡、大宮アルデイージャと、渡り歩いた数々のチームでそのリーダーシップを発揮してきた三門雄大は2022年途中から求めた新天地・FC今治でも、加入3年目にして当然のようにキャプテンマークを左腕に巻いた。
その2024年の今治はシーズン中盤までは好不調の大きな波があったものの、後半戦に突入すると安定的に勝点を積み重ねて一気に躍進。J3第36節、敵地でのガイナーレ鳥取戦でJ3参戦5年目にして、ついに待望のJ2昇格を果たした。
プロ16年の三門のキャリアは常にチームの主力として尽力をしてきたものだが、獲得したタイトルはなく、昇格という誉れにも縁がなかった。そんな中で手にした確かな結果。主将として初めて残した目に見える功績に三門は安堵の表情を見せていた。
「僕はこのクラブをJ2に上げたくてやって来たんで。悲願を達成できてホントにホッとした。キャプテンは昇格か優勝をしなかったら、シーズン最後の挨拶で『目標に達せず、すみませんでした』って言わなきゃいけない。リーグ20チームのうち18チームのキャプテンはそう。でも、今季はやったぞと。俺らやりましたよっていうのをファン、サポーターのみなさんの前で堂々と言える喜び。キャプテンは大変だったけど、ホントにやってよかった」
実は三門、今季は出場時間を大きく減らしている。昨季はリーグ戦全試合に先発出場を果たしたが、今季、自身が主戦場としているボランチのポジションで主軸を担ったのは守備範囲の広さ、ボール奪取力に定評のあるアルゼンチン人、トーマス・モスキオンと攻撃面に強みを持つ中盤のマルチロール、新井光。三門はベンチスタートに回る機会が増え、今季先発出場は8試合のみにとどまった。
ただ、三門の存在感はそれによって薄まるどころか、むしろ強まっているように感じた。それは、ここぞという時に見せた強いキャプテンシー。チームが難局を迎えた時に輝いた三門の熱き振る舞いは昇格に欠かせない力になっていたと言っても過言ではなかった。
河本裕之と中村俊輔に学んだ「肝心なところでの一言」の重み
2024シーズンに臨むにあたって、指揮初年度の服部年宏監督は主将に三門を指名。何度となくその状況に直面してきた三門にとって戸惑うことはなかったはずだが、就任に対して迷いはあったという。
「ハットさん(服部監督)には迷ってるって話をさせてもらった。今までやってきたクラブで僕は昇格をちょっと成し遂げられなかったので、自分のキャプテン像が合ってるのかな、若い選手がキャプテンをやった方が良いんじゃないかなっていうのもあった」
プレー面以外における三門の強みはコミュニケーション力の高さ。細かな気づきも即座にチーム内で共有し、意欲的にチームメートとの意思の疎通を図ってきたが、「福岡や大宮の時って、『お前そこもっと寄せなきゃダメじゃん』『もっと行けよ』とか、細かいことを言うことが多かったけど、言い過ぎているかなと思うところもあった」と、発信する情報が膨らみ過ぎるがゆえに、それぞれの言葉が響かないのではないかというジレンマにも狩られていた。
しかし、今季はその姿に変化があった。……
Profile
松本 隆志
出版社勤務を経て2007年にフリーへ転身。2009年より愛媛FCを中心としたプロサッカークラブの取材活動を始める。サッカー専門紙エルゴラッソ、サッカーダイジェスト等へ寄稿。ライター業とともにフォトグラファーとしても活動する。